プロローグ
〜リーマンゼータ関数 ζ(s) の非自明な零点 s は全て、実部が 1/2 の直線上に存在する〜
リーマン予想。数学者たちを魅了し続け、その数学における重要性の高さから、クレイ数学研究所によってミレニアム懸賞問題の一つにも数えられる、数学界の重鎮。
証明することができれば100万ドルもの大金が手に入ると同時に、世界で最も安全性の高い暗号と謳われる、「RSA暗号」を容易に解くことができるともいわれ、社会への影響は計り知れない。
現在、五月下旬。場所、総理官邸。先程から俺たちが提出した資料を大人たちがまじまじと見つめている。その中には我が国日本国の総理大臣もいる。
やがて総理は顔を資料からこちらに向け、恐れるような口調で俺たちに言った。
「…礼央 椚くん。日野家 優雨くん。本当に君たちがこのリーマン予想を証明したのかい?」
優雨は何も言わない。資料を見ればわかるだろうと、目で訴えている。
そんな優雨の代わりに俺が大人たちに答える。
「ええ、そうです。俺たちが、リーマン予想を証明しました。」
16歳、春。俺たちは高校生にして、
リーマン予想を解いた。
〜五月上旬〜
「ふぁぁあ、寝みい。」
徹夜明けの登校時ほどテンションが上がらないときはない。
変わらない通学路に青い空。
平和と言えば聞こえはいいが、何も起こらないというのは存外つまらないものだ。
学校が近づくにつれて、朝練を行なっている運動部の声が聞こえてくる。
県立御笠学園高校。県内でも進学校であり、自由な校風と生徒主体の学校づくりを掲げているこの高校には、実に個性豊かな生徒達が日々青春を送っている。
俺、礼央 椚はここに通う高校2年生だ。クラスは2年B組。所属は情報部。彼女なし。
今の人生の生きがいと言えば、俺が去年創り上げた情報部だが、なかなか忙しくて最近満足に睡眠もとれていない。
時刻は7時55分。朝のホームルームは8時20分からなので、
早めの登校ということになるだろう。
本当ならもっと自宅のベッドで寝ていたいものだが、仕事があるからな。
教室にはいつも窓際で読書をしている女子と、朝からスマホゲームに勤しんでいる男子2人。
そして机を三つほどくっつけて、ノートパソコンやタブレット、何台かのスマホを広げてそれらをケーブルでつないで何か作業をしている男が1人。
俺の部活仲間だ。