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動揺よ

箱は、冷凍庫の邪魔よね。

アイスケーキの箱をバラそう。

中身は……リアル過ぎるラット形の容器に入ったアイスケーキ。

ピンクなイチゴ味、黄色のレモン味、茶色いチョコ味、緑のミント味、ねずみ色の黒ゴマ味。

製作者、どういう趣味よ?

特にチョコ味と黒ゴマ味の色がリアル過ぎ。

とりあえず冷凍庫に突っ込みましょう。

ねずみ色1、2、3、茶色1、2、3、緑の1、2、黄色の1、2、ピンクの1、2、3、バシン。

放り込んだら、可及的速やかに閉めるのよ。

で、落ち着いて箱を見る。

イラストガチャガチャね。

東京ネズミィーラットのラット型アイスケーキ、10個+2個入り。

チョコ味、黒ゴマ味各3個、レモン味、ミント味、イチゴ味各2個入り。

ヤスミおばちゃん達は、東京ネズミィーラットに行ったのね。

あら、合併記念、チョコ味、黒ゴマ味、各1個、合計2個増量ですって。

合併記念って何よ?

説明文は?

『安浦市と濱舞市等が合併したら、東京≪ひがしみやこ≫市が産まれます。これを祈願して、今だけ10個に、お徳に2個増量で12個入り、お値段据え置き合併祈願価格』

この市のネーミングで、良く国土交通産業文化省の許可が降りたわね?

この市の名前はいくら何でも……あ、合併記念じゃないよ、合併祈願だこれ。

それに、産まれました、でなくて、産まれます、だわ。

あぁ、合併した『ら』になってるし!

東京ネズミィーラット、あざといわね。

とにかく、東京ネズミィーラットだからラット形なんだわ。

食品衛生上、良いのかしらこれで?

あれ?

ドラウトが居ない?

確か、掴んだままキッチンに来たはず?

もしかして、どぶねずみの本能が目覚めて、配水管に?

配水管にもディスポーサーが付いてるから、入り込んだらミンチになるわ!

そうなったら大変!

詰まっちゃう!

水でちゃんと流しておかなきゃ!

まずは、シンクに耳を当てて、ディスポーサーの稼働音を確かめよう。

何か、ディスポーサーの回転音じゃない、たたく様な鈍いこもった音が微かにするわね?

配水管じゃない。

どこから聞こえてるのかしら?

床下収納庫……居ない。

シンク下……居ない。

食品ストッカー……居ない。

まさか、全自動調理に?……居なかった。

食洗機……居ない。

レンジ、オーブン、グリル……居ない、居ない、居なかった。

片っ端から収納庫よ、相手はハイブリッドでもどぶねずみなんだから!

どこにも、居ない。

ダストシューターは、死んじゃう死んじゃうって出てきたから、入らないよね。

なら、レンジフードの換気扇。

ぬるりと天井裏に入り込んだら分からないわね。

ハイブリッドでも、どぶねずみだし。

どうしよう。

でも静かになると、まだ、たたく音が微かに……?

まさか、冷蔵庫?

開ける。

捜す。

居ない。

閉める。

野菜室!

開ける。

捜す。

居ない。

閉める。

チルド?

開ける。

捜す。

居ない。

閉める。

製氷室?

開ける。

捜す。

居ない。

閉める。

解凍室!

開ける。

捜す。

居ない。

閉める。

急速冷凍庫!

開ける。

捜す。

居ない。

閉める。

じゃあ、冷凍庫は?

開ける。

捜す。

居たよ。

閉める。

閉めちゃだめよ!

再度、開ける。

ラット形アイスケーキと形が一緒で、イチゴ味とおんなじ色なんだから紛らわしいわね。

ノタノタと冷凍庫から這い出して来たわ。

冷凍庫、中身は汚染されてないかしら?

「……ナノちゃん!」

あ、元気そう。

「レンチンしなくて平気?」

「レンチン?」

ドラウトが首をひねるから教えてあげよう。

「電子レンジでチンっで温かに……」

「絶対にしないでください。オーブンもグリルも……熱湯も」

震えながら言っても、説得力ないよ?

「まあ、今回はアイスケーキをのぞきこんでた僕の落ち度ですから、ナノちゃんのせいとは言いませんが、2度としないでください」

「了解。お風呂場にママがドラウトに用意した洗面器風呂がそのまま有るはずよ」

一応、暖かくは成るでしょう。

「じゃぁ、行ってきます。お風呂場はさっきの洗濯機のところの……」

ぶつぶつ言いながら、ドラウトが視界から消えたわ。

「ヂュゥッッ!」

あら?

変な音が?

照明も落ちてる!?

お風呂場の方から?

「まさか、何か出たのか!」

レモンイエロー初老の声がするわ!?

あぁ、初老男、土足って言うかレモンイエローの長靴でお部屋に上がりこんできたわ!

あ、あたしも白金のチョコっとヒールのパンプスだわ?

あれ?

脱げない。

変身の弊害ね。

T-P-Oを考えていないデザインなんだわ。

やっぱりシーン毎に使い分けできなくっちゃダメよね。

ママも、ヤスミおばちゃんもお風呂場に向かったわ。

土足で。

あたしもこのまま行こう。

「ひでり!」

ヤスミおばちゃんが、仰向けに倒れたドラウトに呼び掛けてる。

それ、ひでりでなくてドラウトだから。

あ、洗面器に右前肢突っ込んでから、後ろに倒れたのね。

右前肢だけ、毛皮が濡れてるし。

あぁ、洗面器にドライヤーが!

ママがウォッシャーの蓋を開けた、アノとき洗面器にドライヤーを立て掛けて、そのままにしたのよね。

今、ドラウトが洗面器に入ろうとして右前肢を入れたら、ドライヤーが洗面器に浸かって、感電したような気がする。

ドライヤーがショートしたから、照明も落ちたのよ。

きっと。

「あらあらあら、まあまあまあ、どうしましょうどうしましょう」

ママが、棒読みでパニックに成ながら、ゴムの絶縁手袋を着ける。

ドライヤーのコンセントを抜く。

主電源のブレイカーを確かめる。

配電盤のブレイカーを確かめる。

落ちているブレイカーからつながっている電気器具のスイッチを切る。

落ちているブレイカーを上げる。

絶縁手袋を脱いで仕舞う。

そのブレイカーにつながっている電気器具のスイッチを入れる。

スイッチ入れた電気器具の中から、使ってない電気器具のスイッチを切る。

そして、タイマー系のバックアップを確かめる。

流れるようにママが動いたわ。

本当に、パニックに成っていたのかしら?

ヤスミおばちゃんと初老おじさんが、ドラウトの介抱をしてる。

バスタオルにくるんで、抱えた。

「こんなこと、こんなこと、どうしたら、どうしたら」

あ、パニック状態のママがAEDを持ってきたわ。

家の、どこにあったのよそんなの?

パッドを指先マッサージパッドに交換してる。

レモンイエロー初老に、バスタオルの上にドラウトを置かせて、パパのシェービングクリームをお腹に塗らせたわ。

ヤスミおばちゃんに、ドラウトのお腹の毛をパパのシェーバーで剃らせて、指先マッサージパッドをずらして貼り付ける。

今、ママがしてるのは電圧調整よね?

ママが何か呟いた。

「3、2、1」

パチ。

スイッチを入れたのかしら?

「……あ、死ぬかと思った」

ドラウトが呟いた。

死ぬかと思ったでなく、死んでたと思うわ。

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