車が通るまで
「なあ、何しとん。」
「車通るの見てんだわ。」
歩道橋の上から車道を見下ろす同級生を目撃したのは2時間前。
塾が終わってまた目撃したのが今。
意味がわからなすぎて気になったから声をかけたが、しょうもなさすぎて後悔した。
「意味がわからん。
帰れよ。勉強しろよ。飯食えよ。寝ろよ。」
「お前急に出てきて注文多いな。」
全くこちらに視線を向けないこいつに腹が立つ。
わざわざ歩道橋登って声かけてやってんだからこっち見ろや。
「...なんで車見とんの。」
「父ちゃんが帰ってくるかもしれんから。」
それだけのために2時間も?
ファザコン?いや、お前の親父レアキャラかなんかなんか?
「母ちゃんが泣くからな。
帰って来たらいいなと思って。」
「...お前の親父いつから帰ってないの?」
「3年前。」
「...」
そらお前、出て行ったんやん。
とはさすがに言えなくて黙った。
「今日母ちゃん誕生日だからさ、帰って来ねえかなと思って。」
「...いつ帰るかわからん親父より、お前がいてやった方が母ちゃん嬉しいんじゃねえの?」
そう言うと、やつはやっとこっちを向いた。
「...そうかな。」
「そうだろ。」
歩道橋の手すりを固く握り締めていた手が解けた。
「...馬鹿なことしてねえで帰るか。」
「帰ろうぜ。」
初めて口をきいた同級生の肩を組んで、思春期真っ只中の親を選べない俺達は、歩道橋の階段を降りた。
fin.