相撲よ
中学校からの帰り道、あたし達の前を、るんたった、るんたった、カオちゃんが歩いてる。
「ワルツのテンポよね」
思わず声が出ちゃったわ。
「浮かれてるよ、アレ」
肩の荷が下りたルイは他人事なセリフよね。
「本気だよ……どうしよう……」
そう言う、イクヨちゃんは、青い顔をしてるわ。
カオちゃんたら、お昼休みに、爆裂自己失恋をしたのに、例によって例の如く、放課後には飯尾常太先生と、校門の所で部活に誘われて、禁断の恋に落ちたんですって。
飯尾先生が顧問なのは相撲部よ、相撲部。
飯尾先生は、イクヨちゃんの離婚したお父さんね。
イクヨちゃんはお母さんと新しいお義父さんとの3人暮らしだけど、飯尾先生はまだ再婚してない独身者なのよね。
「あぁ、私の存在が、学校に知れたら、あぁ、私とあの人の関係が学校に知れたら……」
嬉しそうに、戯言を言ってるカオちゃんを視ながら、ルイが言ったわ。
「学校に出入りしてる生命保険会社のキャリアウーマン、イクヨのパパと付き合ってたろう?」
「あぁ、先週結納終わったって報告が有った」
イクヨちゃんが、ルイに向かって言ったわ。
「そのパパに、今日、今から婚約発表をさせてしまえ!ネットで良いから、先週の何日って書いて」
ルイに頷いて、イクヨちゃんはモバイルを操作してるわ。
飯尾先生に何か指示してるのね。
「あ、今、父から、報告が」
わざとらしい、イクヨちゃんの声がするわ。
「あら、私のdaughterなにかしら」
また、カオちゃんが変なモードに入ってる。
「視てみ」
ルイが、イクヨちゃんのモバイルの画面をカオちゃんにみせたわ。
「うそ!私との事は!遊びだっ……」
「日付」
カオちゃんの叫びを、ルイが冷静にいなしたわ。
「……あ、先週の日曜日だ……じゃぁ、さっきの優しさは……」
あぁら、カオちゃんがしおしお萎れてく様ね。
「今回『は』カオのひとり相撲だったんだよ」
ルイがうまくまとめたわ。