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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
転生人生。勇者アレクシス編
14/46

十二話。侵入、魔の森と甘えたいお年頃


 翌日もよく晴れた。

 食事も野営にしては豪華なガドが取ってきた野ウサギとグルカ野菜と呼ばれる滋養の強い物と、いくつかの野菜を煮込んだスープとパン。朝食も昨夜のスープの残りに麦を入れて柔らかく煮た物を食べる。

 これも冒険者としての心構えの一つだ。ダンジョンを始め危険な場所に望む際には、中で食事といっても煮炊きが出来ない事の方が多いゆえに、挑む前には手間が掛かっても、美味くて滋養の高い物を食べる。

 何より危険な場所に挑むなら、最後のまともな食事になるかもしれないのだ。



「よし、準備はいいな?」


 俺の言葉にみんなは短い返事だけで答える。

 ここにいる全員が理解している。この結界を超えた先は既に死地であると、本能的に理解出来ている。


「ここから俺は最大限、自分とルクセリアの命を守る事だけに集中する。昨日の夜にも話たが、指示はアレクがだせ」

「はいっ!」

「よし。行くぞ」


 俺達は最後の安全地帯とも言える結界を、強い気持ちで一歩踏み込んだ。

 森の空気は違うと俗に言うが、一歩踏み込むと世界が違っていた。

 周囲からむせ返る様な魔力と気配がねっとりと身体に絡み付く。

 この魔力が回復や魔法に使えればいいのだが、あまりにも濃すぎて、顕在魔力の回復ですら、森の外より遅くなるほどだ。

 何より気力がごりごりと削られていく音が聞こえそうなほどの濃密な気配は、魔物の体内に飲み込まれたようにも感じる。


「これが魔の森……」


 アレクの顔は強張りやや青褪あおざめている。

 無理もない。表層なら転生前を含めると三桁に届く程は来ているが、未だに慣れずに緊張する。


「さてと、ルクセリア」

「はいっ!」


 ルクセリアは俺の横に立って地面に向かい、ルクルの枝で複雑に編んだ輪を投げる。


「クォルフェスフェスルドサリテサドメルン」


 何語かわからない言葉を発すると、先程投げた輪が微かに燐光を放って浮かび上がると、フヨフヨとルクセリアの身体を回る。

 しばらく不安定にフヨフヨと浮いていたが、ある方向で動きが止まった。


「やった。出来ましたっ!」 

「うん。良く出来てる。やっぱり手先が器用だからこっちに向いているんだな」

「師匠、これなに?」


 エルは興味深そうに浮いている輪っかを突くが、衝撃で揺れることはあっても動いたりはしない。


「失せ物探しの一種だ。まぁ、気休めだがな。天地流転流るるを知るってな」

「なんです? それは」

「アールヴに教えて貰った言葉だ。ようは自然やこの世は流れる先が必ずあり、そこに流れ着くって運命論みたいもんだ」


 隊列としては戦闘を先頭をガドが行き、中衛遊撃にアレクが、そして一番後ろを俺が歩いて、挟み込むようにルクセリアとエルが並ぶ。


 俺達は呑気に喋りながら、輪が指し示す方向に歩いているが、警戒を怠っている訳ではない。


 この森では緊張こそが真の敵なのだ。

 緊張して警戒しすぎると、居もしない魔獣に襲われる感覚に襲われて、逆に隙が多くなる。

 即座に反応できるように、ガドもアレクも俺も剣に手を置いて、エルも常に魔法感知を掛け続けている。


「本当に厄介な森だな。風もないのに葉は揺れるし、木が軋む音を立てる」

「本当ですね。それでガドさんはその戦斧を森の中でも使うんですか?」

「そうだが?」

「取り回しが聞かなくないですか?」


 肩に背負う戦斧を見ながらアレクがガドに問いかける。


「慣れている。それにこの戦斧の長柄はバランスさえ慣れれば、短く持って使える」

「そんなもん。出来るのはお前の馬鹿力ぐらいなもんだ。アレク、それにガドの手甲は特別性だからな。戦斧を使わなくても強い」


 へえっと感心した口調で、アレクはガドの戦斧を握る手を見つめている。

 ちなみに俺は愛用のロングソードは魔導倉庫に収納してある。

 腰に吊っているのは小振りのシミターを二本だ。

 防御にはこれが一番いい。




 どれぐらい歩いたのか。時折、先頭をゆくガドがヤブを払い。低木を乗り越えて道なき道を行く。

 朝に森に入ってから、結構な時間を歩いているが、数キルトも歩けていないだろう。

 少しだけ開けた所に出ると、ガドは足を止めた。


「ここで休憩しよう」

「まだ、いけますよ?」

「駄目だ。疲れたと思う前に休む。疲れてから休むと咄嗟に動けなくなる」

「ああ、それにこっちは女性もいる。休憩は小まめに取らないとな」


 アレクは自分の浅はかな考えに、少し恥ずかしそうに俯いた。


「少しづつ覚えていきゃいい。迷ったらガドにでも相談しろ。俺よりも大先輩だ」


 少し驚いた顔を浮かべたがすぐに頷いた。


「くくっ、タクトより大先輩と言われては恥ずかしいな。お前の方が先達に感じることのほうが多い」

「そうか? 俺は高々五年の冒険者だ。知識だけある感じだよ」

「そういう事にしておくとしよう」


 ガドが珍しく照れているようだ。俺が冒険者に成り立ての時には既にAランク冒険者だった。

 冒険者は基本Dからスタートして、功績を積みつつ、一定額を納めると上に行けるシステムだ。ぶっちゃけて言うと、大富豪がAランクまでは金で買うことができる。だから、貴族のボンボンに泊付けの為だけにAランクにしてやる貴族も少なくない。

 冒険者ギルドの大切な収入源なのだ。


 そんな中でも実力でAに上がるのは並大抵の事では無い。特に獣人族は差別的に扱われる為に、ランクは上がりにくい。

 俺がガドと組んでやり始めた頃にはSに上がっていたが、俺から見ればSSの実力はあった。

 それでもこの獣人は驕ることがない。驕る人間を多く見てきたせいもあるのだろうが、器が大きいのだろう。



 ふと見ると倒れて苔むした木に座るエルが、難しい顔をしていた。


「エル。どうした?」

「むぅ。魔力が強すぎて感知がし辛い」


 俺は立ち上がって、エルの元まで行くと、とんがり帽子を取って頭を撫でてやる。

 サラサラとした細い毛が心地良い。


「エル、そういう時は考え方を逆にするんだ」


 エルはくすぐったそうにしていたが、その言葉に首を傾げて俺を見上げてくる。


「逆?」

「そうだ。魔力の濃さを見るんじゃなく。魔力の薄い部分を見るんだ」

「薄い方……薄い方……。あっ!」

「見えたか? 空中の魔力濃度の方が強いから、木とかの方が薄く感じるだろう?」


 こくこくと頷くエルの頭をもう一撫でしてから、俺は笑顔で一つ頷いて座っていた岩へと戻った。

 

 視線を感じて首を回して、そちらを見るとルクセリアが、俺とエルを羨ましそうに見ていた。

 やれやれと思いながらも、落とした腰を再度上げると、今度はルクセリアに近寄る。


「どうだ? 上手く編めているか?」


 ルクセリアの手元に握られている。失せ物探しの輪とは、また少し違った小さな草冠を見ると、注意が疎かなになってたのか。乱れが見えている。

 これは昨日から教えたいくつかの魔術の一つだ。

 うさぎの茨と呼ばれる簡易結界を張るための術具である。


「乱れがあると、結界が揺らいで弱くなるからそこは気をつけろな?」

「あっ。いえ、そのすみません……」


 慌てたように一度解き直して、手元を見つめながら、ルクセリアがしゅんとする。

 俺が手を上げると、叱られるとでも思ったのか身を固くした。

 その頭に手の平を乗せて、エルにした様に頭を撫でてやる。


「まぁ、頑張れ。慣れれば簡単に出来るようになる。失敗して学んでいけ」


 頭から手を離すと、ルクセリアが顔を上げて華やいだ笑みを浮かべた。

 その様子に苦笑を浮かべて、岩に戻って座ったところにまた視線を感じて見ると、アレクが……


「お前らいい加減にしろ……年寄りなんだから腰を落ち着かせてくれ」


 俺の言葉にアレクはしゅんと落ち込み。ガドはくつくつと笑う。

 そんなアレクにガドが頭を撫でている。


「まるで父親だな」


 ガドのからかう言葉に俺は少し大袈裟に肩を竦めて見せる。


「大きい子供達だよ。まっ、そこがまた可愛いんだがな?」


 その言葉にアレクとエルとルクセリアが顔を真っ赤に染めて、それを見たガドと俺は声を上げて笑った。

 

 その日は休憩した場所からさらに数時間進んでから野営となった。

 まだ、浅層と言うことと先日の魔物の群れが外に出た事により、このあたりはまだ落ち着いているようで、戦闘らしい戦闘は起きなかった。


 明日もこの調子で行けばいいと願って入るか。反対に決して明日はこれほど楽には進ませてくれないだろうとも感じていた。


楽しんで頂けると幸いです。

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