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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
転生人生。勇者アレクシス編
13/46

十一話。到達した禁忌の地


 城主に掛け合って、城塞都市の中でも指折りの走竜を借りることが出来た。

 まぁ、それは教会に借りを作れるのと、魔の森の危険度を調べるための調査といえば、快く貸してくれもするだろう。

 七日掛かる所を五日で来れたのは大きい。

 目的地の正確な場所もわからないのだから、時間はいくらあっても足りはしないのだ。


 眼の前には鬱蒼うっそうと茂る森が広が、あまりにも暗かった陽の光が届かないだけでは無い。

 得も言えない雰囲気も相まって、まるで闇のベールに包まれているように、奥は真っ暗で何も見えない。


「師匠……」

「気付いたか?」


 脇にいるエルが感知して、不安そうな表情を浮かべて見上げていた。


「なんなのですか?」


 すぐ後ろから声が掛けられた。背負われているルクセリアだ。背中に素晴らしい二つの圧力を感じる。

 パスで魔力を補充するより、身体を接している方がロスが少ないのだ。

 だから、決して背中の感触を楽しむためではないっ!


「魔力が全く無い」


 そう、森の周りは全くと言っていいほど、魔力が存在していない。


「ここだけじゃないぞ? 森の中はそうじゃないが森の周りは魔力を弾く結界が張ってある」

「気持ち悪い……すごく奇妙」


「だろうな。これは世界に散る五匹の始祖龍が張った結界だ。この結界のお陰で魔の森にいる魔物が普段から出てこれなくしている」

「本当にタクト様はなんでもご存知なのですね?」

「その始祖龍の一人と知り合いだからな」


 エルは驚いた表情を浮かべるが、冗談だと思ったのか。後ろからくすくすと鈴が転がるような笑い声が聞こえてきた。

 城塞都市で起きたあの時から、ルクセリアから険が取れたように、よく笑うようになった。

 恐らくは背負っていたものが取れたのか。もしくは何かしらの変化があったのか。俺に対してもつんけんせずに、普通に話してよく笑う。


「だが、森の中はそうでもない。これほどの気配があるとはな。話に聞いてはいたが一筋縄ではいかんようだ」

「凄まじい気配です。これじゃ気配から魔物が襲ってくるのを判別できない」


 アレクとガドも魔の森の恐ろしさが片鱗でも理解したようだ。


「そうだ。正確にはここの木も魔物化しているからな。襲ってきたりはしないが、魔物と同じように気配だけがある。目や耳、気配も何もかもが当てにならないと思えよ」


 俺は懐から数本の杭を取り出すと、地面に突き刺して、袋から特別に調合した粉を杭を繋ぐように撒いてゆく。そしてそこへ竜車と走竜を入れる。


「それは?」


 興味津々に作業を見守っていたルクセリアが、背中から問い掛けてくる。


「こいつは結界の一種だ。手間は掛かるがある程度を事前に準備すれば、魔力を持たない人間にもできる。自然魔術ってやつだな」

「えっ? それってあの伝承のエルフが使う魔術ですか!?」

「正確にはアールヴだな。森の奥深くに住んでいるのがエルフ。森から出たエルフはアールヴの烙印を押されて、二度と森の聖地には帰れなくなる」


 両者ともに誇りを持っているから間違えるなよと言って締めくくる。

 アールヴはエルフに間違われるのは我慢出来ないし、エルフはアールヴに間違われる事を死ぬほど嫌う。

 見た目も同じな同種族にも関わらずである。

 同じようにドワーフはドヴェルグという種族に別れているが、エルフと違って仲がいい。

 ドワーフは金属を加工したりすることを趣味として、ドヴェルグは穴を掘って金属を取り出すという趣味に別れているだけだという。


「アールヴなら割りと人間の社会に溶け込んでるぜ? 魔術で見た目は人間と変わらないようにしてあるが、これも冒険者のアールヴから教えてもらったもんだ」

「冒険者って凄いんですね」

「まぁ、社会的にはろくでなしってイメージがあるがな。よっこらしょっと」

「あの……。重かったですか?」


 申し訳無さそうに言うルクセリアに、乾いた笑いを漏らしつつ、馬車の中へとルクセリアを降ろした。

 この中だとある程度は魔力吸収力が上がるから、いつまでも背負っているよりもいいだろう。


「いやなに、俺も歳なんだよ。かれこれ五千歳だからな」


 腰の後ろをトントンと叩きながら背伸びをすると、またくすくすと笑う声が聞こえた。

 そうだな。冗談みたいだな。だが、それでいい。誰にも理解されない方がいい。

 だが、漸く聖女って肩書が似合うようになってきた。

 笑う姿は陰がなく輝くような笑顔だ。


「さて、そこの獅子とはしゃぐ小僧はキャンプする準備をしろ。今日はここで野営するぞ。森に入るのは明日だ」

「えっ? 早く行った方がいいんじゃ?」


 行く気満々だったアレクはまるで修学旅行に来た高校生のようだ。年齢的には合っているのだが、これからもそれだと困る。


「ガドぉ、指導よろしく!」


 おうと短く一言だけ返ってくると、鈍い音が響いた。


「っつうぅ……何するんですか?」

「アレク、冒険者は焦っちゃだめだ。一度入ったらどうなるかわからん。まともに休める時もあるかわからんから、休める時に休む。休める時を逃すのは助かる事を逃す事だぞ」


 ガドの懇々(こんこん)とした説教に、アレクは反省したように項垂れる。

 俺は何も言わない。アレクにはそろそろ自立が必要な時期だ。

 城塞都市で勇者としての決意と覚悟を決めたのだ。これからはなるべく自身の力でなんとかしなきゃいけない時期が来ているのだ。

 胸に寂寥感せきりょうかんが訪れる。来たるべき日は近付いて来ている事を実感する。


「タクト様?」

「どぅわぁぁっ!」


 いつの間にかルクセリアが俺の顔を覗き込んでいて、驚いて後ろへと倒れ込んだ。


「どうかなさったんですか?」

「いや、なんでもない。なんでもないぞお! そ、それよりなんだ?」


 少しもじもじとしたあとで、食い入るようにこちらに身を乗り出してきた。


「えっとですね。私にその自然魔術を教えて欲しいのです」

「自然魔術を? そりゃまたどうしてだ。お前さんは魔法が使えるだろう?」


 俺は怪訝そうに問いかけると、少し沈んた表情を浮かべる。


「今まではそれでいいと思っていました。でも、思い直したんです。それじゃだめだ。これからも勇者様を支えていくには、足りていないんだって」


 言葉に出して、自分の中にある決意を固めたのか。俺を見つめてくる瞳には力があった。


「なるほどな。別に構わんぜ。ただ、魔法と違って、かなり覚える事が多いから覚悟はしとけ。魔法の感覚の部分を知識で補うわけだからな?」

「はい! えっとそれでタクト様をエル様のように師匠とお呼びしたほうがいいのでしょうか?」 

「むふぅ。だったら私は姉弟子になる」


 どこから現れたのかエルが、馬車の下から顔を覗かせてそんなことを言ってくる。

 俺は得意顔のエルにデコピンをしてやる。


「いらねえよ。そもそも俺は師なんて大仰なもんじゃねえんだ。いつもどおりで構わんよ」

「痛い。師匠は横暴! 私にも魔術を教えるべき!」

「お前は感覚は天才だが、頭はそれほどじゃねえだろ。魔法に集中しろ」


 デコピンされた額を抑えて涙目で非難してくるが、俺はその頭を撫でてやる。

 魔法は感覚、魔力操作と魔法術式の構築は身体の中でするために、感覚に頼る部分が大きいが、自然魔術は調合と手順の記憶に頼る部分が大きい。

 どっちが優れているとかはないが、不得意な部分に手を取られるぐらいならば、得意分野だけに終始するほうがいい。

 エルは俺に訴える事を諦めて、馬車にいるルクセリアと何やら話す事にしたようだ。

 少し離れた場所からは、アレクがガドの指導を受けながら、テントの張り方から見張りの仕方の野営のイロハを実践している声も聞こえる。

 明日には死と隣合わせの森にチャレンジするのだが、今はのんびりとした空気を満喫していたかった。



 夕食も終わり。みんながみんな思い思いに寝るまでの時間を楽しむ。

 いくら、明日森に入ると行っても、日の出と共に入るわけでない。

 寧ろ、ある程度は日が昇ってから入る。

 そうしないと朝もやのせいで、ただでさえ視界の利かない森の中では危険だからだ。

 だから、比較的ゆったりとした時間が流れて、お茶を楽しむ余裕すらあった。


「そこでだ。その手前の隙間に枝を通す」

「んっと、こ……こうですか?」

「そうだ。上手いぞ。もう少し力を込めて強く締めろ。力の強弱、植物の節にすら意味があるから気をつけろ」


 俺は今、焚き火を灯りに自然魔術の手解きをしていた。手先が器用だから、初めてにしては中々の形になっている。


「師匠。これでどう?」


 ルクセリアとは逆側に座って、教えを聞きながら真似をしていたエルが、俺の前にずいっと歪に編まれた枝を差し出してきた。


「おまえなぁ。適当すぎるだろ」

「うぐぅ。難しい!」

「いや、エルに教えてる高等魔術の方が遥かに難しいからな? だから、俺はそっちに集中して欲しいんだよ」


 エルの帽子を脱いだ頭を撫でてやる。それと少し不機嫌だった顔が緩む。

 こいつもなぁ。俺を父親と重ねて見てる節がある。親離れしてくれる事を願うがどうにも甘くなってしまう。


「えっと……次は、ここから外に回してグルリグルリと二回転でいいんですよね?」


 振り返ると手に9割は完成している呪具を乗せて聞いてきた。


「そうだ。そして最後にこのイチイのピンで止めると完成だな」 

「これはどう使うんですか?」


 可愛らしく小首を傾げながら完成した。導きの輪を摘みながら尋ねてきた。


「ん? これは使用者の髪を一本抜いて、このイチイのピンに結ぶ。髪がなければ血を垂らしてもいい。使い方は明日実践で教える。次は呪文だな」


 こうして魔の森という難所に辿り着いた最初の夜が更けていった。

 明日から過酷な旅程が待ち受けている事を誰しも理解していた。

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