出会い
ホムラがひとつの建物を指差した。
「ここよ、ここ」
駅前に来た5人は、そのレトロモダンな2階建てのビルを見上げた。
「うわ、こりゃお高そうだわ」
ヤスミがつぶやく。
「ほんとう」
ヤスミのブレザーの胸ポケットから、顔をのぞかせ、黄色いラットが声をあげた。
「ヒデリは隠れててよ」
ホムラがハンカチをラット……ヒデリがマスコット人形に見えるようにポケットに入れた。
「あ、かわいい」
イズミがつぶやく。
すると、ヒデリは短い手で恥ずかしそうに顔を隠して言った。
「……そんな、真実をいまさら?」
「そ、そうね、いまさらよね」
イズミが口元をピクピク動かしながら、ぎこちなく微笑んだ。
「なぁに、やってんだか」
ハタタが頭をかいた。
「イズミも大概学習しないのね」
そう言うホムラは腕を組んで、仁王立ち。
「入るんでしょぅ?」
ミノリが店の入り口を指差す。
「いらっしゃいませ。お客様、お徳な入場割引チケットはお持ちですか?全商品付いております値札より、お会計時に十パーセント引かせていただきますが」
あまやかな声をした、髪をアップに結い上げた、スーツに黒メガネの女性店員が、にこやかにヤスミ達にたずねた。
「モバイルチケットで良いんですよね?」
「はい、確認させていただきます」
ホムラの差し出したモバイルタブレットに表示されている、コードに、読み取り機をかざす女性店員。
「こちら、税込入場料の半額チケットは10名様までご利用いただけますが、5名様でのご利用で宜しいでしょうか?」
微笑んだまま、女性店員が続けた。
「300円ちょっとぐらい、あたしがおごるから、良いわよね?」
ホムラが四人を見回す。
「なら、いいよ」
代表したように、ハタタが右手を高く上げた。
「ホムラちゃんありがと」
他の三人も頷く。
「では、おそれいりますが、右手の甲をお出しいただけますでしょうか?」
5人がきょとんとしながら、右手を出すと、女性店員はその手の甲に、判子の様な物を押し当てた。
ピッという音が5回した。
「お客様の人数確認のご登録と、割引対象者のブラックライト対応のスタンプでございます。御支払の際に、お示し下さいませ。表示価格より更に10%の御値引きをさせていただきます。それでは、御案内させていただきます」
入り口のドアを大きく開けて、女性店員が五人を招き入れた。
「みんな、いくわよ!」
真っ先にホムラが、店内に足を踏み入れた。
「ほら、お高いお店は、入場料とか色々面倒臭いじゃない」
エントランスでホムラの後ろを歩きながら、ヤスミが口を尖らせた。
「ヤスミちゃん、ここはミュージアムも兼ねてるから」
イズミがヤスミの耳元でささやく。
「ヤスミは先に、クリームきんとん屋さんの屋台にすれば良かったんだな」
ハタタが笑った。
「…………」
「…………お客様、何か?」
「…………何でもありません」
「では、お買い物をお楽しみくださいませ」
ミノリと女性店員の視線が黒メガネ越しに交錯し、上っ面だけの笑顔が交わされた。
ミノリは女性店員を気にしながらも、エントランスの四人の後を追った。
「いらっしゃいませ。お徳な……〜」
女性店員はあまやかな声で、次の客の対応を始めた。