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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
二章。花は咲いてこそ華
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【二章】四話。デビュタントに向けてのレッスン

 

 講師の手拍子に合わせて、リズムを刻みながら足を運ぶ。

 り足に近い足取りだが、なるべく上半身を左右に揺らさぬよう、それでもステップを綺麗に見えるように、膝だけで上下に上体を揺すりながら足を進ませる。

 

 パンッパンッパンッパンッ……


 まるでメトロノームのように狂いの無いリズム感は、流石は講師に選ばれるだけのことはあった。


 今、踊っているのは『メヌエット』と呼ばれるダンスのステップである。

 これは動き自体は緩慢なのだが、運動量が半端なく大きい。

 

 大体の舞踏会のプログラムは『カドリル』と呼ばれるダンスから始まる。

 舞踏会の主賓や主催者がパートナーを連れて踊りを魅せて、その後で『ガヴォト』『ワールツ』『メヌエット』の順で踊る。


 どうやら帝国では社交会の初顔見せデビュタントは十歳で本格的な社交界に出るらしい。

 そして、レディと認められるのは、十五歳の成人の儀からとなっていた。


「素晴らしいステップですわ。マイラお嬢様。私の教える事などまるで無くて困ってしまいます」

「ありがとう。ユーシィ男爵夫人様。お褒めに預かり光栄に存じ上げますわ」


 綺麗な笑みを浮かべ、胸の前で手を合わせて、感激したように褒めてくれる。

 目の前にはいるのはユーシィ男爵家のミシア夫人だ。


 エルドルトン伯爵派閥の男爵夫人だ。夫を病で亡くしてからは、男爵家は子息が継いでいる。

 未亡人となったミシア婦人は派閥内の子供に礼儀作法を教えてくれる講師になった。 

 


 この世界に来てから、三年の月日が流れても、大したことは起きてはいない。

 俺の念願を叶えくれるような人物に会えるような事もなく、そもそも屋敷の敷地内からでる事すら殆ど無いのだ。


 いくらファンタジーな世界で、回復魔法や魔法のポーションがあると言っても、完璧なものなんか有りはしない。

 未だに回復不可能な病などいくらでもあるし、いくら魔法でも生き返られる事なんか出来はしない。


 だからこそ、この世界では七歳までは基本的に敷地内から貴族の子供が出歩く事は、殆どさせて貰えなかった。

 だが、八歳にまでなった今では違う。今は社交界デビューするために猛特訓中だ。


 貴族としての礼儀作法、ダンスに楽器、やる事は沢山あった。

 

 基礎は大体の所は昔の記憶にあるから問題ないのだけれども、礼儀作法やらは国によって微妙に意味が変わってくるから、昔の変なクセが出てその矯正に一苦労する。


 昔なら貴族の女性が行う。片足を後ろに引いてスカートを摘み上げるカーテシーは一つだけを覚えればよかったのだけど……


 帝国式は普通のカーテシーと、皇族などの格上の相手には、スカートを摘むだけで、膝を曲げて頭を下げることにより、くるぶしを見せてはいけないとか。


 好意を持つ異性に対しては逆に背筋を伸ばしつつ、スカートを摘み上げる事でくるぶしより上まで見せるといった感じになる。

 微妙な差ではあるが、そういう細かいところに目端を利かせるのが貴族という生き物なのだ。


 クイックターン。このダンスのレッスンだが、一番好きな手習いだったりする。

 貴族の舞踏会といえば、優雅で耽美な楚々としたイメージを最初は持っていたが、初めて貴族に生まれた時にその激しさに驚いた。


 確かに優雅に踊るものだが、足腰の使い方が半端じゃない。

 跳ぶ跳ねる回るといった運動が基本だが、緩急を付けつつ、上半身はなるべく揺らさないようにと、見た目と反して一曲ニ曲も踊ればクタクタになる。




 帝都で年頃になった貴族の子らを集めて、社交界の初顔見せで舞踏会が開かれることになっていた。

 八歳から十三歳までの五爵貴族の子供達が集められて、帝城のダンスフロアを使って行う。

 行われるのは五年に一度、皇族も参加するために、貴族に生まれた子供達にとっての憧れの舞踏会だ。


 それが後一ヶ月後に迫っていた。

 私は最年少の八歳で参加だけど、今回は今年で御歳十歳に御成になられる皇族の第四皇女様が参加されるという事で、皆張り切っている。


 講師をしてくださっているミシア婦人も、引く手数多だが、特別に私の講師として来ていただいていた。


 細かい調整こそ必要だったが、教えて貰っている内に、昔の記憶を思い出して、後半からはかなり良くなってきている。

 それと同時に昔の記憶も思い出し、懐かしく感じて楽しくなっていた。


 今は母とミシア婦人の前でカーテシーの最終確認だ。

 まずは立場が上の人に対する膝を曲げつつ、瀬筋を伸ばす。

 しかし、決して声が掛けられるまでは、御尊顔を見たりせずに視線は相手の足元に向ける。


「よろしいですわ。では次をお願いいたします」


 次は立場が同じもしくは下の人間に対する背筋を伸ばし、スカートを摘んで微かに持ち上げる。

 理想はスカートの裾がくるぶしの真横に来るイメージで持ち上げた。

 目を一瞬だけ伏せて、開いて相手の顔に視線を向けるのと同時に、下品にならない程度に口角を持ち上げて微笑みを浮かべる。


「いい顔ですわ。当日は化粧も致しますのでもう少し控えめに笑われてもよろしいかと」


 最後に好意を向ける異性に向けて、誘うように袋はぎの下ぐらいまでスカートを持ち上げて、先程と同じように一度は瞳を伏せた。

 だが、次は目線を相手の目を見ずに、顎先辺りに視線を向けて、口は笑みの形を作らずに目だけを微かに細める程度にする。

 こうすることにより男の自尊心を擽るのが社交界テクニックらしい。


 まぁ、出来うる限り男性との恋愛劇は演じるつもりはないので、特に必要ではないのだが、あくまでも予行演習だった。


素晴らしいグェスターボっ! 完璧ですわ」

「ありがとうございます。ユーシィ男爵婦人様のご指導の賜物ですわ」

「ええ、まったく。流石は社交界の華ですわね。マイラをここまで立派な淑女に生まれ変わらせられるなんて……」


「そんな事はございませんわ。最初から素晴らしくお出来に成られてらっしゃいましたから、何を教えて良いか。大変悩ましいほどでした」


 うふふおほほっと世辞を言い合う。少し遣り過ぎた感はあったが、流石に皇族の前で礼法に失礼があるといけないので、やや本気でやったが、もう少しつたない方が良かったかもしれない。

 少しは不審に思われるかもしれないと思って、用心しておいてよかった。

 一応は社交界作法の講義中は決して見ないようにと家族に釘を刺しておいてのだ。


 ミシア婦人は親に教えてもらったのかと思ってくれるし、家族はミシア婦人が優秀な講師だったと思うぐらいで不審に思われずに済む。


 後は必要な情報を頭の中に叩き込むだけでいい。

 参加する貴族の爵位と名前、特に皇帝の一族、公爵、侯爵の上位貴族は決して間違えることは許されない。

 後は友好にある貴族の名前か。下手に礼儀作法より、こちらのほうが苦労しそうで、今から頭が痛くなってくる。



 溜息を吐きつつも手の中にある舞踏会のプログラムへと目を落とした。

 招待状と共に送られて来たものだが、父が保管している。

 例え私に宛てられたものであろうとも、皇族からの正式な書面である為に、下手に毀損や汚れさせなどしたら不敬に問われる。


 今の時代はそこまで厳格ではないだろうが、一昔前なら皇帝陛下の気分次第では不敬罪に問われた事もあるというのだから驚きだ。


 プログラムにはダンスの手順と曲名が書かれている。

 このプログラムの曲で予め練習してこいと言うことだ。

 更に参加者の家名と招待客の名も書かれている。

 エルドルトン伯爵家の名前があり、私と兄の名前の記載もある。

 だが、その中には参加する皇族の名は記載されていない。

 皇子と皇女という肩書だけが書かれている。

 これも名を紙に記して送るなど不敬とされているからだ。

 だから、参加者といえども当日の入場後にしかわからない。



 もっと気楽な初顔見せデビュタントの方が気が楽だったのだが、欲を言えば内輪だけの舞踏会が気楽に構えられて良かった。


 お陰で皇族のほぼ全員の役職やらフルネームを覚える羽目になってしまった。

 こんな事を言えば、招待されていない子爵男爵の法衣貴族に不敬だと言われそうだけれど。


 楽器ケースからバイオリンによく似たバリオと呼ばれる楽器を取り出した。

 曲調を覚えるのに楽士を呼ぶまでもなく、とりあえずは弾いて覚えるのが一番いい。

 プログラムに書かれていた曲名の楽譜を取り出すと、専用台に乗せてゆっくりと弾き始めた。

 


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