大決戦
「今よ!ヒポクリスィ・ビリーバーズに天道が楔を撃ち込んでくれてる!肉体精神二局から責めれば引き摺り出せるはず!変身よ!」
ヒデリが断言した。
ヤスミがうなづく。
「なら、行くわよ!」
ヤスミの声が響いた。
高く右手を上げる五人の手に、それぞれ別の色に輝く半円形のコーム(comb)……クシが現れた。
それぞれの色合いの宝石を埋め込まれ、透かし彫りのある、透明感のあるコーム。
ヤスミはオレンジだ。
ホムラは深紅。
イズミは藍色。
ハタタは緑色。
そして、ミノリは黒。
そのミノリの黒いコームが金の閃光を放ち始めた。
眩しい光が柔らかに落ち着くと、黒かったコームは黄色く変わっていた。
「スールヤ(Surya)!」
ヤスミが胸にオレンジのコームを抱き叫んだ。
「コスメティック・サージェリー(Cosmetic Surgery)」
コームを頭上に投げると、空中に留まったコームから、オレンジの光と、虹色の光の粒子が柔らかに目を閉じたヤスミに降り注いだ。
光を浴びている、ヤスミの髪の色がオレンジがかる。
指の爪にはオレンジ系のネイルが、唇には桜いろのリップが、ほかの部分にもコスメが施されていく。
「ラグ・ヒドゥン(Rag Hidden)!」
まばゆいオレンジの閃光のなか、濃い橙色のシルエットの服装が変化してゆく。
スカートは広がり短く、アウターは腰が細くなりリボン、フリル、宝石、花、色々なものが、装備されて腕も靴も、全てが変わってゆく。
そして、上空に浮かんでいたコームが、きらめきながら、シルエットのヤスミの髪の毛に刺さる。
オレンジの閃光が広がった。
「ヘリオドール・サンデー(Heliodor Sunday)登場よ!」
閃光消えたところに、アイドルのステージ衣装のような姿のヤスミ……ヘリオドール・サンデーが可愛くポーズを決めていた。
その頭にはオレンジのティアラが輝いている。
ホムラが赤いコームを、イズミが藍色のコームを、そしてハタタが緑色のコームを胸に抱いて叫ぶ。
「アグニ(Agni)!」
赤い光と踊る炎がホムラを包む。
「ヴァルナ(Varuna)!」
藍色の光ときらめく水滴がイズミを包む。
「ヴァーユ(Vayu)!」
緑色の光とかがやく電光がハタタを包む。
頭上にそれぞれのコームを浮かべ、三人が続ける。
「「「コスメティック・サージェリー………………………………ラグ・ヒドゥン(Cosmetic Surgery Rag Hidden)!」」」
3色の光の中で、三人が姿を変えてゆく。
閃光が消えると三人がポーズを決めていた。
「グリーンアンバー・サーズデー(Greenumber Thursday)!見参さ」
右の緑色の衣装がハタタだ。
「アクアマリン・ウェンズデー(Aquamarine Wednesday)御目見えよ!」
左の藍色はイズミ。
「パイロープ・チューズデー(Pyrope Tuesday)出現だ!」
中央にはホムラの赤だ。
「クベーラ(Kuvera)!」
ミノリが黄色いコームを胸に抱いて叫ぶ。
頭上にコームを浮かべ更に叫ぶと、黄色い光と、金粉のような光の粒がミノリを覆い山吹色のシルエットにした。
「コスメティック・サージェリー………………………………ラグ・ヒドゥン(Cosmetic Surgery Rag Hidden)!」
閃光が消えると、山吹色の衣装をつけたミノリが、すくっと立っていた。
「ドラバイト・フライデー(Dravite Friday)顕現!」
黄色い暗い宝石をちりばめたコームは、ティアラではなく、胸元を飾っていた。
「「「「「ヴァーラ・ディーヴァ(Vaara Deva)」」」」」
五人の声が響いた。
「アッ、アッ、な、長くは、持たない!タイミング、タイミングを、二局の、タイミングを、合わせないと、出したら、出しただけで、逃げ、逃げられる!だから早く!早くぅ!ウゥ!」
苦しげな甲高い声が響いた。
手をたたくような音が更に少し加速する。
ヒデリが叫んだ。
「今よ!マッサカー(Massacre)・ソングよ!」
「させない」
凛とした声が響いた。
五人の視線が一点に集まった。
スーツに黒メガネの女性店員、鉄調耀が大階段の前に立っていた。
吠えるホシイノの声がずっと響きはじめた。
その中を、手をたたくような音に合わせて、クロガネが踊るように大階段を登って行く。
中段の、広い踊り場に立ったクロガネが胸の前で手を合わせる。
手を広げると、黒いコームが現れた。
フライデーが顔を背ける。
「ムーン・ストラック(Moon Struck)!」
黒いコームがクロガネの頭上に浮かんで、銀粉をまぶしたような、闇が輝きだした。
「エヴォルツィオーネ・ディ・マッサークロ(Evoluzione di Massacro)!」
闇のヴェールの向こうで、青光りする黒髪、顔の鼻から上を覆う銀のマスク。
瞳の部分からは青い光が揺れている。
そして、白い肌に、赤い唇。
サンデー達の衣装に似た、リボンとフリル、花と宝石で飾られたドレスは、黒を基調に、銀の縁取りとアクセントの様に淡い水色があしらわれている。
黒いブーツに黒い手袋まであらわれた。
「ラブラドライト・オブ・ブラック・マンデー(Labradorite of Black Monday)降臨!」
闇がはれた時に現れたブラック・マンデーの胸元には黒い宝石の散りばめられたコームがあしらわれていた。
「私が!」
フライデーが、四人の前に立ち、ブラック・マンデーに対峙した。
「まかせたわ。なら、みんなはアナイアレイション(Annihilation)・ソングよ!早く!天道がもたない!」
ヒデリが叫ぶ。
「アッ!アッ!もう!押さえきれない!もう!アッ!……」
甲高い悲鳴が、手をたたくような音に乗り響いた
「行くわよ。ヘリオドール・サンデー・トーン・デェフ(Tone Deaf)!……ボエェェェェーーーーー」
「パイロープ・チューズデー・オフ・キー(Off Key)!……ぼえぇぇぇぇーーーーー」
「アクアマリン・ウェンズデー・アウト・オブ・ピッチ(Out Of Pitch)!……Boexexexexeーーーーー」
「グリーンアンバー・サーズデー・ディソナンス(Dissonance)!Boeieieieieiーーーーー」
「この揺らぎ!聖なる響き、が産まれた!?ダメだ!ホシイノ!二局の快楽に呑み込まれるな!」
ブラック・マンデーがつぶやき顔をしかめ、吠えながら恍惚の表情を浮かべる、ホイシノに駆け寄ろうとする。
その前に、フライデーが立ちふさがり詰めよった。
「まちなさい!四人は、リスピング(Lisping)まで取り入れてるのよ。あなたには、この聖なる響きがわからないの?」
「わかる。わかるから、この揺らぎが、不快だなんろう!」
ブラック・マンデーが一歩退いた。
「ならば!ドラバイト・フライデー・デモリション(Demolition)・ソング!ファニー・ボイス(Funny Voice)!ボエェェェェ〜〜〜〜〜!」
「えぇい!ラブラドライト・オブ・ブラック・マンデー・スピリチアル・コラプス(Spiritual Collapse)・ソング!テリブル・シンガー(Terrible Singer)!ぼえぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!」
「巧い!ブラック・マンデーを取り込んだわね、フライデー!」
ヒデリが叫んだ。
「アナイアレイション・ソング・エェンド(&)・ツイン(Twin)・デモリション・ソング!メンタル・ブレイク・ダウン・コーラス(Mental Break Down Chorus)!マッサカー(Massacre)・ソング!」
「アッ!アッ!アァァ!」
ヒデリの声に被り、甲高い悲鳴が響いた。
「よく持たせたわ、天道!終わらせるわよ!」
突如、それまで響いていた、激しく手をたたくような音が消えた。
場に、ヤスミ達とブラック・マンデーの歌声だけが響く。
「「「「「「ボえeiぇexeiェexェぇeiェexぇ〜〜ー〜ーー……」」」」」」
「シュ、シュ、シュクラ・オージャス・エクスタシス(Shukra Ojas Ekstasis)!」
掠れるような甲高い声が聴こえた。
一瞬、ドラバイト・フライデーが息を呑んだ。
が、直ぐにドラバイト・フライデーも歌声を響かせた。
「!マズイ!ホシイノが!」
我に返ったようにブラック・マンデー叫んだ。
「Come Come Come Come Come Onhhhoooo……!」
ホシイノのがひきつったように吠えると、黒いモヤモヤした物が、その身体から離れた。
「あぁん、いぃん、うぅん……」
ホシイノだった人間は、人間にもどり、焦点の定まらない目をした赤い顔をして、意味のわかならい言葉を呟きながら、四つ這いでひくひくと痙攣したように身体を震わせている。
「エクスタシスしたわ!今よサンデー!」
「身体から離れたんなら、任せて!トウ・デストロイ・ジ・アブソルート・ピッチ・オブ・ヒポクリフィ(To Destroy The Absolute Pitch Of Hypocrisy)!」
「「「「「「Boエexぇeiェeiぇexぇェぇェex〜〜ーーー〜……」」」」」」
「ハァ……フゥゥゥハァハァ……フゥゥゥフゥゥゥ……ハァ……フゥゥゥ」
ヤスミ、ホムラ、イズミ、ハタタ、そしてミノリの歌声と、荒い息づかいの様な甲高い歌声が、渾然一体となり黒いモヤモヤした物を包み込み響いた。
「グブァァー!」
黒いモヤモヤから悲鳴のような音が響いた。
「ヒポクリスィ・ビリーバーズが!」
ブラック・マンデーが叫ぶ。
黒いモヤモヤが爆発的に広がり消えた。
「負けたわ。だが覚えていなさい」
そう言うと仮面の青い目を光らせ、ブラック・マンデーはかき消す様に居なくなった。
「天道大義。スムーズ・オーバー(Smooth over)!」
ヒデリの声が響き渡る。