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1円玉


「よろしいかしら、クロガネさん?」

スーツ姿の初老の女性と話をしていたクロガネに、イズミが声をかけた。

「お客様、何か?」

「1円、御返しくださいませ」

イズミがニッコリ笑った。

「1円で御座いますか?何か在りましたでしょうか?」

「えぇ。ここへの入店料マネー1でしたよね?それがチケット持参で半額」

「はい、そうでございますが」

初老の女性がイズミに、返答した。

「こちらは?」

「わたくし、当店の社長、兼ヶ浦椎乃(かねがほしいの)と申します」

カネガホが、たずねたイズミに名刺を差し出し見せるが、すぐに仕舞った。

「では、カネガホ社長、入店料からの1円の返金をお願いします」

「お話が、良くわかりかねますが?」

イズミにクロガネも対峙した。

「今朝のマネー1の円レート……が今日の1日のレートですよね、それが132.398でした、半額で66.199ですよね?5人分、同一先からの引き落としで330.995円。この小数点以下の0.995円が、切り上げになっていました。これを返金願いたいんです」

イズミはモバイルタブレットの画面を示した。

そこには【当店はお会計の小数点以下の端数は切り捨てとなっております(税加算後)】の文字が有った。

「お、お客様、た、只今返金伝票と1円を、お、お持ち致します。し、しばらくお待ちくださいませ」

頭を下げるとクロガネが走った。

「現金ではなく、もとの口座に振り込みで、お願いします。カネガホ社長」

イズミはカネガホに笑いかけた。

「いいこと!もちろん、振り込み手数料は、この店持ちでよ。提携外だから、かなりかかりるわよね、振り込み手数料がね。かなり引かれてたもの」

忽然と、ホムラがイズミの脇に立ったていた。

「確かめたらさ、アル・イスカンダルさんも、他のメーカーさんも、募金は集めて無いってさ」

ハタタも姿を現した。

「ま、説明に、の(ほう)ってたものな、詐欺の常套手段だな」

「そんな!何故小娘がそれを!」

カネガホが吠えた。

「ほら、それじゃ、白状したのといっしょだよ。あたし、ヨーロッパ渡り鳥した帰国子女だから、4ヵ国語くらい会話できるし、読めるんだよ!」

ハタタが吠え返した。

「……払いたくない」

カネガホが呟く。

「……払いたくない……欲しいの……シイノ……ホシイノ!」

獣の様に初老の女は前屈みになり、その目は赤く輝きはじめた。

「やっぱり、ヒポクリスィ・ビリーバーズね!」

「そうみたいだな、自分でホシイノって名乗ったな」

ホムラとハタタが頷きあった。

ヒポクリスィ・ビリーバーズ・ホシイノの振り乱した髪は、重力に逆らって、ライオンのたてがみの様に広がる。

「ギミーユァマニィィィー!」

四つ足で歩きながら、しわがれた声でホシイノが吠えた。

天井の照明、壁の照明のガラスが次々と割れて、三人に降り注ぐ。

「いゃぁ」

イズミが頭を荷物で庇う。

「くぅ、アブね」

ハタタも紙袋をかざした。

「何とかならないのヒデリ!」

すっぽり袋を頭に被ったホムラが叫んだ。

「Gimme your money!」

ホシイノが吠える。

広がった髪の毛がよじれ、ランスの様に、三人を襲う。

「Get out your cash!」

ホシイノが長い爪の生えた前肢で、イズミに斬りかかる。

咄嗟にイズミが叫ぶ。

「スピリチュアル・ニューマーナー(Spiritual Numina)で!呼んでるのだけれど?ヒデリ!」

「ごめん、出遅れたわ!」

忽然とヒデリが現れ、ホシイノの前肢に体当たりした。

ホシイノの前肢は爪を壁に食い込ませもがく。

「Get out your cash!」

また、ホシイノが吠える。

「イズミちゃん、スピリチュアル・ニューマーナーは、今は私にしか呼べないのよ!私をではないのよ!」

「Gimme your money!」

ゆらりと、意志の感じられない動きで、10人以上の女性店員が、三人に群がる。

「ビリーバーズがこんなに!」

ホムラが手刀を出し武道の構えでイズミの前に立つ。

「こっちは、あたしが」

イズミの背中合わせには、拳を握ったハタタがボクシングの構えだ。

「まかせたわよ」

ホムラが腰を落とした。

「Gimme your money!」

ビリーバーズは器用に、ホシイノの髪の毛ランスをよけながら、三人につかみかかる。

ホムラもハタタも、髪の毛ランスとビリーバーズからの防御で手一杯のようだ。

「スピリチュアル・ニューマーナー!太極神座天道(たいきょくかむざすてんどう)!」

ヒデリが叫ぶと小柄な人影が、四つ足で立つホシイノの後ろに決然と現れた。

「天道!リポダッティ・インスティンクト・ピクセルイゼーション!」

ヒデリが更に叫ぶと人影は三人に……ヒポクリフィ・ビリーバーズにも、誰にも判別不能な匿名の外観になった。

「妖精、人使い荒いよ?」

人影から妙に甲高い声が響いた。

「用意は良いわよね?」

ヒデリがたずねた。

「ハァ……良いよ」

甲高い声がため息の後答えるとヒデリが続けた。

「ペインレス・プリアピムス!」

「良いよ」

「タリーワッカー・スラスト!」

「良いよ」

「ヴオォォォ!」

突如ホシイノが動きを止め、吠えた。

人影が甲高い声で苦しげにつぶやいた。

「あっ、キツイ、キツイよこれ!」

「レシプロカッティング!」

人影の言葉は無視して、ヒデリが続ける。

すると至極ゆっくりしたテンポで、手をたたくような音が響き始めた。

「ウォォォ!ウォォォ!」

ホシイノが体を震わせて吠えた。

苦し気な甲高い声が響いた。

「アッ!勝手過ぎる、妖精!アッ!キツイ!」

手をたたくような音がさらに響いてわずかに加速して行く。

「オォォ!オォォ!ウォォォ!」

吠えなからホイシノが身をくねらせる。

突然、全てのビリーバーズが動きを止め、その場に棒立ちになった。

「お客様は、トイレに避難させた」

「何とか押し込んだらさ、上の画廊の人まで、みぃんな入ったよ」

三人に、言いながらヤスミとミノリが走り寄って来た。

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