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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
二章。花は咲いてこそ華
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【二章】十三話。皇帝陛下

 

 皇族の屋敷で皇女様といえども、寝起きする時間は左程変わるものではない。

 日が沈んで暫くしてから眠りにつき、夜明けと共に起きる。

 特に冬も半ば入ろうといしている季節は、この温暖な国も朝起きるのが億劫になる。

 そんな季節ともあって、皇女殿下の寝所を予め暖めて置く事も、侍女の大切な仕事の一つであった。

 

 そも皇女殿下の寝室は侍女と、特定のハウスメイド以外立ち入り禁止となっている。

 暖炉に火を入れて、室温の管理と湯を入れた革袋でベッドを暖めるのも、私の仕事となっている。


「マイラ。おまたせしました!」


 自室故にノックもなく飛び込むように、部屋に入ってきたのは、主であるアリマ皇女だ。


「おかえりなさい。アリマ様」


 私は口をキツく縛った革袋をベッドから取り出すと、ベッドの毛布を持ち上げて、アリマ皇女を寝所へと導く。

 二人っきりの時に限って、敬語は使わない。

 使うと、アリマ皇女が拗ねてしまうのでしょうがない。


 アリマ皇女は小走りに来ると、淑女らしからぬ様子でベッドへと飛び込んだ。

 私が毛布をそっと体の上に掛けると、私を見上げながら、えへへっと笑う。

 私のほうが二歳年下なのだが、まるで子供のようだと思う。


「じゃあ、今日は昨日の続きがいい!」


 寝る時間だと言うのに、アリマ皇女の目は爛々と輝き眠そうな様子は見えない。

 私が来て、ここの仕事に慣れ始め、アリマ皇女の寝番の仕事を任されるようになってからの日課だ。

 寝番とは言葉のままに、眠っている皇族の側で見守る事を指す。

 基本的には隣室などで、いつ呼び出しをされても良いように待機するものだ。

 だが、冬場は暖炉の火を見張る事と、定期的に空気の入れ替えを行うために同室で待機する。


 私が寝番をするようになってから、寝る前に話を強請るようになった。

 前世の勇者アレクとの日々や、古代王朝が存在していた遥か昔の物語まで、多少は脚色しつつも寝るまでの、暇潰しとして話すようになった。

 

「では、山奥地に生きる古代真龍ハイエンシェントですね」


 遥か昔に出会った。世界と同化した真龍との生活を語り始めた。

 




「すごいね。一面の雲海かぁ。見てみたいなぁ」

「綺麗でしたけども、凍えるような寒さの方が強く覚えています」

「凍えるような寒さって、冬ぐらい?」

「いえ、もっともっとです。鼻から出た水が凍るくらい」


 私が鼻を摘んで辛さを表現すると、ベッドで横になったアリマ皇女が、くすくすと笑い声を上げた。


「寒くても一度見てみたいなあ」

「そうですね。見てもらいたいです」

「鼻水が凍るぐらいだけど?」

「鼻水が凍るぐらいでもです」


 アリマ皇女はベッドの上で私がしたのと同じように、鼻を摘んで見せる。

 私も同じように鼻を摘んだ。

 薄暗く、暖炉の火がパチパチとだけ音を立てる室内に、私と皇女様のくすくすとした笑い声が微かに響いた。


「綺麗なんだろうな。きっと、すごく綺麗で……わ……たしも……」


 話した光景を想像しながら、アリマ皇女は楽しそうな笑みを浮かべながら、ゆっくりと眠りの園へと落ちていった。


「おやすみなさいませ。アリマ皇女殿下」


 眠気を覚まさぬように、囁くように言うと、少しはだけた毛布を掛け直して、暖炉側の椅子へと移動した。

 これから代替一時間おきに空気の入れ替えをしつつ、交代の時間まで過ごす。





 夜明け前にはルーシーが来て交代となり、アリマ皇女の昼食まで睡眠時間となる。

 私が来るまでは、これらを一人でこなしていたのだから、ルーシーとは一体何者なのか気になるところだ。


 あくびを噛み殺しながら、アリマ皇女様のお部屋まで歩いてゆくと、玄関ホールに誰かが入ってくるところが見えた。

 玄関ホールには、上級メイド長の姿が見える事から、それなりの人物が来たことが伺い知れる。


 誰だろう? 私がここでお仕え初めて、今まで来客などは一人として存在していなかった。


 玄関ドアから入ってきた人物を見て固まった。

 遠目から一度だけ見たことがある。

 それは皇帝陛下その人であった。


 皇帝陛下の視線がこっちへと向いたのが解って、慌てて深くカーテシーを行い、その後で右手で心臓の上に手を当てて、深く頭を下げる。


 上位者の場合は決して、こちらから声を掛けてはならない。

 挨拶も相手の許可あってのことだ。


 早く通り過ぎていってください。ただ、そう願うこと以外出来ない。

 願いも虚しく、数人の足音が静かに歩み寄ってくるのがわかった。

 顔が歪みそうになるのを、必死に堪える。


 

「この者は?」


 低過ぎない渋い声が頭の上から聞こえてきた。


「はい。数月より入られた皇女様付きの侍女見習いでございます」


 メイド長のカテジナさんの説明してくれる。


「そうか。あれが言っておったものか。娘よ。頭をあげよ」


 お声掛りを受けて、静かに頭だけを上げる。顔を見る事は決してしない。

 顔は見ないように視線だけは下げているが、見える範囲内に五人いる事が気付いた。

 騎士のブーツが見える事から、皇帝陛下と近衛が三人と行ったところか。あともう一人はカテジナさんが皇帝陛下の後ろに控えている。


「ふむ。名乗る事を許す」

「お初に御目に叶います。皇女殿下付きの侍女として仕えさせて頂いております。マイラと申します。皇帝陛下におかせられてはご機嫌麗しく」


 話しながら、頭の中では間違っていないか。言葉は上手く出ているか不安になる。


「聡いな。マイラ幾つだ?」 

「数えで十になります」


 一問一答するが、全てに緊張が強いられる。

 心の中では非常に不敬だが、さっさと行ってくださいとその思い出一杯だった。

 しかし、次の言葉に頭が真っ白になる。


「ほう。女の徴は来ておるか?」

「……はっ? ……も、申し訳ございません!」


 思わず、問い返すように声を上げてしまって、慌てて謝罪を口にする。

 周囲の近衛がガタリと動くのがわかった。

 流石に聞き返すのは無礼極まりない。

 

「よい。月の物は来ておるのかと聞いておる」

「大変失礼を致しました。まだ、来ておりませぬ」


 流石に皇帝陛下でも女の月の物が来ているかを聞くのはおかしいと内心、首を捻りながらも、今度は間を置かずに答える。

 月の物は基本こないようにしている身からすれば、意味が全くわからなくてもしょうがない。

 体内の魔力操作をすれば、それぐらいならば出来る。


「左様か。やはり女の徴はわからぬものよ。あれにも……アリマにも来ておらぬか?」

「私が知る限りでは来てはおらぬと存じ上げます」


 何だって、そこまで女の月の物に興味があるのか意味がわからん。

 いくら、娘でも女のそういうデリケートな部分には関知しないと思うのだが……

 いや……皇族だと気にしたりするのかな?

 質問の意図もなにもわからない。


 皇帝陛下は聞きたいことを聞いたのか。踵を返して去っていった。

 足音の方向からして、アリマ皇女の居室に向かったのだと思うが、視線を下げたまま、立ち去るのを待った。


 さて、これからどうしようか。

 皇帝陛下の後から部屋に入るのは失礼に当たるし、入室していいのかもわからん。


 迷っていると、カテジナさんが慌てた足取りで、こちらへと向かってきた。


「マイラ様。自室にて待っているようにとのルーシー様が」

「わかりました。カテジナもありがとう」


 皇帝陛下の来訪理由を聞きたいところだが、下手に聞くのも躊躇われるので、大人しくもと来た道を引き返して、自分の部屋に帰る。


 皇帝陛下が娘に会いに来ただけにも思えるけども、どこかおかしく感じる。

 私がここにお仕え始めてから、半年以上経つが、皇帝陛下が来られたのは初めてだ。

 アリマ皇女も基本的には庭を散策することはあっても、帝城へと行かれることは無かったと思う。


 それはそれでおかしい事に今更ながら気付いた。

 皇帝陛下って、アリマ皇女を溺愛してるという話では?


 色々と考えを巡らせていると、部屋にノックの音が飛び込んできた。


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