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変態は時々乙女もどきに擬態する

◆今回の登場人物

【従業員】お姉様(&ちびっこ)

【常連客】スケベリーダー

【特別ゲスト】某小説の主人公のモデル

「ほらコレ、色変わっちゃってる」


「うわ、本当ですね」


「私買ってくわ」



 売り物としてそのまま店頭に置いておけない生鮮食品はいつも一手に引き受けてくれるお姉様。頼もしすぎます。かっこよすぎます。一生ついていきます。


 田舎のコンビニらしいというべきか、うちの店は野菜の直売所の役割も担っている。地元ではかなり顔の広い店長の力によるものだ。


 お姉様がその野菜売り場の一角から持ってきたブロッコリーは、一部だけほんのわずかに黄色く変色していた。



「たまたま見つけてよかったわ。このまま放置してたら綺麗に紅葉しちゃってたね」


「紅葉ですか。もう時期終わっちゃいましたけどね」


「雪降ってきたからブロッコリーも白くなるかな」


「カリフラワーになるんですか」


「プライスカード変えないとね。ブロッコリーの表記消してカリフラワーで売ろう」



 そんな冗談を言いながらレジカウンター越しに笑い合っていると、いかにもやんちゃそうなちっこい男の子がとてとてとお姉様のもとへ駆け寄ってきた。お姉様の一番下の息子さんだ。


 ああ、お姉様によく似てめちゃくちゃ可愛い。おませな同世代の女の子たちにさぞやモテていることでしょう。大きくなったら私がもらってあげるからね。むしろママの方でもいいから。



「ママー、それなあに?」


「おう、ちび。これ何だかわかるか?」



 小学校に上がったばかりのちびっこは、ママのクイズにちゃんと答えられるかな?カリフラワーと間違えたりしないで、正解を言えるかな?



「んとね、ぶりっこまん!」


「ブリっ子マン?」



 性別を問わず、そんなヒーローのご登場は勘弁願いたい。







            *   *   *




「今日、彼氏の隣で打ってきたよ」



 世間話はいいから、煙草買うなら年齢認証の画面タッチくらいさっさと済ませてくれないだろうか。このおっさんはいつもお喋りに夢中で、すんなり自分から画面をタッチしてくれることもあれば、私がわざわざ誘導しないと――


 っておい、今なんつった。



「…彼氏って?」


「あの背高いお兄さん」


「だから、あのお兄さんは彼氏じゃなくて、私の前の職場の先輩なんですってば」


「でも色々あったんでしょ?」


「…………ありましたけど」



 どうして私はこのおっさんに色々喋ってしまったんだろう。パチ屋のスロットコーナーでその人と並んで打ちながら親しげに話し込んでいるのを目撃され、後からこの店で根掘り葉掘り事情を聞き出されたその時の私は、見た目通り浮いた話の大好きなこのおっさんに余計なことまで明かしてしまっていた。


 スケベリーダーがいかにも食いつきそうなネタを提供してしまったのが、運の尽き。私はいちいち誤解を解こうとしても無駄だろうと弁解するのを諦めたのだ。



「どうでした?おじさんと、あのお兄さんの結果は」


「俺はさっぱり駄目。お兄さんはいつもよく打ってる台で、箱積んでた」


「へー、珍しい。いつもなら苦戦して投資が止まらなくなるのに」


「結構連チャン繋がってたから、ほとんど投資してないんじゃないかな。余裕で大勝利でしょ」


「そっかあ。そろそろ近いうちに奢ってもらわないとですね」


「いつも何奢ってもらってるの?」


「飲み代ですよ。儲かってる方が奢るって暗黙のルールがあるんで、私が奢ることが多いですけどね」


「若いっていいねえ。飲み屋デートか」


「私もお兄さんもデートのつもりなんてないですよ」


「そのくらい仲いいならいずれそうなるんじゃない?」



 …いいからさっさと画面タッチしろってばこのスケベ親父が。







『――ってことがありましたw』



 仕事中の出来事を大まかにまとめた長文を送信し終えると、彼は何やらショックを受けた様子のアニメキャラの女の子のスタンプを送ってきた。


 毎度のことながら、この人のアニオタぶりには呆れたものだ。アニメオタクで萌えスロオタク。それを改める気もないくせに独り身であることを嘆いていたりもするから、救いようがない。



『俺もホールで話し掛けられた時に否定したのにw付き合ってませんってw』



 でしょうね。私は表情を変えることなく、スタンプの直後に送られてきた文面を無感動に読み流す。


 私と彼は、一時期同じ職場にいた元先輩と後輩なだけで、今はただのスロット仲間だ。


 まあ、彼に対して浅からぬ想いを抱いていた時期もあったのだが。



『今日はいつもの嫁台に相当好かれたらしいですね。ようやくデレ期到来ですか?w』


『かもなw久々の大幅プラス収支だった!』


『前に飲みに行ったのっていつだったっけなー?』


『こいつ…タカる気満々だ…!www』


『当然です(断言)』


『まあいいよwいつがいい?』



 こんな風にあっさりと二人で飲みに行く約束を取り付ける男女というのは、普通に考えて互いに異性として微塵も意識していないはずがないと思われるだろう。


 それでも、少なくとも私は彼にそんな意識を抱いたりなどしない。そしておそらく、彼も同じだ。


 彼は画面の向こう側の可愛らしい女の子達を、私はレジカウンター越しに観察している脳内彼氏達を、他人にドン引きされるレベルで愛でることを楽しんで生きているだけ。


 彼氏も彼女もド変態。そんなカップルいてたまるか。だから私は己を律して、二度と彼に気があるようなことを仄めかしたりはしないと決めた。



『じゃあ次の飲みデートはですね――』



 鈍感な彼が気付かない程度の発言は、うっかり漏れてしまうこともあるけど。


 休日になると完全に縁遠くなってしまう彼氏達を忘れて、休日限定の脳内彼氏で楽しませてもらったって、それは私の自由。


 誰と付き合おうが、どのみち妄想なんだし。

名前も出さなかった彼は今後おそらく登場しない予定。スケベリーダー絡みのエピソードでちらっと出すことはあるかもですが。だっていくら「売り上げ貢献しに来い」って言っても来てくれないんですもん。

私の他作品をご覧いただいている方にしかわからないネタですが、彼は「ツナギとメガネとカレーパン」でたまに触れるスロカスの人で、小説「涙の魔法」シリーズの主要人物・豊島裕太のモデルになった人です。どんな人か気になった方はそちらもご覧ください。エッセイから先に目を通されることをお薦めします。小説での彼のキャラの落差に大いに戸惑っていただけるかと思うので。

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