大団円
「あ、ヤスミ先輩達だ。こんにちは。あたし今、トイレに行ったんだけど、トイレすごく混んでたんですよ。満員電車みたいに。ヤスミ先輩達、トイレならもう少ししてから、行かなきゃダメですよ」
変身を解いた後、ヤスミ達はムナギに会ったが、普通に買い物を楽しんでいた記憶しかムナギには無かった。
星は大階段の端にぐったり座り込み、青白い顔色で、マラソン大会の後のような荒い息づかいをして腰をさすっている。
時々、思い出したように、自分の太ももを手のひらで叩いて、手を打つ様な音を確かめている。
そのパターンは、先ほど響いていたのと同じパターンだった。
「視線だけの太極、口先だけの神座と違い、肉体労働者な天道は大変だわね」
そんな星を眺めヒデリがつぶやいた。
「今回も、アグリー様は見付からない、クラムズィー様につながるブラック・マンデーには逃げられる、ハァ…」
ヒデリが目を閉じガックリ、ため息も漏らした。
「シィ。ヒデリ、しゃべったらダメよ、ムナギちゃんいるんだから」
小声でヤスミが胸のポケットのヒデリに注意した。
「ヤスミ先輩、ここの、可愛い!」
ムナギが叫んだ。
「お客様、何をお探しですか?」
しわがれた声ながら、明るく話しかけるスーツ姿の初老貫禄の有る女性店員の胸には【オーナー店長・兼ヶ浦椎乃】のネームプレートがあった。
「小さいバッグなの」
ムナギの答えにカネガウラは頷いた。
「こちらへ」
店の一角に、ムナギとヤスミ達はぞろぞろと移動した。
「サブバッグでしたら、この辺りにアル・イスカンダルさんを中心に揃えてございます。どうぞお買い物をお楽しみ下さい」
カネガウラが頭を下げた。
「うわぁ、いっぱいある!あ、郊外デパートより、5%くらい安いよ、ヤスミ先輩。割引チケットが有るから更に5%引きだから、これ、比べたら、郊外デパートより10%引きくらいになるんだよね!」
「そうだねムナギちゃん」
ヤスミが微笑んだ。
「……ここもヒデリのスムーズ・オーバーで戻ったちゃった……ヒポクリスィ・ビリーバーズのお店時のままで、このお店の定価より、更に10%引きのままならよかったのに」
イズミが肩を落とした。
「でも、チャージしたのも、口座ももと道理だよ」
ハタタが微笑んだ。
「買い物した事自体が無くなっちゃったのよね。その上、私が買ったのは、今は売り切れちゃったし」
イズミが、更に肩を落としてまた言う。
「入場料は、同じだけ引かれてたわ」
ホムラが頭を振った。
「あの黒メガネは居ないのね」
ミノリがつぶやいた。
「黒メガネェ?」
ヤスミが振り向いた。
その顔にはサングラスが上下逆にかかっていた。
イズミ、ホムラが吹き出した。
ハタタは声をあげて笑う。
ミノリが冷静な視線を冷たく向けている。
ひとしきり笑った後だ。
「黒いメガネのあの店員、どこかで見た誰かににて無かった?」
ホムラがつぶやいた。
「いつもの敵だろ?あの黒いヒラヒラ姿以外は初めて見たけど?」
ハタタが首をひねる。
「あ、あの声とか……」
イズミも考え込む。
「……ビッキちゃんに似てた!」
ヤスミがつぶやいて続けた。
「文化祭の舞台でお化粧したビッキちゃんだよ!」
「あぁ!」
とイズミ。
「そう言えば!」
ホムラが続ける。
「誰だ?ビッキちゃん?」
ハタタがミノリにたずねた。
「……私もわからないの」
ミノリはそう答え首をひねった。
「良いの買えた!次はチャッビーでしょ、クリームきんとん屋さんだよね」
ムナギが満面の笑みで、紙袋を5人の背後の階段に座る、星に向けて掲げた。
「ムナギちゃん、私も行く!」
ヤスミの声が一際大きく響いた。
【Continued on next time】