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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
転生人生。勇者アレクシス編
12/46

十話。語られざる歴史と温かな涙


 魔族とは何か? 魔王とは何か? それは魔族の根幹こんかんに関わることである。

 この世界にはそもそも魔族と呼ばれる生命体は存在していなかった。

 エルフとアールブ、ドワーフとドヴェルグは存在していたが、基本は多数の人間が占めていたと言ってもいい。


 では、魔族はどこから来たのか? 魔族とは何なのか。

 そもそも、魔族は自然進化から外れた創造生命体だ。

 はるか昔、古代王朝と現在では言われている数千年前の文明社会は、大きな災害に見舞われた。

 それは優れた魔導技術や知識を持ってしても防ぎようが無く。人間そのものを絶滅させかねない程の規模だ。


 それは自業自得とも言える結果だった。魔素嵐と呼ばれるものが発生し始めたのだ。

 今でこそ魔素マナの存在は常識だが、当時の古代王朝では初めて確認された物だ。

 魔素とは魔法を使って物理現象を曲げた結果で生まれる魔力の滓だが、これが人体にとんでもない作用を及ぼすんだ。


 まずはありとあらゆる物質を透過して、魔力を帯びた生物の根源魔力を侵食をする。

 この侵食された魔力は人の魂を腐食する悪性魔力と化す。

 魔力障壁は通り抜けできないことは幸いだったが、人類は生き延びるために常に魔力障壁を張り続けなければならなくなった。

 たちの悪い事に魔力障壁を張ることで、魔素も発生するという悪循環に陥る事になった。


 当時の魔法技師や研究者達は、百年で障壁で防げる魔素濃度を超えると結論を出した。

 そして、一つの解決手段として、魔素に抵抗力の強い生命体を生み出して、人類の魂の転換を行おうとしたのだ。

 それはある意味では大成功とも大失敗したともいえる。


 そうだ。古代の人間が生み出したのが魔王である。

 魔素に強い生命体として生み出したが、魔王は人間とは完全に別の生命体だった為に、魂の移植ともいうべき転換はできなかったが、面白い特性を持っていた。

 魔素を吸収して魔力に変換するという、当時の人間には狂喜乱舞する生命体だったのだ。

 だが、自我すらまともに持っていなかった魔王に魂に近いものを入れて一つのことを命じた。


『人類を守れ!』


 ただ、これだけを命じられた魔王という存在は、忠実に守り始めた。

 まずは魔素を魔力変換させる同族の複製とも言える無性生殖を行い、分裂で子を生み出し始めたのだ。

 魔王はただ魔族を生み出し続けた。なぜならば産み落とされた魔族には、魔王の様な分裂するように生殖することが出来なかったからだ。

 出来る事は人間と同じく胎生での繁殖はんしょくしかできなかった。

 しかも、寿命が長いせいか五十年で一体程度しか産み出せないという非効率さだった。


 緊急性の高さから、魔王が産み出し続けなければならなかったのだ。

 いうならば、魔王は魔族という種の創造主な訳だ。

 だが結果として見れば、魔族が古代王朝を滅ぼしたのだから、人類を救うと言う目的は果たせたが、古代王朝は滅んだのだから成功とも失敗とも言える。




「とまぁ、掻い摘んでだがこんなところだ。要は古代王朝はろくでなし共の集まりだったわけだ」


 滅びて当然だな。っと話し終えると室内は静まり返っている。唾を飲み込むことすら憚られる空気だ。

 エルは何かを言いかけては止めて、ガドは壁に持たれたまま腕を組み目を閉じている。


「タクト様には驚かされますね。それに近い事が教会の秘奥ひおくで記されているそうです」


 そこまで詳細ではありませんでしたが、と弱々しい笑みを浮かべる。


「えっ、人類を守れと言われたのにどうして敵になったのさ」

「魔王は昔も今も人類を守るという点じゃ変わっちゃいないんだろうよ。人類の敵はいつだって増えすぎた人類だからだ」

「どういうこと?」  


 アレクの言葉に、俺が答えるより先に答えたのはエルだった。


「戦争……略奪……私はわかる」


 少ない言葉に込められた思いは苦々しい物が滲んでいた。

 エルの村を襲ったのも人間なら、その人間を生み出したのは元を辿れば、仕事を失った傭兵の成れの果てだ。


「そうだ。それと自滅だな。魔王は忠実に今も人類を守るために、人類を殺してる。増えすぎないように、互いに滅ぼし合わないようにな」


 魔王とは一種の概念兵器だ。例え魔王と魔族すべてを殺したとしても、魔王が復活するとまた増える。

 そうシステム化したものだからだ。


「だからこそ、勇者というシステムも生まれた。アレク、お前はその魔王を止めるための制御だ。復活するべき時ではない時に魔王が復活した場合に止めるためのな」

「どうして……僕なんですか?」

「さあな。それこそ神のみぞ知るって奴だ。だが、お前がやらなくても人類の三割程度を殺すか時間切れを待つって手段もある」

「時間切、れ?」

「魔王は一種の概念だ。魔素を変換し続けられる限りは存在できるか。無くなれば眠りにつく。魔族も魔素を消費しているから、魔族がいる現代ではその時間はかなり少ないと言える。つまりは魔王が存在してられる時間は後一年ってところだろう。力はそこまで大きく振るえないし、その程度の魔素では魔族を生み出す事も出来ない」


 そこで一旦、俺は言葉を切った。


「つまりは全ての狂信化した魔族を殺せば魔王といえども、手足を使えずに時間になれば消滅する。そして俺が全力を振るえば……滅ぼすことはできる」


 アレクを初めエルもガド、病床に臥せるルクセリアですら息を飲む音が聞こえる。

 俺が全力で、本当の意味で全身全霊を使い切り、全ての知識を動員して滅ぼす事に終始すれば、魔族という種族を滅ぼせる。だが、それは俺の命ですら使い捨てるということでもある。

 アレク達はそこまでとは思ってはいまい。俺はエルにも伝えていない古代呪法がある。

 その呪法は根源魔術ですら顕在魔力として使用する事ができる。

 俺はそれでもいいと思う。あくまでも俺の目的は誰かを助ける為に使うべく生きている。

 ただ、ドラマティックにというのは我儘であり、オマケでしかない。

 アレクがそれで笑って暮らせると言うのなら、平和に過ごせると言うのならば否応はない。

 俺は何も言わずに目だけでどうするかを問いかける。

 ルクセリアを救う道を諦めて、安寧を得るか?

真実を知ってなお茨の道を行くのか?


「僕は……孤児院のシスターフレイアが好きです。孤児院にいる妹弟も好きです。ガドさんもエルさんもルクセリアさんも好きです。途中の街で出会った人達もいい人ばかりで好きです。だから、僕はその人達が死ぬかもしれない。傷付くかもしれないのは嫌です」

「ああ、それは俺がなんとかできる。俺が頑張るだけでなんとかなる。お前さんが背負う必要のない命だ」


 俺の言葉にみんな固唾を飲んで見守る。アレクは先程までの弱々しい姿ではない。

 正面に立ち、強い瞳で見つめ返してくる。


「それじゃだめなんだ。それじゃ兄さんが救われないっ! 何より僕が救われないっ! 兄さんに任せた方がきっと上手く行くんだ。そしてそっちの方が早く片付くのもわかるよ」

「そうか? いやそうだな。そうなんだろうな」


 俺は否定することを止めて肯定する。

 確かに、アレクの言う通りだからだ。否定する慰めは逆にアレクの今の覚悟を冒涜することになる。


「だからって、全て兄さんに背負わせるのは間違ってる。魔族が例え人に作られた存在だろうと、全て殺せばいいなんて間違ってる。悪いのはその古代人じゃないか! 人じゃないか。僕が勇者として選ばれたんだから、僕は僕から逃げないっ! 逃げちゃいけない。僕が魔王を倒して終わらせる。その後の事なんて知ったことか!」


 興奮して話したせいか少しだけ息が荒くなり、顔には朱が差している。

 そんなアレクの様子に、眩しそうに目を細めて眺める。

 口元は笑み綻んでいるだろう。


「そうか……。わかった。おい、ルクセリア。意識が戻ったなら魔力を根源に回せるだろう」


 俺の言葉に部屋の空気が動き出した。

 呼ばれたルクセリアは、戸惑いを顔に張り付かせている。


「師匠、買い出しの続き行ってくる」


 エルは笑みを浮かべて椅子から勢いよく立ち上がると、パタパタと足音を立てて外へと駆けていった。


「馬車と馬を手配しよう。いや、走竜がいいか。走りは荒くなるが意識が戻ったのなら問題なかろう」


 ガドは口角を上げるだけの微かな笑みを残して、エルと同じく扉を窮屈そうに潜って、外へと向かった。


「な……に、を?」


 ルクセリアは漸く思考が追いついてきたのか。俺達がこれから何をしようとしているのか理解できたようだ。


「決まってるよ。僕達は魔の森に向かうんだよ」


 アレクは曇りのない笑みをルクセリアへと向ける。

 命を狙われていた? 教会にとって邪魔になる? それがどうしたと言わんばかりだ。


「何を仰ってるんですかっ! 私は……私はっ!」


 ルクセリアは堪らずに起き上がり、ベッドから降りようとしたところを、俺が拳骨を頭に叩き落とす。


「魔力を回せつったろが、さっさとやれ。そうじゃないと、最後まで持たねぇだろ!」

「……っうぅ。タクト様なにを。止めてください。こんな事に時間を使うぐらいなら」

「聞こえなかったのか? お前さんが今更どうだとかこうだとか関係ねえんだよ。俺らの勇者様が仲間だと言ったんだ。だったら助けるのは当たり前なんだよ」


 未だに頭の中が混乱しているのか。ルクセリアは体を起こした状態で頭を降るだけだ。


「間違ってます……私なんかのために……」

「ルクセリア……僕は君が聖女だから。教会から来た人だから助けたい訳じゃないよ。ルクセリアだから助けたい。仲間のルクセリアだから助けたいんだっ!」


 アレクは輝くような笑顔で宣言すると、ルクセリアの頬を雫が伝って、ベッドの布団にシミを作って、それはどんどん大きくなっていった。

 俺は笑みを深めて立ち上がると、アレクの頭を包み込むように撫でて、そっと部屋から出た。


 扉の向こうからは大きな声で泣く女性の声が聞こえてきたが、俺は黙って扉の外に立ち聞いていた。

 勇者様に任せるさ。それくらいの事はしてもらおう。

 あとは俺らも一緒に背負ってやるさ。

 部屋の中から聞こえる泣き声はどことなく幸せそうな響きを含んでいた。


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