表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影法師  作者: 鈴草
1/6

よっぱらいの話

 昨日のことだ。俺は一人の少年を眺めていたんだ。あ、理由? んなもん決まってる。釣りをしてたからな。

 一人なのか友達連れなのか知らないが、テトラポッドの隙間で落とし込みをしてたんだ。お前も知ってるだろ? 落とし込みなら結構すぐに食いつくからな。

 その少年は、なかなか運がいいみたいでな。落とし込みの入れ食いとか初めて見たぜ。

 見た限りでは大物はいなかったな。よくてカサゴくらいか。さすがにクロダイは釣ってなかった。

 それでも、十分だろう。大きさも少年の両手ぐらいのでっかいやつでな。煮物でも刺身でも一匹で一食分になるほどだ。

 「そんなでかいサイズは、さすがに入れ食いじゃなかったでしょう」

 まぁ、な。小さくても少年の片手ほどの大きさだったな。でかいやつが数匹釣れてたようだから、リリースしてたみたいだけど。

 そうだな。時間にして30分ぐらいか? 俺が見てた範囲ではスポスポ魚を引き上げてたな。

 ……なんだよ、その顔は。

 「30分も少年を眺めてたって、それはもはや変質者でしょう。通報されなくてよかったですね」

 失礼な奴だな。こんなダンディな男が日光浴してただけで通報されてたまるか。

 水着でデッキチェアに優雅に寝そべってたから、少年がちょうど視界に入る場所にいた形で眺めてただけだ。

 そんでしばらくすると、俺は違和感を覚えたんだよ。


 なんで少年は竿とバケツしか持ってないんだ?


 「それのどこがおかしいんですか? 今は毛ばりみたいな、疑似餌が付いた針もたくさんありますよ。落とし込み用の針だと、自作の可能性もありますが」

 いや、少年は確かに何かを針に指す動作をとってたんだ。

 てっきりフナムシかなんかを現地調達してるって思ってたんだ。意外とフナムシっていい餌だからな。見た目は悪いけど。

 あと、これは釣り人あるあるかもしれんが、餌を買っても使いきれるか? 俺はゴカイとか買っても使い切れた試しがない。

 しかも一杯……あ~。プラケースあるだろ? テイクアウトとかに使ってるようなケース。あれ1パックで500円~とかだから、大量でな。使い切れないんだよ。

 しかも、日持ちしないしな。帰るころには、餌はぐったりよ。とても明日も使おうって思えねぇんだわ。

 「わかります。特に遠投系の釣りだと、なかなか減りませんよね。撒き餌代わりにもできませんし、最後の方はぐちゃぐちゃにつけても、大物が釣れるわけでもないから、帰るときに残りは海にさようならですよ」

 そうそう。〇〇円分で! って量り売りしてくれりゃいいんだけど。っとと。でな、そういう事情もあって、落とし込みしかしてない少年は、現地調達派なんだなって思ってたんだよ。

 そこで次に釣れた後をよ~く見てたんだ。魚を外した後、針をいじる仕草をしてたから、ああやっぱりなんかつけてるってな。

 何だろうなぁって見てるとよ、やっぱりなんか足元から回収してるんだよ。ああ、やっぱり現地調達のフナムシかって思ったが。

 「が、何ですか?」

 黒い紙みたいだった。ちぎり絵ぐらいやったことあんだろ? あんな感じだ。さすがに海苔じゃないよなって、更に謎が深まった。

 さすがに気になってしまってな。近づいていったら、悲惨だったぜ。

 「……なんだか、聞くのが怖いんですけど」

 少年が使ってたやつな、ありゃ『自分の影』だったんだわ。自分の影を千切ってそれを餌にしてたんだ。

 「…………マジ?」

 ああ。少年の影がギザギザしてるのに、少年の体にはギザギザするような場所はなかった。

 それにみちまったからな。自分の影を千切っているところ。

 「そういうオカルトはやめてほしいんですけど」

 ぞっとしたか? いやぁ、実際に自分の影を千切れる奴はいねぇからな。

 「『人間には』って但し書きが付きますけどね」

 そう、あいつは人間じゃねぇ。俺は今年で48になるが、初めて見たね。

 あれが噂の影法師の妖ってやつかい? 海のそばには妖が出やすいって聞いてっけど、白昼から出くわしたのは驚いたぜ。

 「そういえば、あなたはどこから少年を眺めていたのですか?」

 あ? 俺がいた場所か? そんなの少年がよく見える特等席さ。さっきも言っただろうか。

 少年の真横だよ。

書いてる本人も「気持ちわるっ」って思った次第です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ