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影法師  作者: 鈴草
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影の番人

少年たちは笑う。友人との他愛ない雑談に。自分と笑いのツボが似ていることに、うれしくなって。

少年たちは歩む。友人との思い出を作るために。自分という存在を他者の記憶に残すために。

彼らが過ごす日常は、いつの日か誰も知らない過去の出来事になる。

唯一、未来の子孫に覚えてもらえるのは、歴史に名を遺す偉業・成果を成し遂げた者だけ。


「今日、詰め合わせの洞窟に行かないか」

学校の放課後、自由に遊びに行ける時間になった少年は友人を誘う。一人でも構わないが、友人がいると心細さ、寂しさ、怖さが軽減される。

彼の心境を理解したのか、友人は誘いを受ける。友人は鞄を背負い、少年の横を歩く。

「詰め合わせの洞窟に行くのはいいけど、いつ頃行くつもりなの」

「今日の18時頃。暗くなるかならないかぐらいの19時頃に出てこれるといいかな」

学校の帰り道に打合せを終わらせた二人は、各々で準備をしに家に帰る。教科書類など邪魔でしかない。

必要なのは、灯りと水、ガラスのコップだけ。

太陽が沈み始める頃に家をでる。現地集合は当たり前。洞窟の側には既に自転車が1台止まっていた。

「悪い、遅れた」

「大丈夫だよ。いこうか」

二人は詰め合わせの洞窟へ入っていく。灯りを片手に中へと進む。洞窟の中にはコケが生えているだけで、中に虫が巣くっていることもない。

土を踏みしめる音だけが響き、歩くこと数分。

無言の二人の前には、最奥の壁。壁には文字が書かれており、文字の指示に従って少年たちは行動する。

少年は左の壁に、友人は右の壁に水を同時にかけた。

「いっせぇのっせ!」

水が激しく叩きつけられる音が響くとともに、左右の壁がゆっくりと沈み始める。少年たちは慣れたもので、壁が沈み始める時には少し離れて口元をふさいでいた。

土埃がだいぶ落ち着くと少年たちは歩み始める。口を開いた新たな道を迷うことなく進む。左右別に洞窟を進むも、最奥の壁の裏側でつながっており、すぐに合流し二人で歩み始める。

隠し通路の先を更に数分歩む。ふと立ち止まった二人の目先には、腰ぐらいの高さの小さな祭壇だった。

「持ってきてるよな」

「もちろんだよ」

二人は灯りを祭壇の穴の中に入れ、光の柱が立つようにした。そのすぐ上にガラスのコップを置くことで、お手軽に神々しいコップの出来上がりだ。

彼らは自分の持ってきたコップに水を入れ、のぞき込んで自分の姿を映した。自分の姿を眺めること数十秒。


水に映る自分がにやりと笑った。


顔を話すとコップから影が伸び始める。不自然に伸びる影は、ふくらみ始め、ふくらみきると影が動き出し壁からはがれていく。

友人の方も同じ現象が発生していた。友人の方は、剥がれきっているようだ。


“それじゃぁ、君たちの影に入ろう”


剥がれた影は本来の持ち主の影に沈んでいく。少年たちは影が沈んでいくのをじっと眺め、沈みきると脱力して地面に座り込む。

「どのくらいかかるかな」

「さぁ。でも、何年も来てないわけじゃないから、結構早いと思う」

ときおり体を走る快感と、背筋を撫でる不快感が少年たちの体を襲う。影が少年たちの影の中でうごめいているのがわかってしまうからだ。

待つこと数分で影が出てきた。


“これで終わりだ。ある程度、時間が過ぎたらまたここに来るように”


出てきた影は、巻き戻すかのようにガラスのコップへと帰っていった。のぞき込んでも、姿が勝手に笑うことはなかった。

「じゃぁ、帰るか」

「そうだね。思ったより早かったけど、外は暗くなってるかな」

洞窟の中には30分程度しかいなかったおかげか、外はまだ明るかった。

自転車を置いていた場所で二人は別れ、各々の帰路につく。


歴史に名を残せないような人物たちは、どのように後世に『自分の存在』を残すのか。彼らは世界各地に存在する『詰め合わせの洞窟』を利用する。

『詰め合わせの洞窟』を見つけたものは、儀式を行うことで裏の世界の住人を呼び出せる。いつまでも、何千年経とうとも変わらずにあり続ける彼らに、『自分の存在』を託すのだ。

儚い月日を忘れ去る前に。大事な友人との大切な思い出を「なかったこと」にする前に。

今日もまた、大切な思い出を抱えてやってくる。影の住人に食べさせるために……。

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