主人公らしからぬ毒舌妄想女
こんなのを主人公にして進めていきます。
えっ、30過ぎ?全然見えなーい。20代で全然通用する若さだわ。
お得意様と呼べるほど頻繁に来るわけでもないくせに、図々しくも私の年齢を訊ねてくる厚化粧おばさま。誰が相手だろうとそんな風に言われたら私は、そんなことないですよ、と適当に謙遜を返す。
だけど内心では、ですよね、と渾身のドヤ顔をかます。化粧なんてファンデーションつけて眉毛書くくらいで充分。毎度毎度呆れるほどに見事だけど、あんたみたく芋版みたいなその芸術的な化粧に頼ったりなんて、この先歳を重ねていっても絶対に真似しないと思うけど。
いくら内心でこっぴどく毒を吐こうと、他人からすれば常軌を逸したおぞましい妄想を繰り広げていようと、私はいつだって穏やかに爽やかに笑顔で接客。
レジに立った時の私の落ち着きぶりは、仏とか天使とかに思われてもいいくらい。
そんな優越感たっぷりなモノローグに興じる私は、異性から一目置かれるほど容姿に恵まれているわけでもなければ、取り立てて何かが秀でているわけでもない、どこにでもいる三十路女でコンビニバイト。
何年か前に離婚して、彼氏もいない。あ、いや、彼氏はいる。脳内に何人か。むしろ店に来るお客さんを勝手に彼氏認定して妄想してる。
だって、それくらいしか楽しみなんてないし、コンビニバイトなんて。何も面白いことなんてない仕事を続けていられるのは、店に来るお客さん達で色んな妄想を繰り広げることが、唯一楽しいから。
レジ接客に従事している人達の間でありがちな、常連さんにあだ名を付けて噂したりとか、うちの店ではあまりない。面白いお客さんは色々来てくれるけど、あだ名よりは「何々をよく買ってく人」で大体通じてしまうのだ。だが私は妄想に引用する都合上、呼称がないと不便なので私の裁量であだ名を決めている。我ながらはた迷惑な都合だ。
でも、面白い買い物客とか変わった買い物客の話って、結構な確率でなかなかの面白エピソードに溢れてると私は思う。それこそ、私一人の妄想で楽しんで済ませるには、あまりにも勿体ないと思うくらい。
黒歴史になる気しかしないけど、これはそんな私のバイトライフのほんの一部。
――入店チャイムが鳴れば、今日も天使の笑顔で「いらっしゃいませ」。
さて、今日はどんなお客さんが来るのかな。
心の中でめちゃくちゃゲスい笑顔こさえながら、お出迎えします。