暗雲よ
「それが、今の次元妖精世界インフェロス(Inferos)の偽帝、バファグリ・ライトサクセサー(Bufugly Rightsuccessor)女王だと?」
「はい、そうなんです」
居間で、英字新聞の上のドラウトが、お茶をすすってるドスコイ初老の言葉に頷いたわ。
「だから、アグリィー・ジューサーパー(Ugly Usurper)様は次期さんのウィアード・インポスター(Weird Imposter)さんを連れて、この世界に逃げて来たのね」
ヤスミおばちゃんも、ママの出したお煎餅をかじりながらドラウトに質問してる。
「はい。そうです。アグリィー様は今は、女帝エンプレス・アグリィー(Empress Ugly)様ですが」
長い固有名詞が多すぎるわ。
敵の親玉は『偽帝』よ。
探すのは『女帝様』と『次期様』で良いわよね?
「色々変わったのね。私達の頃はヒポクリスィ(Hypocrisy)を植え付けられてヒポクリット(Hypocrite)になっちゃった人が敵の首領級だったけど、今の首領級はインフェルノスから来たヴァーチャス(Virtuous)だなんて」
ママのため息。
「その配下だって、怪人クラスのヒポクリスィ・ビリーバーズ(Hypocrisy Believers)、戦闘員のビリーバーズ(Believers)だったのに、怪人がドグマティック・パーソン(dogmatic person)で戦闘員がセルフ・ライチャス(Self Righteous)だなんて、ネーミングが違い過ぎておっちゃんにゃぁ、もう覚えられないね、どうも」
まん丸レモンイエローおっちゃんも言う。
確かに、昔の敵は関連性のある覚えやすさよね。
『ヒポクリスィ』に『ヒポクリット』と『ヒポクリスィ・ビリーバーズ』に『ビリーバーズ』だもの。
ドラウトが言った『バーチャス』と『ドグマティック・パーソン』と『セルフ・ライチャス』は関連性は無い癖に、微妙に語感が似てたりして紛らわしいわね。
『バーチャス』に『ライチャス』なんて『セルフ・バーチャス』って覚えちゃいそうよ。
単純にしちゃえば?
首領級『バーチャス』。
怪人『バーチャス・パーソン』。
戦闘員『パーソン』で良くない?
「俺らは、ヒポクリットを退けながら、アグリィー様達を探したけど、アグリィー様、かくれんぼがお得意で。こりゃ、大変だよナノちゃん」
満月コスプレ親父が、しみじみ言う。
デコボンレスハムヤスミおばちゃんがあたしの背中を叩いた。
力が強いわよ、おばちゃん。
「魔法美少女戦隊のメンバーもナノちゃんが集めるんだよ。大変なんだよ、メンバー集めるのも」
「男でよけりゃ、家に3人もゴロゴロしてらぁ。どうだいナノちゃん、サポートメンバーに家のは?」
タブレットのディスプレイを黄色い親父が見せて来たけど……ドスコイが3人よね。
このむくつけき3人が、この親父が着てる、この王子様衣装で助太刀……嫌過ぎる。
無言でスルーよ、スルー。
「確か、年賀メールに写真があったのよね」
ママのタブレットも出てきたわね。
「同級生のミノリちゃんは、御結婚が早かったから、独りっ子のお嬢さんが……これね」
ママのタブレット画面に赤ちゃん抱いた、アラサー位のおばさんが居る。
黄色の産着の凛々しい眉毛の赤ちゃん……多分話の流れからして、これでも女の子よね。
ママ、これ何年前の画像よ?
「あぁ、御嘉音ちゃんだね。去年出産祝い贈ったな」
黄色い満月が宣う。
去年出産祝い!?
なら今多分1歳児よ!?
ママの同級生どんだけ若作り!?
そもそも産めるの?
「一番におばあちゃんだもんね、ミノリちゃんは」
ボンレスハムヤスミおばちゃん。
はぁ?
「このお孫さんの緒善是くんも凛々しくって可愛わよね」
ママだ。
えぇと、そのミノリさんの娘って、もしかして?
「ねぇママ、もしかして、だっこしてる方?」
「そうよ」
やっぱり!
旦那さん子持ちアラサーの、魔法美少女戦隊メンバーはちょっとなぁ……。
「ハタタちゃんは、まだ未婚でお子さんもちろんいないわよね」
「あんたホムラちゃんとこはどうかしらね?山桜義兄さんと離婚した時に引き取ったヨシくん居たでしょう?」
ヤスミ、イズミおばちゃんコンビの会話ね。
「あ、ヨシくんね。うちの甥っ子ならビジュアルが良いよサポートメンバーにぴったりだ」
甥っ子……またゴッツァンデスなんじゃないの?
まん丸ドスコイが今度はモバイルの画面を見せて来た。
これは確かに美形。
でも、甥っ子なのに衣装はゴスロリよゴスロリ。
何か?
「何処かで見た気がする?」
逢ったことある?
あれ?
「あら、ヨシくんはダメでしょう。芸能人だから」
「そうかい?山桜兄さんはビジュアルバンドのlarge profitのメインボーカルって言ってたけど、おじちゃんにはヨシくんだからなぁ」
これ、お兄ちゃんの好きなバンドのボーカルだよ!
そうよ、前にママに、友達の息子さんだからって、お兄ちゃん逢わせてもらってうれしょんしたのよ!
我が兄ながら、恥ずかし事に!
アルバム『getting rich quick』とか、新曲『make easy profit』とか、最大のヒットの『receiving a windfall』とか引っ提げで、ヨーロッパツアーに行ってるって、お兄ちゃんが嘆いてたような気がする。
ヨーロッパからメンバー呼べないでしょう。
でも、あの王子様衣装でサポートメンバーなら良いかも。
「ムナギちゃんはまだ妊活してるけど授からないんでしょう?」
「そうなのよ、結構大変だって、こないだの商店街の旅行でもぼやいてたわよ」
「あぁ、三巴兄さんも半分諦めてたよ」
その旅行先が東京ネズミィーラットなわけね。
「ケイトさんとラゴゥさんは大学卒業して帰国したから居ないし」
ママが腕を組んだ。
「ブドウさんは独身とうすみたいだってムナギちゃんは言ってたしねぇ……」
ヤスミおばちゃんはお煎餅を食べながら、何か考えてる。
「ビッキ先輩ん所は、どうだい?居たろ、二十歳前の娘」
満月レモンが手を打ったわ。
「確かに19才の娘さん、冴月ちゃんはいるけど、冴月ちゃんは今お婿さんと協議離婚の調停の真っ最中だから、悪いわよ、巻き込んだら」
おばちゃん、そもそも、二十歳前でバツイチの魔法美少女戦隊メンバーは嫌よ。
先代魔法美少女戦隊関係者3人と聞いてたドラウトは揃ってため息をついたの。