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転生人生〜終わりなき転生の果てを彷徨う〜  作者: 黒猫鉤尻尾
転生人生。勇者アレクシス編
1/46

一話 世界は残酷に捕らえ続ける


 元の世界で生きている時は、力があれば正義の味方になりたかった。

 自分の命も顧みず、他人の命を救う。そんな勇者に憧れてた。

 でも、現実は勇者なんて求められていなくて、ただ、周りに迷惑を掛けないことだけが求められる。


 この世界に来た時には、自分は特別なんだと思った。

 けれども、それもまやかしで所詮はちっぽけな自分だけが残された。


 その時が来たら俺は本気になれるんだなんて、自分を誤魔化しながら、でも、決して“その時”なんて永遠にこない。来るはずがない。

 本気の成り方なんて、そんなもの誰よりも自分がわかっていないんだから。


 最初の転生を果たしてまでも……







「あなただけは生きて……」


 そういって彼女は腕の中で冷たくなった。

 助ける方法は知らなかった。力が無かった。知識が無かった。何より真剣に生きて無かった。


         ◆◇◆


「戦いたくなければ、最初からこうすればよかったんだ」


 臆病だった彼は眼の前で自分に刃を突き立てて崩れ落ちた。

 最初の親友だった。彼が死ぬ必要はなかった。ただ、俺が愚かにも国を敵にまわしてしまったから、彼は俺と戦う運命に巻き込まれた。


         ◇◆◇


「救ってくれなんて言わない。でも、どうして殺したんだっ!」


 そういって老人は動かなくなった子供の亡骸を抱いて泣いていた。

 仕方がなかった。俺が見つけた時には手遅れで、禁呪に手を出すほどの覚悟はなかった。


         ◆◇◆


「君はいつまでそうやって生きなければならないんだろうね?」


 そういって魔物だった女性は悲しげに微笑みながら灰となった。

 君がいる場所に行きたいよ。でも、いけないよ。永遠に生きなければ許されない。


         ◇◆◇


「お前は終わりのない終わりだ! 終局の果ての者よ。終わりのない絶望をいき続けろ!」


 ボロを纏った剣士は血と呪詛を吐いて、狂相の笑みを浮かべ地に沈んだ。

 滅びた王国に仕えていた騎士は、憎しみの愚かしさを教えてくれた。そして同時に呪いをこの時に掛けられたのだろう。


         ◆◇◆


「俺は最後まで過去にしがみつく。お前は未来へ行け! それが彼女の望みだ」


 男はそういってかすかな微笑みだけを残して消えた。

 俺が変わりに死ぬはずだった。彼は生きれた人間だった。

 あの時に自分に死ぬ勇気があれば救えた。


         ◇◆◇


「行きたいように生きろ! お前にはその権利がある。俺はその権利を捨てた。道はどこにだって繋がっている。どこにだって行けるさ。どこかに行き着くさ」


 師よ。俺はまだどこにも行きつけないでいるよ。


         ◆◇◆

 

「世界を見た。この世を見た。住まう人を見た。

戦場を見た。平和を謳歌する国を見た。どこもかしこも地獄だよ。世界に天国と地獄があるならこっちの世界は地獄なんだよ」


 古の龍は生きる事に飽きていて、俺と同じく行くつく場所のない同胞だった。

 彼と違ったのは、俺は人で彼は龍で、だから見える景色も違っていた。


         ◇◆◇



「どうすれば貴方の涙を拭えますか? どうすれば貴方の涙を止められますか? どうすれば貴方を殺せますか?」


 唯一、俺が全てを打ち明けた女性は、俺の望みを叶えてくれようとした。

 それでもこうして輪廻に行けずにいる。

 自分が泣いているくせに、人の涙を止めることに必死だった彼女。


         ◆◇◆


「人はどこまでいっても一人、お前も一人、俺も一人、だから、好きに生きろよ。一人ぼっちでもたまには一緒に歩いてくれる気のいいやつは見つかるさ」


 俺は未だに一人、何度も生まれ変わり、自我も記憶も罪も背負って生きなければいけない。

 気の良い奴を探そう。気の良い奴は救おう。

 それが来世を歩く気力になる。


         ◇◆◇


「何故だ。何故だっ! お前が代わりに死ぬのは違うだろう!」


 違うよ。俺が死ぬのが正しいんだ。

 ようやく救えた。ようやく報われた。そしてようやく自分の生に意味が持てた。

 この時から始まったのだろう。無限とも思える己の生を賭す為の旅を……


         ◆◆◆


 あれから何度、死んだだろう? 何度生まれ変わったのだろう?


 気がつけばいつも宇宙のような場所にいて、無数の光の粒子が立ち上る場所へと来ている。


 何百とこの世界に来ただろうか? その度にどうしようもない寂寥感せきりょうかんに襲われた。

 実体がなく宙に浮かんでいる俺の周囲を、下から光の粒子が通り過ぎていく。

 粒子は気泡のように上へ上へと登って行き、光を目で追うと、遥かに頭上に大きな光の川が流れていた。


 感覚的にあの川を構成している光は、生き物の魂と呼ばれるものだとわかる。

 下からは絶えず光は昇って川へと合流する中で、俺だけは登ることも出来ずに取り残されて、ただ見ることしか出来ない。


 本来ならば生を終えた魂は、人も動物もあの川に吸い込まれて、記憶や自我などが洗い流されて生まれ変わるのだろうと思っている。

 しかし、俺は決してあの川へと至る事が出来ない。

 昔、無まれ変わることが疲れた時に、あの川へと登ろうとしたが、今いる場所より決して上に行く事は出来なかった。


 恐らくだが、俺がこの世界の魂ではないからだろう。


 何度も転生を繰り返し、数千年を生きても結局の所で、俺の魂はこの世界では異物でしかないのだ。

 ならば、元の世界に戻してくれればいいのにと思うが、元の世界に戻る方法はない。


 狂えるのならばどれほど楽だろうか?

 自暴自棄じぼうじきになり世界を滅ぼせたらどれほど気が晴れるだろうか?


 だが、それをする事だけは出来ない。人が愛しいと思えるから、人は暖かいと知ってしまうから、そして人に愛されたいから、俺は俺にかせを嵌めて、人に愛し愛されるドラマを望む。




 しかし、本当に俺が消える時はくるのかな?


 なんの因果か、高校文化祭をサボった俺が気付けば、異世界に転生してただなんてな。

 しかも、何度死んでも記憶と意識を持ったまま、同じ世界で別人に転生する。


 生まれては死に、死んでは生まれを繰り返し、人生に飽き飽きして自暴自棄になってた頃、命懸けで人を助けた事がきっかけだった。


 だから、何度でも救おう。何度でも死のう。

 いつかどこかで本当の終わりを迎えた時に、本当にいい人生だったと笑えるように。


 そろそろ、転生が始まるようだ。

 体が下へ下へと引っ張られてゆく。

 次の人生は男か女か。健康か。親はいるのか。

 全てはわからないけれども、これだけは言える。


 活きよう!




「おぎゃぁー! おんぎゃー! んあー!」


「ああ……私の赤ちゃん……ごめんなさい。ごめんなさいね。貴方を産んでしまって……。母を許して……」

 


 

改訂版です。

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