金が全
ビッビィー。
警報音が小さく流れた。
「アァァー!残高が!」
モバイルタブレットの画面を見て、ヤスミが叫んだ。
「お客様、お静かに願います」
女性店員が静かに言った。
「最低設定募金金額の、お引き落としが出来なかっただけでごさいます」
他の三人もモバイルタブレットの画面を見て絶句した。
「最低金額は、10円じゃないのか?」
ハタタの質問に女性店員が答えた。
「募金は最低マネーが10で一口と表示してございますが?」
女性店員が首をひねる
「10円が一口だと思いって、軽い気持ちで募金したのに!」
ホムラも女性店員に詰め寄る。
「お客様、表示にあるとうり仮想通貨である【マネー】単位で【10】が一口でごさいますが」
「ホムラさん、今朝の円レートを計算すると、マネー1は、円で132.398だから、マネー10が、一口だと……約1323円よ。ホムラさんたちは、それを10ブースにだから、一万三千二百三十九円募金していたのね」
イズミが具体的な数字を出して説明した。
「はい、掲げている表示道理でございます。御協力ありがとうございました」
女性店員が深く頭を下げ、その場を離れていった。
ヤスミが頭をかきむしる。
「これじゃ、更に1割引きで安くても買い物できないよ!」
移動した階段の脇で頭を付き合わせる五人。
「浅はかだった」
「かるい気持ちだったのにな」
ホムラとハタタが互いにため息をつきながら言う。
「募金があんな金額なんて」
「その上、振り込み手数料もひかれてる」
ミノリがイズミにモバイルタブレットを示して言う。
ミノリのチャージ金額の残りはわずかに三桁だ。
「五桁は有ったのに」
ミノリがつぶやく。
ジャージしていないので募金をしなかったイズミはともかく、ホムラ、ミノリやハタタなど五桁有った残高が三桁になった。
ヤスミにいたっては、10ブース目で残高が引き落とし出来ません表示になってしまったのだった。
「……もう、やだ。あたし、トイレってくる」
ヤスミがとぼとぼと大階段の裏のレストスペースに入って行った。
「でえぇぇ!!」
しばらくして、ヤスミの絶叫が響いた。
「!」
ミノリが走る。
ハタタが、ホムラが後を追う。
「……大丈夫ですから、はい。おおげさな人なんで」
荷物を抱えたイズミが、回りの人をごまかしてから、その後を追った。
レストスペースの前で、ひとりの少年がおたおたしていた。
「どうしたの、星くん?」
ホムラが少年……星に声をかけた。
「あ、ホムラさんだ!一緒にきた、ムナギが手を洗いたいって、トイレ来たんだけど、女子のとこから出てこなくて、知ってる人いなくて、ヤスミさん来たから様子見てもらったら、悲鳴が!」
あわてているのか、要領を得ない星の説明だったが、意味を理解したらしいミノリが女子トイレに走り込んだ。
「大丈夫!?」
「あ、ミノリちゃん、小銭ない?五百円だま?」
うずくまって震えている女子に、付き添うようにしゃがんだヤスミが、ミノリにたずねる。
「あ、あるけど?」
ミノリは財布を出して中から五百円だまをヤスミに渡した。
「ヤスミ!」
そこにホムラ、ハタタ、イズミが走りよる。
ヤスミはトイレの個室のドアの並びについている、ポケットティッシュの自動販売機の用なボックスの料金ボックスに、五百円だまを入れた。
緑色に輝く個室の番号表示が、点滅を始めた。
料金ボックスに一番近い番号をヤスミが押す。
ポケットティッシュが1つ出てきた。
そしてその番号の個室のドアが内側に開いた。
「さあ、ムナギちゃん」
うずくまった少女……ムナギを支えてヤスミがその個室にいざなう。
「ヤスミ先輩、ありがとう」
ポケットティッシュを受け取って、消え入りそうな声で、ムナギはヤスミに感謝を告げ、個室のドアを閉じた。
「ここ有料なトイレだったのよ。ムナギちゃん、御腹が緩くなっちゃったみたいで、男の子と一緒だったから、手を洗いたいってここに来たみたい」
ヤスミの説明にハタタが手を打った。
「それで手持ちのお金が足りなくて個室に入れないけど、恥ずかしくて男の子にお金が借りられなくて倒れたんだな」
「そう、ムナギちゃん、手を洗いたいって言っちゃったから。でさ、お願いあるんだ。あたしの分、五百円だま貸して。両替してくれてもいいから」
ヤスミは四人に手を合わせた。