失礼よ
色以外は、至極普通の大きなどぶねずみだわ。
それがドラウト・シッキタース(Drought Siccitas)と言う自称次元妖精。
「次元妖精ハイブリッドどぶねずみドラウトちゃんは、ほんと色以外はどぶねずみのタンマリちゃんにそっくりね。どぶねずみのタンマリちゃんが化けて出てきたみたいよ」
ソファーに座りママが懐かしそうに棒読みで話してる。
化けて出てきたって……まあ、タンマリちゃんは、ママが30年前に飼ってたどぶねずみだから既に天に召されてるわね。
「あの、ドラウトで結構です」
応接テーブルの上にママが敷いた、英字新聞の上に長くなり、ドラウトが言う。
「そんな、呼び捨てなんて。あなたは貴重な次元妖精ハイブリッドどぶねずみなんですから」
また棒読みでママが話してる。
なんか、ただ『次元妖精ハイブリッドどぶねずみ』ってママが言いたいだけな気がするのは、あたしだけ?
ドラウトをじっと見詰めるママ。
「そうだ、次元妖精ハイブリッドどぶねずみドラウトちゃんのお母さんのどぶねずみタンマリちゃんの写真が有るのよ」
ママが再生機にディスクを入れて、操作するとディスプレイにうぞうぞってうごめく、灰色のどぶねずみの群が表示されたの!
ママそれ写真じゃない!動画よ!キモー!
これと比べたら、まだ、一匹でピンクな分だけ、ドラウトの方が可愛気があるわ!
「このどぶねずみの中で一番元気な大きいのがタンマリちゃんよ」
ママがポインターをでっかいどぶねずみにあわせてるけど、見分けつくわけ無いじゃない!?
「これが若い頃の母上様?」
次元妖精ハイブリッドどぶねずみにはどぶねずみの見分けがつくわけね。
若い頃?
「まだご存命?」
「はい。元気に毎期弟妹を産んでます。今期も12柱ほど産まれました」
「そう、それは良かった」
ママがまた棒読みで頷いたの。
まだ、生きてるの!?
どぶねずみが30年以上生きてて、元気に毎期子供産んでるって?
どんだけ増えてるのどぶねずみ!
ねずみ算て知ってる、ママ?
「ありがとうごさいます。母上様の貴重な記録を拝見させていただきました。しかし、母上様の事をたずねに、この世界に参ったのでは有りません」
あ、話は次の展開に入ってる。
長々と伸びてたドラウトがちょこっと英字新聞の上に座り深く頭を下げて言ったの。
「実は、女帝アグリー様が、次期様を伴いこの世界に参った様なのです。どうか又、デーヴァとして、ご助力を」
あれ?
「次元妖精ハイブリッドどぶねずみドラウトちゃんはラットタイプ次元妖精ヒデリの好きな米の汁で良かったわよね」
「……はぁ?」
頭を上げてドラウトが、変な声を出してあたしを見上げたの。
「『実は』の所でママはお茶の用意に行ったわよ」
教えて上げたわ。
そこに、カップをカチャカチャをいわせながらお茶の用意をしてママが戻って来たの。
「ドラウトちゃん、次元妖精ハイブリッドどぶねずみには米の汁。ナノはココアよ。私特製の炒りヒマワリの種も美味しいわよ」
小さなカップに入った白いドロッとした液体をドラウトの英字新聞にママがのせて、何粒かのヒマワリの種を添えた。
私の前にはココアのカップ。
ママはミルクティ。
「あの……」
ドラウトが何か言いかけた。
「御断りします」
「まだ、何も……」
「さっきデーヴァってキッチンまで聴こえたの」
ママがにっこり微笑んだ。
「ぜひ、又、魔法美少女戦隊の一員としてアグリー様をお捜し下さい」
え?
「嫌です」
ドラウトに即座に断るママ。
でも、ママは、ママは?
「魔法美少女戦隊?ママはそんな活動してたの?」
「ナノはパパ似なのよ。だからそういうママ達みたいな活動はしなくても良いのよ」
「そうですら魔法『美少女』戦隊ですから、ナノちゃんには関係ないんです」
ママとドラウトが何が失礼な事を言ってる気がするのは何故かしら?
ポンとママが手を打った。
「そうだわ、間に接続語を入れれば良いのよ」
「はぁ?」
ドラウトが又変な声を出した。
「パパ似のナノには、魔法、美『が』少『ない』女『の』、戦隊の一員に成ってアグリー様を捜してもらえば良いのよ。そうと決まれば、ナノも変身よ!ママの真似をして。次元妖精ハイブリッドどぶねずみのドラウトちゃんもサポートしてくれるはずだから」
ママが何を言ってるのか理解が出来ない。
パン。
胸の前でママが両手を合わせた。
ゆっくり両手をを開くと、ママの手の内に櫛よね?髪の毛とかす櫛が現れたわ!
ママは手品師だったのかしら?
キラキラした深い青?
藍色の櫛。
「ナノちゃん、真似をして」
ドラウトも言うから、立ち上がって、パンと手を打って開くと……何が出てきたけど……どう見てもリストバンド?櫛じゃないよ?
あたしもマジシャンだったの?
白金色のリストバンド?
ママは青い櫛を胸の前で抱えてる。
「ヴァルナ(Varuna)!」
藍色の光ときらめく水滴がママを包み込む。
「コスメティック・サージェリー(Cosmetic Surgery)」
櫛を頭上に投げると、空中に留まった櫛から、青い光と、透明な水滴が柔らかに目を閉じたママに降り注いだの。
青い光りを浴びて、ママの髪の色が青みがかるわ。
指の爪には青系のネイルが、唇には桜いろのリップが、ほかの部分にもお化粧が施されていく。
「ラグ・ヒドゥン(Rag Hidden)!」
まばゆい青いの閃光のなか、濃い藍色のシルエットの服装が変化してゆく。
スカートは広がり短く、アウターは腰が細くなりリボン、フリル、宝石、花、色々なものが、装備されて腕も靴も、全てが変わってゆく。
そして、上空に浮かんでいた櫛が、きらめきながら、シルエットのママの髪の毛に刺さったの。
青い閃光が広がってく。
「ナノちゃんは、心に浮かんだ言葉を言って!」
ドラウトの声が聴こえたわ。
「マフィン・トップ(Muffin Top)!」
なんか眩しいわ!
辺りが真っ白……白金に金色の粉をまぶしたみたいよ。
「コスメティック・サージェリー(Cosmetic Surgery)」
リストバンドを頭の上に投げる。
すごい、落ちて来ないわ!
ママは目を閉じてたわね。
あぁ、なんか気持ちいい。
「ラグ・ヒドゥン(Rag Hidden)!」
ワクワク高揚する感じ。
「ナノちゃんの思う言葉を言って」
ドラウトの声が響く。
「ヒロイン・プラチナ・キューティー(Heroine Platinum Cutie)!生誕!」
「アクアマリン・ウェンズデー(Aquamarine Wednesday)御目見えよ!」
ママはアクアマリンなんだ。
目を開けると、恥ずかしいアイドル衣装姿のママが居た。
ママが痛い、痛すぎるわ!
あれが許されるのはギリギリ20歳未満よ!
20歳がボーダーよ、ママ!
断る訳よね。
見ないのが同じ女としての情けよね。
「あら、変わって無いわ」
満足感の有るママの声が遠くでする。
え?
目を開けると、ママが居ない!
あの声、玄関から聴こえたような気がする!
誰か来てたら惨劇よ!