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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
転生人生。勇者アレクシス編
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十四話。世界樹と魔獣

 


 真っ暗な闇の中を急ぐ。急ぐと言ってもほぼ全速力だが、周囲を警戒しつつ、張り出した木の根や倒木や藪という障害物の中では、平地での駆け足程度も速度は出ない。


「大丈夫ですかっ?」

「はぁ……はぁ……俺なら大丈夫だから喋るな。舌を噛むぞ。ガドっ!」

「おう!」


 少し右斜め前から、魔狼が飛び出してきた瞬間には、ガドの戦斧が唸りを上げて、首を一刀に叩き落として、首が落ちた体を鈎で引っ掛けて、飛び出してきた藪へと投げ込むと、キャンっと情けない鳴き声が挙がった。

 俺はそれをちらりと確認するに留めて、張り出した根を踏み台に飛び上がって逃れる。

 先程までいた場所を地中から無数の尖った触手が地面から飛び出していた。

 俺はそこに特殊なナイフを投げつけて、地中に対しての石化を掛ける。


 ギガンヨトゥンから逃げ出すこと彼これ数時間経過しているが、魔物との遭遇が果てしなく続いていた。

 ルクセリアはロープでズレないように俺と固定しているが、激しい動きに酔ったのか顔色が悪い。


「くそ。次から次へとキリがねぇ。アレク奴はどうだ?」

「くっ! まだ、だめ。追いついて来ないけど、離れてくれない」

「師匠、大きいの行く!」


 エルの言葉と同時に、ガドを初め全員が足を止める。


「クルア・ソル・ナトゥン・ゼド・バルガゼス。遍く照らせ。明けの陽光。燃やせ燃やせ。焼き照らせ。グルド・ガ・ヴァドス」


 発動に合わせて、みんな一斉に体勢を低く構えて、衝撃に備える。

 直後に巻き起こる大爆発は木々や藪に隠れていた魔物が一瞬で焼かれて、骨も残らず灰になる。

 衝撃波が木々をなぎ倒して、風に翻弄される木の葉のように、太い倒木が容易く宙を飛んでゆく。

 魔法効果はそれだけに留まらない。急激に熱された空気は上昇気流を生み、竜巻となって炎も巻き込んで、巨大な火柱を森の中に生み出した。


「はぁはぁはぁ、これで暫くは大丈夫……。あれで森に道を作っ……えっ?」


 エルは炎の竜巻を使って魔物を殺しながら、道も作ろうと考えたのだろうが、その目論見は即座に打ち壊された。


 ――るぅうぉぉぉおぉぉ……


 遥か後ろから甲高い声が響くと、当時に炎の竜巻は跡形もなく消えて、微かに残されていた火ですらも空気に溶けて消え去った。

 魔導干渉っ!?

 油断していた。距離は全く詰めてくる様子も見せなかった。

 だから、こちらに興味はないと思っていた。あれだけの魔獣なら、少しでもその気になれば一息で俺達など殺せるはずだ。

 

「兄さんっ!」

「し……師匠さまぁ」


 予想もしていない突然の反応にアレクとエルが悲鳴のような声を上げる。


「ガドっ! ルクセリアとエルを頼む! エルはルクセリアに魔力譲渡しろ。俺がラインで補助する。アレク!」


 ルクセリアと繋がっていたロープをシミターで断ち切ると、ガドへと放り投げた。可愛く悲鳴を上げて宙を舞ったが、ガドが上手くルクセリアをキャッチした。エルも直ぐにガドの傍に走る。

 俺とアレクは剣を構えて、後ろを睨む。

 一キロルほど離れた場所に変わらずギガンヨトゥンがのそりとこちらへと顔を向けた。


「アレク、無理はするな。いざとなればガドと先にいけ」

「でも、兄さん!」

「でもじゃねぇ。お前がやる事を間違えんな!」


 ゆっくりとギガンヨトゥンが、明確な意図を持って、こちらへと意識を向けたのが、本能的にわかった。

 恐らくは向こうとしてはこちらに、少し意識を俺達へと向けただけなのだろう。

 たったそれだけで濃密な死の気配が辺りを包み込む。気の弱いものならばそれだけで生きる事を諦めそうになるだろう。

 元に隣からはがちがちと歯の鳴る音が聞こえてきた。

 剣士としても一流に足を突っ込んだアレクですら、恐怖心を抑えきれない程だということだ。


「あ……アレク、合図をしたら走れ。ガドも後ろを一切気にせずに二人を抱えて走れ……アレク……? アレクっ!」

 余りの濃厚な死の気配に取り込まれていたアレクは、返事もできずに石になったように硬直していた。

 俺はその横っ面を殴りつけて正気へと戻す。


「しっかりしろっ! 男だろ! 死にかけてるぐらいで固まってんじゃねえ」

「ご、ごめんなさ……」

「いいから走れっ! 全力で輪の指し示す方へと行けっ! 俺もすぐに行くっ!」


 正気戻ったアレクは、ガドの元へと走る。

 流石はというか。歴戦のガドは猛烈な気に当てられて気絶しているルクセリアとエルを抱えて、走る準備をととのえていた。


「ちっ。取って置きだってのに……。お前さんに使うにゃもってこいだぜ」


 魔導倉庫に手を入れて取って起きのアイテムを取り出す。

 それは小振りな林檎に細い茨が複雑に絡みついた代物だった。


「全員走れぇぇぇ!」


 俺の絶叫と共に、ギガンヨトゥンも行動を起こしていた。

 先程までのゆっくりした動きとは打って変わって、滑るように一瞬で一キロルもの距離を詰めて来たのだ。


 ――ぐるぅおぅぅぅぅっ!


 咆哮を上げて迫る姿は正しく敵意を持って向かってきていることを明確にしているようだ。

 俺はその行く手を阻むように立ち、ギガンヨトゥンに向かって手にしている林檎の呪具を投げつける。


「シャルハドサルムンナ。ルエルエテナラシール」


 素早く魔術を口にすると、林檎は空中で破裂して、四方八方に茨の蔦を伸ばし、迫ってきていたギガンヨトゥンをも飲み込んで、尚広がり続ける。

 俺が林檎を投げた先には、先程までの無かったのに樹齢数百年の巨木が生えていた。

 それはなおも成長していて、その高さも太さも数百年の樹齢が、数千年になっているほどになり、高さも雲より高くそびえ立つ。

 それは世界樹と呼ばれるに足る威容を示していた。

 その世界でも有数に数えられそうな巨木から、禍々しい赤い色をした茨が縦横無尽に生えて、ギガンヨトゥンを完全に包み込んでいた。


「……この世で最後の一つだったんだがなぁ。本当に勿体ないが、相手が相手だからどうしようもないか」


 俺は溜息を履きつつ、仲間達が走り去っていった方へと走り始めた時に、その音は聞こえた。

 聞き間違いはない。バキリという不吉な音が耳に届いたのだ。


「おいおいおいおい! 嘘だろっ!? 世界樹の呪縛だぞ!」


 信じられない言葉とは裏腹に茨の塊から、茨を引き千切る音が聞こえてくる。

 そして亀裂の入った隙間から、ギガンヨトゥンの赤く光る目が覗いているのが見えた。

 亀裂は徐々に大きくなっているようだが、流石のギガンヨトゥンでも簡単には抜け出せなようで、もがき苦しんでいる。


「くそ! 逃げるしかねぇだろ。あんなもんに殺されたら犬死もいいところだっ!」


 俺はもう後ろを振り返ることなく、ルクセリアとの魔力ラインを目印に一心不乱に走り続けた。

 後ろからは頭が出てこれたのか。なんとも言えない無念さに満ちた咆哮が聞こえてきたのだった。


 ガド達に追いついたのはそれから暫くしての事だ。深層に入る手前にそれはあった。


 白亜の遺跡と呼べる原型を完全に留めている遺跡が森の中では異彩を放っている。

 王城程もある神殿に近しい建物があり、その周囲の数百メルトには一本の木も生えていなかった。

 芝生の様な地面に石畳とそこだけ切り取られて、古代王朝時代から時間が止まっているようにすら感じる。

 その芝生になっている空間の手前で、ガド達一行は立ち止まり、慎重に遺跡のある空間と周囲を警戒していた。


「兄さんっ! 良かった……」


 俺の姿を見つけたアレクが、喜びの声を上げるのを、手を上げて答える。

 そして、遺跡を見つめているガドの横になり並んだ。


「ガド……。これは一体……」

「タクト、無事だったか。わからん。輪に導かれるままに来たら、これに出くわした。輪の指し示す方角からして、この中が目的地になっているようなんだが、迂闊に入れん」


 俺は慎重に手を芝生と原生の草が分かたれている空間に触れさせてみるが、途中で少しだけ低こうを感じるが、何も起きずに素通りする。


「攻勢防御結界の類じゃなさそうだが……。こんな結界は初めて見るぞ」

「お前でもわからんか? さてどうしたものか。……ところで、あの化け物はどうなった?」


 ガドは少しばかり期待の篭もった眼で尋ねてくるが、俺は手を広げ、肩を竦めて見せる。


「俺の奥の手の中でも取って置きを使ったんだが、時間稼ぎが精々だ。諦めてくれりゃいいんだが……」

「やはり、ここでまごついてるわけにはいかんか?」


 ガドも解っている。奴がこちらに向けた意識は明確に敵意を、細かく言えば殺意を抱いていることに、そうでなくては俺やガドですら死をイメージするほどの気配を感じるわけがない。

 もっとも、中に入ったからとて安全とは限らない。それでもこの森の中よりかはマシである。


「ここからは俺が先頭を行く。ガドはエル達に気つけで起こしてくれ。魔力の補助をさせたい」

「わかった」

「アレクは俺の後ろについてカバーしてくれ。中は何が起こるかわからん」

「はい。警戒とルクセリアさん達のガードですね」

「そうだ。どちらにも対応できるようにしてくれ」


 一歩、足を踏み入れた時に、遥か後ろで爆音が響いてきた。恐らくギガンヨトゥンが茨から抜け出し、世界樹の魔術が解けて倒されたのだろう。

 俺が後ろにいる仲間と顔を合わせると、警戒しつつも、足早に結界の中へ。さらには遺跡の内部に向かって進み始めた。

 進むも地獄、引くも地獄なら進むしかないのだから。



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