邂逅よ
「あらあらあら。まあまあまあ」
ママが慌てて、全くの棒読みでパニックになった。
居間をパタパタパタと忙しそうに、動き回るママだけど、実は何にもしてないのね。
「ナノ、次元妖精をウールのぬいぐるみコースで洗濯したら、最悪天に召されてしまうわよ」
散々居間をうろうろして、結局、お風呂場に、大きめの洗面器と、バスタオルを用意してママが、あたしに言った。
ミィィィ。
『お洗濯物が乾きました。お洗濯物が乾きました』
ウォッシャーが終了したみたい。
ママはシャワーからぬるま湯を出して、洗面器に溜めてる。
「こんなものかしら?」
呟いてママは、お隣のニャンチュを預かった時の、ペットシャンプー、ペットリンス、ペットコンディショナーの三点セットを、ごそごそ洗面台の上の棚からおろしたわ。
「あら、洗う道具、あらあら、どこだったかしら?」
呟きながらママはバスルームを出て行っちゃった。
ガンガン。
ガンゴン。
ウォッシャーの中から音がする?
使ってないブラシをキッチンの方から持って来てママは言ったの。
「さあ、後はドライヤーね」
「ねぇ、ママ」
「何かしら?」
「洗濯終わって、ウォッシャーの中から異音がするの」
「まあまあまあ」
パタパタパタとウォッシャーに近づき、ママがガコガコいってるウォッシャーの上蓋を開けたの。
目に痛い位のピンクの物体が、天井に向かい飛び出して、天井に当たって跳ね返って床に落ちたわ。
「あらあらあら。こんなにふんわりふかふか」
スリッパの先でつつきながら、ママが嬉しそうに言ったの。
「……イズミさん。娘さんに……ナノちゃんにどんな躾をしてるの?」
ピンクのふわふわが、突然空中に浮かび上がって、ドラウト・シッキタースの声でわめきたてたの。
あぁ、洗濯するとあの茶色いのがピンクに成るのね。
酸性洗剤の、すすぎが足らなかったのかな?
「ピンクは酸性反応ね」
「あら、ナノ良く知ってるわね、リトマス反応なんて」
「家庭科のハーブティの単元で習ったもの」
ママが誉めてくれた。
「おぃ!」
ドラウトが冷たい視線をこっちに向けてくる。
「ママ、ケダモノ怖いぃ」
「あら、ケダモノ?どこに居るのかしら?保健所に駆除依頼の連絡しましょうか?」
ママが辺りを見回したの。
「僕は、保健所の駆除対象に成ってるんですか?」
ドラウトが空中を滑るように移動して来て言ったの。
「そうね……ラットは駆除対象よ。どぶねずみとか」
ママがドラウトに、にっこり笑いかけた。
「僕は、次元妖精なんですけど」
冷たくドラウトが呟く。
「でもタンマリちゃんはどぶねずみ。つまり、あなたはどぶねずみと次元妖精のハイブリッド」
ママが嬉しそうに言ったの。
え?
どぶねずみ!?
「いやぁ!あたし直に触っちゃった!エンガチョ!!」
「こら、ナノ。そんな事を言ったらいけません」
珍しくママが怒った。
「そうです。それが躾です」
ドラウトが目を閉じてウンウン頷いてる。
「本当に、ナノはエンガチョなんて、どこで覚えてきたの?」
ママの言葉と同時に、ドラウトが床に落ちた。
「そっちかい!?」
ドラウトが床で何が言ってる。