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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
転生人生。勇者アレクシス編
2/46

二話。奴隷と魔王と勇者と別れ


 意識が覚醒かくせいしてくるのがわかる。既にある自我や記憶が薄れて、本来の自我が目覚めてくるのだ。

 目を開けで身体を起こすと、まず手足を確認する。手は小さく足も短いが、揃っている事に安堵した。


 極々まれにあるのだ。目が覚めると四肢が欠損していて不自由することがある。

 今回は健康に近い状態で生きていて良かったと思う。

 とはいえ、栄養状態は非常に悪いようで身体を起き上がらせただけで微かな目眩を感じる。


 まずは周囲を確認するとしますか。

 最初に感じるのは、カビや汚物のすえた匂いとかすかな腐臭、天井近くの壁にある鉄格子の嵌った小窓から差し込む日の光に照らされた周囲は、五歳ぐらい二人の子供が空腹で寝ている姿と、しけった藁が少々か。

 おそらくは手足の様子からして、今の俺も五歳になったばかりのはずだ。


 俺は死にひんさない限りは、必ず五歳で目が覚めるようにしている。

 五歳以下の脳では、自身が持つ膨大な記憶と知識に耐えられないからだ。

 今現在ですらギリギリで知識や記憶の一部を魔導空間に置いておかないと、脳が腫れ上がって死ぬ事になるだろう。


 周囲の状況から間違いなく奴隷スタートしているが、とりあえずは今生の記憶のすくい出しからしますか。




 ……いやはや、今回もえらく不幸な生い立ちで……


 俺の名はタクト、正確には名前は付けられる事はなかったのだが、大抵はタクトにすることにしている。


 生い立ちはとある下級貴族の生まれだが、国家反逆罪に問われて、一族三親等まで死罪となったらしい。

 幸いにも母親は当時、臨月りんげつを迎えていたおかげで、死罪は一時保留されて、俺を出産後に死罪となった。

 俺はというと生まれてなかったんだから、無罪放免……とはいかなかった。


 死罪は免れたものの、生まれながらに奴隷としての身分を与えられて、五歳になった今、出荷待ちらしい。


 なんつーか。無情だねぇ。いやいや、俺可哀想過ぎるだろ!

 よく五歳まで生きてこれたわ。


 まぁ、宗教上最低限の養育はされたらしいが、本当に最低限で、病気にでもなってたらサクッと神が定められたとか言って見捨てられててもおかしくなかった。



 そうとわかったら、さっさとここから脱出するに限る。

 覚醒した俺ならば、この程度の牢獄から脱出するなんて訳はない。

 だけども、そうなると寝てるこの二人の子供が恐らく責めを受けるんだよなぁ。


「ねぇ。君たち起きて……」


「なぁにぃー? ご飯の時間はまだでしょ?」


「うっせぇなぁ。起こすなよ。お腹空くだろ」


 二人の子供は少しだけ目を開いて、面倒くさそうに返事をしてきた。

 いやいやいや、確かに空腹で力が出ないのはわかるけどもとりあえずは起きてもらわにゃ話にならん。


「しゃーない……。クエス・マロ・ダクス・ウル……」


 俺は小さく呪文を唱えて、魔導空間に接続すると、中に入れてある携帯食料と水を取り出した。


 すると、即座に起き上がる二人のお子様、欠食児童は舐めたらいかんね。乾パンみたいな乾燥クッキーで殆ど匂いなんてしないのに反応するんだからな。


 二人は起き上がり、こちらの手に持つものを視認すると、一気に詰め寄ってきた。


「お……おい! それどこで手に入れたんだよっ!?」


「ご飯……ご飯だ……!」


「二人共落ち着いて、これをあげるから……ってああ。一気に食べちゃだめだよ。それ食べると口がパサパサに……はい。水」


 欠食児童けっしょくじどう達は俺から携帯食を奪い取ると、一気に口の中に入れて咀嚼そしゃくしてむせる。

 俺も携帯食を口に入れて、一口だけ革の水筒から水を含んで口の中でふやかす様にして食べる。


 舌に小麦の香ばしさと、微かに入っているドライフルーツが程よく甘みを与えてくれる。


 この携帯食は冒険者の必需品みたいなもので、栄養価は高く。腹もそれなりに膨れる。

 特に中に入っている乾燥プルの実は切って乾燥させると干し葡萄より小さくなるが、水分を含むと小さなリンゴ程の大きさになるために、一つ食べるだけで大人でも腹八分目にはなる。


 子供の小さな胃袋だと言わずもがな、前にいる二人の様子を見ればわかる。


 二人して幸せそうな顔をして、腹を抑えて満足げに撫でている。


「おい。こんなもん。どうやって手に入れたんだよ? 監視から盗ったのか?」



 顔にソバカスが浮かぶ勝ち気そうな男の子が、億劫おっくうそうに、こちらへと問い掛けてきた。


「それは秘密。それよりも僕はこれから脱出するけども、二人はどうする?」


 俺の言葉の意味が解らずに、大人しそうな男の子とソバカスの子供が顔を見合わせた。


「無理だよぉ……こんな鉄の棒も嵌ってるし、それに大人の人も沢山いるんだよぉ?」


「こいつの言うとおりだぜ? 出れるもんなら出てぇけど、無理に決まってるだろ? それよりもさっきのまだ持ってねぇーの?」


「それはまあなんとかなるよ。二人共、出る事には賛成なんだね? それじゃ一緒に脱出しよう!」

「いや、だからさぁ。そん……。っえ?」


 ソバカスの子供の声は途中で驚愕に変わった。


 それもそうだ。気がつけば三人共に外に居たのだ。

 周囲には秋口特有の微かにしおれた草が生えて、少し離れた所には森も見えた。


 頬に風がさっきまでいた牢獄のすえた匂いを吹き飛ばすように撫でてゆき、柔らかい日差しが自由となった三つの小さな影を祝福するよう降り注ぐ。


「……外……? 外だ! なんでなんで? どうして!?」

「お……おい! せつめいしろ! 俺達さっきまであの薄暗いとこにいたよな!? どうやったんだよ!」


 大人しそうな子供の方は、初めて見る外に興奮と感動を隠せずに、いつもは眠そうな眼をこれでもかと開け、空を抱きしめるように両手を広げて小さく跳ねる。


 ソバカスの少年は、俺に食って掛かってくるように肩を掴み。身体を揺すって聞いてきた。

 彼も興奮を隠せないようで、ソバカスが浮いた頬を紅潮させている。


「とりあえずは二人共落ち着いて。説明するから!」


 俺は苦笑しながらも、これはこれで彼らにとってはドラマだろうなんて、場違いに思った。





 とりあえずは二人に夢の中で神様に会ったこと、ここから出して貰えるように頼んだら、ここを出て生きていく方法と出る為の力をもらったことを話した。


 二人共、話を真剣に聞いていたが、神様が出たなんて所で興奮して話を中断したりで、嘘の説明に手間が掛かったが……

 まぁ、子供だから何とか信じてもらえたようだ。


「うーん。よくわかんねぇけど、なんとなくわかった。んで、これからどうすりゃいいんだよ?」


「神様が言っていた孤児院に行った方がいいと思う。その為のお金も“何故か”ポケットに入ってたしね」


 ソバカスの浮いた少年は、難しい表情を浮かべて、必死に考えを纏めているようだ。

 

「そりゃいいけどもよぉ? さっきの説明だと、全員バラバラにならなきゃ駄目なんだろ? なんでだよ。みんな一緒にこじいんとか言う場所に行けばいいんじゃねーか?」


 ソバカスの少年は不満そうに口を尖らせて言ってきた。


 二人はそれでいいかもしれんが、俺には俺の事情があるからなぁ。

 このまま、余裕のある大きな孤児院を見つけ、三人で入って冒険者になり、二人を助けて死ぬなんてドラマも捨てがたい! ……んだけどなぁ。


 覚醒してから少し気になることがあるのだ。故に首を降って答える。


「それは無理だよ。孤児院って所は貧乏らしいから二人は一緒でも、一人は別にならないと住まわせて貰えないらしいよ?」


 罪悪感に胸が痛むが、何とか強引に別れる方向に話を持っていく。


「んじゃ、俺だけ別でいいや。俺は一人でも大丈夫だけど、お前ら心配だしな!」


 嘘だ。はっきりとそうわかる。

 子供なりに必死に虚勢きょせいを張ってはいるが、少し顔は不安げに青ざめて、顔が引きっている。


 良い子だ。乱暴な物言いをするけども、本質は人を思いやり、自分の恐怖心を捻じ伏せられるだけの、高潔さを持っている。

 

 こういう子が将来大成するんだろうな。尊敬する。もしも、俺が自我も記憶も持っていない昔、この子の年ぐらいにここまで人を思い遣れただろうか?

 それを考えると尊敬してやまない。だからこそ、俺は彼を否定しない。


「そうだね。そうしようか? それじゃ二人に神様から貰ったお金を渡しとくね。孤児院でそれを渡して、住まわせてくださいってお願いすれば大丈夫らしいよ」


「本当に別れちゃうの……」


 大人しそうな子供の方も俯いて、心配そうにソバカスの子供に視線を送るが、それに気付いて視線を送られた方はわざと大きく笑みを浮かべて胸を張る。

 俺はそれから魔導空間から出してあった金貨をポケットから取り出して、一枚づつ二人に渡すと、二人は初めて見るお金を珍しそうに摘んで眺めている。


「それじゃあ、もう一度だけ一瞬で移動できるのするから、これで僕は力を使えなくなるらしいからね?」


 二人は貰った金貨を落とさないように握り込むと、大きく頷いた。


「んじゃな! 二人共、俺はデカくなったら冒険者になるから、そんときゃお前らも誘いに行くかんな! 鍛えとけよ!」


「冒険者かぁ……僕になれるのかな?」


「なれるじゃねーよ! なるの! だからさ。それまで二人共お別れだぜ。約束したかんな!」


「あはは、君なら冒険者で英雄になれそうだね!」


「あったりまえだろ! そんときゃお前らもぜってぇ一緒だからよ!」


 強いなぁ。これから離ればなれになる。それが不安でたまらないだろうに、強がって笑顔を浮かべて、心からの言葉で俺達まで力付けようとしている。

 こんな時はどうしようもなく自分が薄汚く、情けなく感じる。

 そして人が放つ、気高く尊い精神に途轍とてつもない愛おしさを感じるのだ。


「じゃあね! いくよ」


「またなっ!」


「うん。元気でね。また会おうね?」

 

 二人共思い思いに声を掛け合いながら笑顔を手を振り合う。


「……ごめんな?」


 えっ? っと二人が少しだけ間の抜けたような声を上げた時には既に姿は消えて、俺だけが草原に取り残されていた。


「はあぁぁぁぁ……」


 二人が消えた草原で大きなため息を吐いて、剥き出しの地面に腰を下ろす。

 両足を投げ出すと、手を支えに背中を反らして、少しだけ暮れた空を眺める。

 渡り鳥が赤くなりかけの空を横切って南に飛んでゆく。

 奇しくもそれは三匹の渡り鳥だった。



 しんどいなぁ……、心からそう思う。

 今頃、転移させた二人は同じ街の孤児院の前で呆然としているかもしれない。


 裏切りとは思わない。当初の予定通り良心的な孤児院に二人を送ったのだ。

 一瞬だが、二人を別々の場所に送ろうかと考えたが、大人しい方の子供は一人にしておけないからの処置だ。

 ソバカスの子供の覚悟を無駄にした形になる。だが、それでいい。

 俺は筋力こそ鍛え直しだが、魔力だけは少なくとも現状で、世界最強レベルだといえる。

 力のない子供と比べるまでもないことだ。


「とはいえ……怒ってるだろうなぁ。それか心配されてるかもしれないなぁ」


 風だけがそよぐ空間で、独り言を呟く。

 三人で同じ孤児院に入り、冒険者となって三人で旅をする。

 それはとても魅力的な未来像だ。喧嘩をするだろう。恋をして冒険者を引退して結婚して、子供が生まれたよなんて言われて酒を飲む。

 それはとんでもない誘惑されるし、それを選べば素晴らしいドラマを描けるだろうとも確信できている。

 だが、それを選ぶことは出来ない。


 生まれ落ちてから妙な胸騒ぎが常に続いているのだ。


「あんまり、これは子供の頭でやりたくないんだけどもな。しゃぁないか……。クルツ・ウル・エンデ・ファブ・デアス。開け。知の門。我が意識を深遠へと導け」


 俺は目を閉じて、世界に繋がる知恵の門に意識を向ける。

 意識体だけ門の内に入り、物理的には目に見えない情報の海を探り出した。



 気がつけば日は暮れて、月が真上に登っていた。

 倒れていた身体を起こそうとすると、激しい痛みが頭を襲う。脳髄のうずいを貫き、頭の中をスプーンで掻き混ぜられてるようだ。


「ぐぅっ! ファム・フル!」


 痛みで割れそうになる頭と意識をむりやり抑えつけて、治癒を自分に掛ける。

 すると瞬時に、頭痛が溶け消えて、逆に過剰分泌されたエンドルフィンで多幸感が訪れる。



「はぁ、はぁ……やっぱりなぁ」


 痛みで荒れていた息を整えながら、知恵の門で得られた情報から、不安は確信へと変わっていた。


「……ここで、魔王復活とか。マジ空気読めや」


 言葉と一緒に深い溜め息を吐く。

 漠然ばくぜんとした胸騒ぎは微かに感じる魔王のものであったのだ。


 ということはだ。逆に言えば魔王と対となる存在も生まれてきているはずである。

 魔に侵略され、疲れ切った人々に希望を与え、平和へと導くための存在。

 世界が生み出したデウスエクスマキナの舞台装置が……そう“勇者”と呼ばれる存在がいるはずである。


 勇者の聖波動は特有の感覚がある。

 魔力に関しての探知は恐ろしいほどの隠蔽力を誇るが、同じ聖の属性を使えば、共鳴するようにわかる。

 勇者が選ばれし仲間を得られるのは、これのおかげだ。


 舞台装置の一部とも言えるが、世界意思とも呼べるものが勇者を生み出すように、それを手助けする存在を作り出す。

 たまに後から付与される場合もあるが、その場合も優れた才能と人格がない限りは付与されることはない。


 俗にいう勇者をほっとけないとか。運命を感じたとかは、この聖属性共鳴による錯覚に近いものがある。


 だからこそ、聖属性を羅針盤のように使うことにより、位置と勇者が生まれて何歳くらいとかがわかる。


 幸いなことに探知を行ってすぐに反応が返ってきた。

 場所はこの大陸の西の大国である『ツェルツンド』の都市だ。

 年齢は現在一歳前後か?


 孤児院に送った二人には悪いが、今回はこっちを優先させて貰うよ。

 なんせ、数百年に一度の大イベントだし、何より勇者をほっとけないしな。



 んじゃまぁ……。いっちょドラマティックに生きますか!



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