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寝る前に読む短い愛の物語  作者: 内藤昴
3/3

ラストレター







拝啓

肌寒い季節となりました。

あなたはお元気になさっていますか?



あなたに褒められた白くてふわふわの柔らかい私の手は、あれから50年も経ったおかげで浅黒くてしわしわで、ささくれの目立つものになりました。



若い頃は鮮やかに彩られた爪先も、今は見る影もなく所々割れたり欠けたり。

ことさら短くして、厚さも薄くなって。



すらっと伸びていた指も関節から曲がってしまって。もうとても綺麗とは言い難いものになりました。






この手でたくさんのものに触れました。






あなたと初めてのデートをした日、洋食屋さんで食べたカツレツは、ナイフとフォークなんかで澄まして食べて。

とても練習したんだと笑うあなたの照れた顔ったら。



川べりを散歩した日、初めて触れたあなたの左手の皮の厚さ。女の私とは大違いで驚きました。



結婚したあの日、両親に手をついて今までお世話になりました。と言ったあの日。

あの日の畳のごわついた感触を、両親の涙を生涯忘れる事はないでしょう。



そして産まれたあなたと私の子を初めて腕に抱いた日。

小さなその手は紅葉みたいに真っ赤で。

そして簡単に傷付いてしまいそうなくらい柔らかくて。

あなたの固い手で触れさせるのをちょっとだけ不安に思ったんですよ。



お鍋をひっくり返して火傷した日。

あの子に怪我がなくて何よりだったと言うと、あなたはお前の手が大丈夫じゃないと怒りましたね。

あなたは昔から私の手が好きだったから。

私とではなく、私の手と結婚したんですか?と聞いたら笑っていましたね。



あなたがいなくなってしまったあの日。

あなたの固い左手は、とてもとても冷たくて。

川べりで触れたあの日のあなたと同じのものだなんて信じられなくて。







泣いて泣いて。





この手も泣き濡れて。







あれからもたくさんのものに、この手は触れました。



でも、今思い返されるのはあの短かった日々のことばかりで。



あれから褒める人のいなくなった私の手は、綺麗ではなくなりました。







たくさんのものに触れました。



嫌な事も、辛い事も、それでもこの手を褒めてくれる人はいなくて。



たくさんのものに触れました。

たくさんのものに触れました。



きっと、今、泣きながら私の手を握る大きくなったあの子の感触を覚える事が、この手の最期の仕事でしょう。











もう一度だけ、叶うならば


あなたの固い左手に触れて、私の綺麗ではなくなった手を褒めていただきたいのです。



待っていてくださいね。



敬具














fin.

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