大舌戦
「貴女では埒があきません!責任者を出してください!」
トイレの非常連絡インターホンを押したホムラは、対応に来た、入り口で会った、黒メガネの女性店員に食ってかかった。
「いえ、私、売り場責任者の鉄調耀が承ります」
ホムラに名刺を差し出しクロガネは一歩も引かない。
「ここトイレが有料って、どういう事ですか!?」
「この建物の賃貸契約時に、私どもと建物のオーナー様の話し合いで決定いたしました。一階の当店と二階の画廊様のお店の二店でこのトイレを使用しなければならない構造ですので、管理の事を考えまして、有料といたしました次第でございます。二階はトイレは存在致しませんので」
クロガネはにっこり笑った。
ホムラは顔をしかめて言葉をつむいだ。
「お金を取るトイレって表示はあるんですか!?」
「また、当店は文房具などのお取り扱いをいたしておりますれば、おちいさいお客様にもわかりやすく、平仮名片、仮名表示もいたしております」
ホムラにクロガネは入り口の表示をしめした。
【Japanese】
【このトイレは、ゆうりょうなトイレです】
【五百円硬貨を御用意願います】
【English】
【The toilet is a pay toilet】
【Yen Five hundreds a coin】
【French】
【Cette toilette est une toilette payante】
【Yen Cinq cents une piece】
そこには、数ヶ国語できちんと表示がなされた両替機が設置されていた。
それを目にしたホムラが、ガックリうなだれた。
「完敗だわ」
ミノリがホムラを押し退け前に出て、黒メガネのグロガネに対峙した。
「わたし、クーリングオフをお願いしたいんだけど」
「……それは、御返品でございます。御返品でしたら、はい、承ります。1週間以内でしたら、レシートを添えてお申し出下さい。そのお品は?」
グロガネは紙袋を持っている、ホムラ、ハタタ、イズミと次々に視線を送った。
「品物ではありません。募金のクーリングオフをしたいんです。わたしたち未成年ですから、クーリングオフは出来るはずです」
「お客様は何か、思い違いをなさっておいではありませんか?」
「な、何がよ」
「クーリングオフは、物品、サービスをお客様と私ども、提供者との間に御取り引きが有った場合に行われる行為で御座います。募金はお客様が御自分の意思で行われた“善意”の行為ではありませんか?私どもは【お願い】をしておりましただけで、義務とは申しておりません」
「そんな……」
「そもそも、お客様が、こちらに御運びいただき、お買い上げいただいた場合にはクーリングオフは請求自体お受けできかねますので、基本的に思い違いをなさっておいでのようですね」
グロガネの言葉に、ミノリが崩れ落ちた。