夢見の聖女
「私を殺さないで!!」
と彼女は叫んだ。
「私は何もしていないわ!!」
ボロボロと涙を零す。
彼女の両親も僕も僕の両親も固まっている。
「レンが君を殺すのかい? どうして?」
「ひっぐ……えっぐ……」
薔薇の花咲く中庭で泣く幼女。
彼女の両親と僕の両親との小さなお茶会。
僕の父が優しく彼女に尋ねる。
彼女の前に跪き瞳を覗く。
「私は彼に殺されるから‼ 彼と婚約したくない!!」
五歳の子供がハッキリとそう言った。
彼女の父親が何か言いかけるが、父は片手を上げそれを止める。
「どうして君を殺すんだい?」
「ミカエル学園に転入生が来るの。彼はその子を好きになるの。だから私が邪魔になるの」
ぐすぐすと泣きながら彼女は答える。
「その子は外国からの留学生なのかい?」
「いいえ。平民だけど。その子は聖女で光の精霊使いなの」
「へえ~光の精霊使いなんだ。珍しいね」
「その子に意地悪をしたと言って私は殺されるの」
「私は何をしているんだい? どうして止めないんだい?」
「王様と王妃様は隣の国に行っているの。そこで暗殺されるの」
「暗殺かい? 王太子は君を庇わないのかい?」
「王太子様は、王様が死ぬ三年前に事故に見せかけて殺されるの。だからレン第二王子が王太子になるの」
「エリック王太子は、どんな死に方をするんだい?」
「穀物地帯に視察に行く時、馬車の車輪に細工されて崖から落ちるの。その時エリック様の婚約者も死ぬの!!」
少女の言葉は止まらない。
「犯人は隣の国の【イワン雷帝】で、ライナー戦争で片腕になった恨みからなの」
この間隣の国と和平は結ばれたところだった。
「だから私が王太子妃になるの。王太子妃の勉強で息つく暇も無いのに!! 意地悪なんてしてる暇ないわ!! でも地下牢に入れられて殺されるの!!」
「貴族の令嬢は地下牢に入れられないよ。今は使ってないし」
「でもわざと反省しろと入れられて殺されるの」
「どうやって殺されるの?」
「牢番は知らないけど。隠し通路があるの。牢の一番奥の突き当りよ。城の中庭に入り口があるの。それを使って聖女の取り巻きが来て、自殺に見せかけてロープで絞殺されるの」
「聖女の取り巻きは分かるかい?」
「騎士団長の第三子アクシミアン・モロイ。辺境伯第二子ペダーソス・マタル。神官補佐フォラス・セード。魔法騎士ノーデス・ぺリクサスよ。それに弟が死んだから従兄弟が養子に来るのその子もよ」
「君の父上や母上は何をしているんだい?」
「お母様は来年流行り病で生まれてきた弟と一緒に亡くなるの。それで聖女の母親と再婚してその女が我が物顔でやってくるの」
「継母は私が邪魔で、お父様に私が聖女を虐めていると噓を吹き込むの」
「聖女の名前は分かるかい」
「聖女の名前は、アメリア・ムエレエ。継母の名は、アレクサ・ムエレエ。難民の振りをしてこの国に来たテロリストなの。隣の国の王様に命じられて井戸に毒を入れて病を広めるの。その病のせいでお母様も弟も死ぬの。一杯一杯人が死ぬの!!」
流行り病が起こされると少女は言う。
「アレクサはお母様に似ているの。お父様に近づいて媚薬を盛るの。私が十七歳の時再婚するの」
「アメリアはどうやって聖女だと分かるんだい?」
「毒を使って病をまた広めるの。でも、解毒剤を手袋に付けて治すの。皆騙されるの。確かに彼女は精霊使いだけれど闇の精霊の幻覚なの。闇の精霊を光の精霊だと騙すの」
「神官は騙されないだろ?」
「神官長のアンバーとグルなの。アメリアはアンバーの不義の子なの。アレクサはアンバーを脅して聖女認定させるの」
大人たちは絶句した。
子供の戯言にしては余りにも具体的すぎる。
父は側にいた兵たちに合図を送り調査させた。
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「と……言うことがあってね~」
「私全然覚えてないわ」
私はティーカップを置いた。
サクサククッキーも美味しい。
城の庭で何度目かのお茶会だ。
「その晩。知恵熱で三日間寝込んだからね」
彼が意地悪く笑う。
「いや~。忘れようとしても忘れられない事だったよ。何せ、初対面で屑認定だったからね~」
「あ……そうなんだ。なんかごめんね。全く覚えてないわ~。兎に角私の言ったことは、みんな外れたのよね~」
私は笑って言った。
「だって私のお母様も弟も貴方のお兄様もご両親も死んでないし。ましてや流行り病は無いし。学園には聖女はいないし。お父様は再婚してないし、いつまでもお母様とアツアツだし」
「いや。全て当たっていたよ。アレクサの疫病テロは未然に阻止され娘のアメリア共々広場で絞首刑になった。隠し通路もあった。兄上や両親の暗殺未遂事件も防がれた。その後も度々毒を井戸に投げ込もうとしたけど【夢見の聖女】の予言で未遂に終わった」
「へっ?」
「ねぇシェル。君は【夢見の聖女】の事を知っているかい?」
「【夢見の聖女】ええもちろんよ。この国の未来を予言して災厄を避けて下さる。素晴らしいお方よ。王族しか知らないのでしょう」
「君が【夢見の聖女】だよ」
「えっ? 何の冗談?」
「冗談じゃないよ」
彼は私の側に来ると跪いた。
「君が学園を卒業してやっと君の父上の許可がおりた。シェル・アルイリス僕と結婚してください」
「私が夢見の聖女だから? でも今の私には予言の力はないわよ」
「君が予言の聖女だからじゃない。シェルがシェルだからだ。俺の隣にいて欲しい」
シェルは頬を染めた。
「こんな私でよろしければ」
「あ~やっとプロポーズ出来たようですわね」
「長かったな。レンが一目惚れしてから、まめに会いに行ってたし」
「父上が卒業するまでプロポーズ禁止にしたからですよ~。姉上が売れ残るのかとひやひやもんでしたよ」
「学園卒業まで安心出来ない」
「貴方、娘を取られる嫉妬は見苦しいですわ。今度はマルスの番ね。婚約者にちゃんとプロポーズしときなさいね」
「勿論です。母上」
「皆さん。仕事を私に押しつけて覗きとはいいご趣味ですね」
「あ……いや……だって心配だろ」
「そうよ。断られたらちゃんと慰めないと」
「もう子供じゃないんだから」
五人はエリック王太子にドナドナされた。
~ Fin ~
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★ シェル・アルイリス 18歳
伯爵令嬢。夢見の聖女
五歳の時予言する。本人は覚えてない。
★ レン第二王子 20歳
五歳のシェルに一目惚れ。
シェルが卒業するまでプロポーズは禁止されていた。
★ アメリア・ㇺエレス 18歳
偽りの聖女。闇の精霊使い
★ アレクサ・ムエレエ 38歳
毒薬使い。イワン雷帝のスパイ。
★ アンバー神官長 45歳
アメリアの父親。不義がばれて左遷させられる。
★ エリック王太子 23歳
レンの兄。本当なら暗殺されてた。
★ マルス・アルイリス 12歳
シェルの弟。本当なら赤ん坊の時死んでた。
★ イワン雷帝 60歳
悪事がばれ気落ちしてぽっくり逝く。
予言が無ければシェルがいる国を滅ぼしていた。
★ 王族について
この世界の王族は女神の祝福でいろんなスキルを持っている。
イワン雷帝の王族は、大規模な雷を操り。シェル(彼女の6代前王女が降家した)
【夢見の聖女】の様に予言したりする。
因みにイワン雷帝は何故先の戦で敗れたかと言うと避雷針で防がれたからだ。
しかもこの能力は数代おきに現れる為。まだ雷の能力者が現れていない。
イワン雷帝が死んだあと周りの国が、反旗を翻し国土を削られる。
そのためシェルの国は比較的平和だ。
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2018/5/4 『小説家になろう』 どんC
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2018・5・6 日間異世界(恋愛)BEST100 9位
ありがとうございます。
誤字脱字と分かりにくいところ直しました。
これからもよろしくお願いします。