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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
転生人生。勇者アレクシス編
4/46

四話。勇者と仲間と不審な聖女


「てっやぁぁぁっ!」


 剣と剣が交差して激しい火花を散らす、そして片方の剣は力負けして、態勢が崩される寸前で剣を弾いて飛び退いた。


 しかし、飛び退いた体が地面に着地するより前に、後ろに下がろうと空中にあるアレクの体を捉えて、腹に蹴りを入れていた。

 土埃を上げて二転三転してから、勢いが止まると、横を向いて痛みに悶えながら、口から胃の内容物をすべて吐き出す。


「踏み込みが甘ぇ。お前は体格が小さい。正面から打ち合うなら一撃で決められる隙を見つけろ。迂闊に飛び込むな。それと退く判断は悪くねぇが、飛び退くなら相手を押し込んで勢いを殺してからだ。押し負けそうなら力を流して横に逃げろ」


 地面に這いつくばって、必死に呼吸を整えるアレクに悪い所を指摘する。


「大丈夫ですか!? アレク様。今回復を!」


 アレクが倒れると同時に駆け寄っていた聖女ルクセリアが、手を当てて回復魔法を唱えようとするのを、俺は魔法を使って阻害そがいして効果の邪魔をする。


「タクトさん何を!」

「俺は言ったはずだぞ。聖女様よ? 訓練の邪魔をするなら二度と訓練所には入れねえって」

「邪魔などしていません! 私はただ傷付いた勇者様を癒そうとっ!」


「それが邪魔だってんだ。立てアレク! お前はそんな打撲程度で音を上げるのか?」


 なるべく冷徹に見下し、アレクへと一歩踏み出した。

 息を整えたアレクはキッと、睨むように見上げる。俺はその目に軽く口角を上げて答えた。


「だい……大丈夫ですっ! やれます!」

「アレク様っ!」 


「良い顔だ。とりあえずはさっきの戦いで何がいけなかった。どうすりゃいいか考えながら走って来い。訓練場を十周だ」

「はいっ!」


 アレクは立ち上がると、汚れを落とすまもなく訓練所の出口へと走っていく。

 地面には一本の訓練用の模擬剣が置きっぱなしになっていた。

 それを拾い上げると、自分のと二本を持って、ベンチのある休憩所に行き腰を降ろした。


 眼の前には腰に手を当て怒っている聖女がいた。僧籍には勿体ない魅惑的な胸を持つ少女が立っている。

 俺はベンチに置いてある革の水筒から水を一口飲むと、軽く喉を潤す程度に飲み込んだ。


「なんだ? 言いたいことがあるならいえよ。それとも教義で禁止されてんのか?」


「あなたは勇者様に厳しすぎますっ! あれでは勇者様が可哀想ですっ!」


「勇者様……勇者様ねぇ。俺は勇者様を鍛えてるつもりはないんでね。強くなりてぇって弟分を育ててるつもりだが?」

「その方が勇者様ですっ!」


「そうかい。んじゃ、お前さんが魔王のところにでも行って手加減してくださいって言ってこいよ。その御立派な胸に詰まってる愛を持って訴えれば聞いてもらえるかもだぜ?」


 そう言いながら顎に手を当てて、丁度座ると眼の前にある双丘をマジマジと見つめながら言った。

 顔を真っ赤にして、胸を抑えて後退るルクセリア。俺はその姿にくつくつと含み笑いを漏らした。


「癒やすのはいい。だが、あんたのは単なる過保護、甘やかしだ。それは人を弱くしても強くはしてくれねえ」

「強さだけが全てじゃないでしょう!」


「そりゃそうだ。だがな。何をするにしても力がなけりゃ単なる綺麗事でしかない。人を助けたい? 大いに結構だ。けどな?」


 ――力の無い輩が言う綺麗事はゴブリンよりもタチが悪りい!


 少しだけ殺気を漏らしながら、言葉を吐き出すと、ルクセリアは腰が抜けたように、その場に尻もちを付いた。


 怖がらせたかと思ったがどうでもいい。俺はアレクとの旅の中で、自分の目的、理想の最後を迎えるって下衆の極みのような人間だが、少なくとも教会やこの世界の人間の一部よりマシだと思っている。


「あいつが勇者だとか。世界の命運だとかどうでもいい。あいつがそれを選んだから最大の協力もするし、オーガにでもなろう。でもな。ガキに何かを押し付けなきゃどうにもならない世界なんか知ったこっちゃねぇよ」


 軽蔑するような眼差しをへたり込むルクセリアへと落としながら、吐き捨てるように言うと、もう何も言うことはないと言わんばかりに二本の模擬剣を持ち、さっきまで立ち会っていた場所へと戻る。


 硬く固められた土の上に二本とも剣を突き立てると、アレクが帰ってくるまで、腕を組んで目を閉じて待つ。



 孤児院を出て四年と少し経つ。アレクは成人の儀と適正の信託も滞りなく終わった。

 もちろん、適正は勇者だった。

 それから国をあげての大騒ぎになった事は言うまでもない。


 国王からは勇者として魔王の討伐の命が下だされ、教会からは聖女の派遣と勇者の称号という有り難くもないものを頂いた。


 そして旅立ちを前に騎士団長に剣を、宮廷魔導師に魔術を教えてもらうこととなったのだが、アレクのやつは師事者に、俺を指名したのだ。

 いくら勇者の適正を与えられても、元は立場の弱い孤児だ。

 断るだろうと思ったんだが、まぁ、あいつは頑固だっからな。


 結局は騎士団長と宮廷魔導師を二対一でぼこぼこにすることで、俺が師匠と納得させた。


 ともあれ、今は旅立ち前の勇者を鍛える時期として、徹底的に痛めつけている最中だ。

 そして教会から派遣された聖女とやらが付いてきたわけだが……。これが曲者だ。


 確かに胸の内に燻る聖属性の輝きを感じる。


 だが、飽く迄も“燻る”なのだ。その輝きはどこかしら歪で、そんな聖属性の輝きは初めて見た。


「タクト。代わろう」


「おう。ガドか。そうだな。そろそろ俺はあっちも見に行かにゃならんからな。こっちは頼まあ」


 訓練所の入口から入ってきた大柄の人物を目に止めた。

 獅子人族のガド・ウルヴ・なんたらつー長ったらしい名前だが、ガドと呼んでいる。


 その俺よりも頭一つ分は大きい体で方にはオーガですら縦に切り裂くほどの巨大な斧を担いで立っていた。


 ガドは俺が見出した冒険者仲間だ。四年という時間で俺は冒険者ランクをSSランクにまで上り詰めていた。


 そしてソロで冒険者をして生きてきた中で唯一、仲間として組んだのが、獣人というだけで誰も組まなかったガドだけだ。


 もちろん胸の内では、どこぞの聖女と違って燦然と輝く聖属性の輝きがある。


「あの監視に気を付けろよ」


「教会の奴はキライだ」


 獅子の顔を微かに歪めたガドに、俺は苦笑を浮かべると厚い胸板に拳を打ち付けると、俺は手を上げて訓練所を後にする。


 そして、ゆっくりとした足取りで、もう一人のパーティーメンバーの元へと向かった。








 訓練所から出て十分も歩けば、俺が定宿にしている金色の鷲亭という宿屋が見える。


 年単位で借りている宿だ。普通ならばAランク以上になると家を借りたり、クランを組んで数パーティー共有の屋敷を買って使用人を雇うものだ。


 たが、俺は生き方が生き方故に屋敷や人を雇うなんて、無闇に後を濁す生き方は出来ないから、宿が一番合っている。


 勝手知ったる自分の宿とばかりに一階の通路を通って、借りている一区画へと向かう。


 一つの区画だ。この宿の特徴として一部の貴族や大商人用に、使用人を連れて入れる小さめの屋敷がある事だ。


 そこを年単位で借りている。宿代は前払いで清掃や食事の提供も含めると、大きな家が土地付き家具付きで買える程度掛かるが、安い買い物だ。


 俺には金なんてもんは全く価値がないのだから、稼いだ分を貯蓄するなんて考えはない。

 一部は貯蓄があるが、死亡が確認されたら、孤児院に遺産が行くようにしてある。


 借りている屋敷には小さいながら庭がついていた。

 剣の素振りには良いが立ち会いするには足りない程度の広さだ。


 今その庭の地面に淡く発光する魔法陣がある。

 その中央に最後のメンバーである俺の弟子が胡座を組んで目を閉じて瞑想していた。


 ツバが広い魔女帽子にローブといった基本的に女の魔導師スタイルだ。

 足音に気付いたのか魔法陣に揺らめきが起きた。


「こら、エル。周囲に気を張るのは良いが、いま揺らいだぞ。精進が足りねぇ」


 魔法陣は燐光を微かに残して、空気に溶け消えると、エルは目を開けると、肩ぐらいに揃えられた赤毛の髪が揺らして振り返って睨みつけてくる。


「それは師匠が悪い。師匠の魔力が干渉した」


 埃を落としながら立ち上がりながら、そっぽを向いて拗ねる姿を見せる姿は酷く幼い。


 だが、見た目通りに幼い訳ではなく、歳ではアレクより一歳だけ年上で、今年で十七歳になる。


「言い訳すんな。干渉式も使ってない魔力が影響するかよ」


「むぅ……」


 俺は苦笑を漏らしながら頭に掌を向けると、エルは素直に帽子を脱いで頭で受け止める。


 一度、くしゃくしゃと撫でてやってから、小さい頭を鷲掴みにする。


「よし、高等基礎からだ。魔力を内で練るんだ」


 俺の言葉に小さくうなずくだけで答えると、エルは体の中に流れる魔力を廻してゆく。

 初めは大きく、少しずつ身体の中心へと小さく縮小させてゆく。


 そして、最後には身体の中心、鳩尾の内側で引き止める。


「よし! そのまま維持だ」


 今度は俺の番だ。魔力をエルの体に流し込むと、魔力玉に向けても纏わり付かせる。


 そしてそっとそれに触れると質の違う魔力同士が干渉し合って不可視の魔力が火花を散らす。


「……っ! ん!」


 エルの顔は見る間に赤く上気して、苦痛とも気持ち悪さともいえない何かで吐息を漏らした。


「おい。ここからだぞ。少しだけ強くいく。境を見極めて上手く押し返せ!」 


 俺は魔力を更に密度を上げて、魔素玉を完全に包み込み。それから握り込むように収縮させる。


「ぐぅっ……くぁあぁぁっ!」


「よし! 息を深く吸って魔素を体に広げろっ!」


 上手く空気が取り込めないのか。金魚のように口をパクパクと開け閉じするだけで呼吸している様子はない。

 魔力は集中力が切れたせいで、纏まりなく体の中に霧散してしまっていた。

 俺はすぐにしゃがみ込んで、鳩尾に手を当てると魔力を直接当てて、横隔膜を叩いて呼吸を助ける。


「かっぁはっ。くはぁはぁはぁぁ……」


 両手をついて地面に四つん這いになりながら、涎を垂らして、荒い息を吐き続ける。


「まだ、キツかったか? お前さんは貯蔵している魔力量に対して器が脆すぎるからな」


「ぐぅっ……だいじょ……ぶ」


「大丈夫だと思ったなら、まだ未熟ってことだ。魔導師は誰よりも、自分に対して冷静に判断できんと大成はできんぞ。まずは自分を見極めろ。そうしたら、自然と今の限界と越え方が見えてくる」


 俺の言葉に今度ばかりは言葉を返すことなく、脂汗まみれで四つん這いに下を向いたまま、こくりと小さく頷いた。


「今は器の修復を頑張れ。手助けしてやるからよ」


 今度は撫で擦るように背中に手を合わせて赤ん坊にするようにリズムよく叩きながら、弱い魔力を強弱つけて柔らかく浸透させる。

 こうすることで魂だかなんだか、精神体だかの傷付いた部分の修復を促すのと同時に痛みや苦しさかを和らげる事ができるのだ。



 旅立ちの日は近いことを感じる。アレクの剣の腕やエルの魔術の才は思っていたよりも強くあった。

 ガドは文句なく戦士としての完成している。


 ただ気になるのは教会から付けられた聖女と呼ばれる者の存在だけだ。


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