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第五話 話はキチンと最後まで


 「――おい!大丈夫か?!」

 

 肩を掴まれユサユサと揺らされているアオイは、ゆっくりと瞼を開き、体を起こした。

アオイのすぐ傍では、四十代半ばくらいの顔も体格もかなり厳つい男がほっとした表情を見せていた。

 

 「いやぁよかったぁ、いくら呼びかけても返事がないから死んでるのかと思ったぜ」

 男はガハハと豪快に笑いながら、アオイの肩をバンバンと叩く。


 「あの、あなたは・・・?」

 アオイは、男の肩を叩く力の強さに若干顔をしかめながら、男に訊いた。

 

 「俺か?俺はただの猟師だ。森で狩りをしていたら、たまたま倒れているお前を見つけたんだ」

 男はそう言いながら、足元に置いていた猟銃を拾いあげた。

 

 アオイは男に言われてから、辺りの景色が先程とは違っていることに気づいた。

 ついさっきまでアオイは、木も人の影も建物も何もない、地平線まで果てしなく続く広大な草原に居た。

 だが今は先程とは違い、アオイの辺りには草木が鬱蒼と生い茂っている。

 

 「あ、あの・・・ここは、どこですか?」

 

 「あんた・・・もしかして何も覚えてない・・・記憶喪失ってやつか?」

 どうやらこの男性はアオイが記憶喪失になっていると思い込んでいるようだ。

 だがこれは、アオイにとっては非常に都合が良い。

『俺は別の世界から、平和を守るために魔王と王国を滅ぼしに来ました』なんて事を言うわけにもいかないし、かといって中途半端に嘘をつけば、どこかで絶対にボロが出てしまう。

 アオイは自分が記憶喪失になっている、ということにして話を続けた。

 

 「そ、そうなんです。実は自分の名前以外、何も思い出せなくて・・・」

 

 「マジかよ、そりゃあ大変だな。・・・よしお前、今から俺ん家に来い!飯くらいは食わせてやるよ」

 

 「へっ?・・・いやいやいや、そんな申し訳ないですよ。見ず知らずの俺を助けていただいたうえに、ご飯なんて・・・」

 何か言葉では言い表せない嫌な予感がしたアオイは、一刻も早くこの場から逃げるため必死に抵抗する。 

 

 「遠慮するなって!」

 

 男はそう言うとアオイの手を掴み、半ば無理やり自宅へと引きずっていった。

 

 

 

 

 それから森の中にある一本の砂利道を五分ほど歩いていくと、少し開けた場所に一軒の木造の家が見えてきた。

 そして、男はその家を指差した。

 

 「ほら、あれが俺の家だ」

 

 男は玄関の扉の前まで行くと、扉をドンドンと叩き突然大きな声を出した。

 

 「おーい!今帰ったぞー!」 


 アオイは突然大きな声を出した男に驚き、後ろに大きくのけぞる。

 

 二十秒ほど経過したところで、ガチャリと玄関の扉の鍵が外れた音がし、扉が開いた。

 

 「お帰りなさい!お父さん!」

 

 家の中からは、茶色の髪の毛を後ろでまとめ、青のロングスカートを身につけている、いかにも村娘といった格好をしている少女が出てきた。

 アオイとも、それほど年齢は離れていないように見える。

 

 「おう!ただいま!・・・そんでよ、本当に急で悪いんだが、今から飯作ってくれねぇか?一人分でいいからよ」

 男は、少女にそう言った。

 

 「えー!?いきなりそんなこと言われても困るんだけど!」

 少女はぷぅと頬を膨らませた。

 

 「・・・今度町に行った時に、なんか好きな物を買ってやる」

 

 「あ、私なぜか急に料理を作りたくなってきちゃった」

 

 そう言って少女は、家の中に入っていった。


「現金な奴だなぁ。誰に似たんだか・・・」


男は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「じゃあ、とりあえず上がってくれや」


男は、アオイに家の中に入るように促す。

 アオイは、家の中に入っていく男の後をついていくことにした。

 男は玄関に置かれたマットで靴についた泥を取り、そして靴のまま家の中に入った。

 アオイもそれに倣い、家の中へと入っていく。

 玄関から真っ直ぐに延びている廊下を、少し進んだところにある右側のドアを開き、部屋の中に入る。

 そこは、キッチンとリビングルームがカウンターで分けられている部屋だった。

 リビングの中央には、丸太を使ったテーブルが置いてある。

 アオイは、男と向き合うように座った。腰掛けてすぐに男は、アオイに訊いてきた。

 

 「そういえばまだお前の名前を聞いてなかったな」

 

 「あぁはい、俺の名前はアオイ。御黄泉およみ あおいです」

 アオイは簡潔に答える。

 

 「ほぉアオイか、良い名前じゃねぇか。・・・おっと!俺もちゃんと自己紹介しないとな!俺の名前はラローク。そんで、娘の名前はメルリンだ。よろしくな!」

 

 「はい。ラロークさん。よろしくお願いします。それと、先程は倒れているところを助けていただき、ありがとうございました」

 

 アオイは深く頭を下げる。

 

 「良いってことよ!困ったときはお互い様さ。人間、助け合わないと生きていけないからな」

 

 ラロークはニカッと白い歯を見せて笑う。

 しかし、すぐに真剣な表情になる。

 

 「・・・あれから何か思い出したか?」

 

 「いえ、それが全然思い出せなくて・・・」

 アオイは俯いた。

 

 「そうか・・・これから何処に行けば良いのかも、分からないんだよな?」

 

 アオイは無言で頷く。

 それを聞いたラロークは、何か考え事をしているようだった。

 

 「そういえば、ここは何というところなんですか?」

 アオイは訊いた。

 

 「ここか?ここは、スリーア地方ってところの一番東側にあるポシュガ村さ。この村の名物なんて何にもねぇから観光客なんかは来ねぇし、誰か来たとしてもここを通り過ぎていく旅人くらいしかいない辺鄙な場所だよ」

 

 アオイは少し疑問に思ったことを、ラロークに尋ねてみた。

 

 「ここが村なんですか?ラロークさんの家しか見当たりませんでしたけど」

 

 「まぁちょっと・・・色々・・・あってな」

 ラロークは歯切れ悪く答えた。

 その様子を見て、どうやらしてはいけない質問をしたようだと、アオイは無神経に尋ねてしまったことを後悔した。

 二人の間に少し気まずい空気が流れる。

 

 と、そんなところにタイミング良くメルリンが料理を、木で出来たトレイの上に載せて運んできた。

 

 「お待たせしました!アオイさんのお口に合えばいいんですが・・・」

 

 こっちの世界に来てからは何も食べていなかったアオイは、テーブルの上に料理が出されると、ものすごい勢いで食べ始め、ものの二分ほどで完食してしまった。

 食べ終えたアオイは背もたれに体重をかけながら、ふぅと満足げに膨らんだ腹をさすっている。

 

 「おぉ・・・凄いな・・・」


 ラロークは思わず感嘆の声をもらした。


 腹も満たされて落ち着いたアオイは、座ったまま二人の方に体を向け、改めて深く頭を下げる。


 「ラロークさん、メルリンさん。こんな見ず知らずで無一文の俺に、ご飯を作ってくれたり、こんなに親切にしてくださって、本当に感謝しています。ありがとうございました」


アオイがここまで言ったところで、ラロークが首を傾げ衝撃的なことを口にする。


 「ん?言っとくが、飯はタダじゃねぇぞ?」


「・・・へぁ?」

 アオイは間抜けな声を出した。


「アオイ、金を払えねぇんならお前にはここでしばらく働いてもらうしかないな」

 ラロークは立ち上がり、腰に手を当て肘を張りながらそう言った。


「え、んなこと言ってなかったじゃないですかっ」


「俺が説明する前に食っちまっただろうがよ」


アオイはしばらく沈黙した後、ついさっきの自分の行動を後悔し、無言で頭を抱えた。


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