間違よ
「……ゲフ」
食べ過ぎたわ。
「次は、餡餅よ。たくさん食べてね」
イクヨちゃん家のおばさんが、大皿2杯の餡餅を持ってきたわ。
「こっちがこしあん、こっちが潰しあんね」
普通、こしあんと粒あんじゃないかしら……?
「ありがとうございます」
お礼を言って、手は出さないわ。
いきなり安倍川餅を15個も食べたら、手は出ないわよ。
「今度のは、バター餅だから」
おばさん、バター餅?
バターは美容に良いのよ!
バル様が、インタビューでの質問に答えてたもの。
【バターが僕の美容の秘訣かな】って。
「いただくわ」
イクヨちゃんの家は飲み物が出ないから、安倍川餅のきな粉にむせたけど、バターならむせないわよね。
『ナノちゃん。ヒデリィ殿がお呼びです』
すっぽん、あたしは美容に良いバターを摂取するの。
ヒデリィも、もう少し待ってなさいよ。
……バッグを開けると……居ないじゃない?
ヒデリィ?
『ヒデリィ殿は、次元クリアランスギャップ(clearancegap)に潜まれました。ヒデリィ殿とは、次元アフォーンでお話下さい』
分かったわよ、すっぽん。
「すいません、お水を1杯いただけるかしら」
ひとりになる口実よ。
確か、何か頼んでも自分でするのが、イクヨちゃん家の流儀だったわ。
「あ、お水ね。キッチンの水道、浄水器付いてるから、好きなだけどうぞ」
おばさんが、部屋の外を指差したわ。
「じゃ、いただいてきます」
キッチンは玄関の脇よね。
すっぽん、次元通信でのヒデリィのキーワードは?
『はい、知りません。ヒデリィ殿に訊ねたのですが、回答がありませんでした』
ホントに使えないどぶねずみ達ね。
「諸悪の根源」
次元アフォーンに言ってみたわ。
「何よ?義妹」
ニナルにつながっちゃったわ。
「ごめん、間違えたわ」
「そ、切るわよ」
ツゥゥ……。
「氏親」
言ってみたわ。
「あらぁ?ナノどうしたの?」
ママのにつながっちゃったわ。
「間違え……そうだ!ヒデリィの連絡先ってママは知ってる?」
このチャンスに訊くのよ!
「あぁ、ひでりとの連絡なら、〜ヒデリィー〜で良いのよ。言ってごらんなさい。早くかえってくるのよ、あんまり遅くなると先様に御迷惑なんだから。じゃ切るわ」
ママ、ありがとう。