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第四話 『冥界の魔法』


 『――ボク達の仲間となり世界の平和を守るために、魔王と王国を倒して欲しい』

 

 プルトーンはあっさりとそう答えた。

 アオイはプルトーンから訊いた事が、自分の常識を遥かに越えていたため、理解するまでに数秒の時間を要した。


 「・・・えぇ、嘘でしょう?」


 さっきまでの威勢の良さは完全に無くなり、表情から動揺を隠すことが出来ない。


 「いや、ホントホントー」


 プルトーンは飄々とした様子で答える。


 「いや、だって俺普通の高校生だよ?運動神経が良いわけでもないし、頭が良いわけでもないし・・・」


 アオイは俯き何かをぶつぶつと呟いていたかと思ったら、突然顔を上げプルトーンに訊いた。


 「俺はこれからどうすればいいんだ?」

 

 「んーじゃあ、分かりやすく説明するね。さっきも言ったように、アオイ君には世界の平和を守るために魔王と王国を相手に戦って欲しいんだ」


 そうだ。そこまでは聞いた。だが、魔王と王国を倒すといきなり言われても……と、考えたところである1つの疑問が生じた。

 

 「・・・ちょっと待って、魔王とか、王国とか、その流れで行くと勇者とか魔族とかがいたりする流れじゃないか?いやいやいや、まさかねそんなベタなファンタジーみたいな展開、あるわけないない・・・ねぇ?」


 アオイは嫌な予感がしながらも、プルトーンに訊いた。


 「おっ、よく分かったね。その通り。この世界には魔族と人族っていう種族がいて、その魔族の王様が魔王、そんで人族は王国と分かれ、王国にはたくさんの勇者がいる。この王国と魔王は敵対関係にあって長い間争いを続けている。で、アオイ君には彼らから世界を守るために、魔王と王国を倒してもらいたい。それだけだよ?」


 とんでもないことをプルトーンは、平然と言ってのけた。

 これに慌てたアオイ。目を剥いて悲鳴にも似た声を上げ、必死に説明する。

 

 「ちょ、あのね?普通の高校生がさ、魔族とか勇者とか魔王とかを倒せると思ってるの?だって勇者だよ?魔王だよ?無理だって!勝てるわけないじゃん!」

 

 「いや、ボクだって普通の人間では絶対に勝てないことは分かってるよぉ。だからアオイ君を呼んだんだ」


 プルトーンは変わらず、全く緊張感を感じない口調でそう言った。

 しかし、今プルトーンがサラッと話した会話の真の意味を、アオイは察し愕然とする。

 

 「・・・つまり俺は、普通の人間じゃないって、そう、言いたいのか?」

 

 「うん。君は普通の人間じゃない。……あっ、落ち込まなくてもいいよ?君は普通の人間よりも高い力を持っている、そしてその力が神に認められ、こうして選ばれた。君は選ばれた人間なんだ」


 「いや、別に落ち込んではいないけど・・・。俺はそんな凄い力なんて持ってないぞ。いったい俺のどんな力がが認められたっていうんだ?」

 

 「アオイ君は気付いていないかもしれないけれど、君には抜きん出た魔法の才能があるんだ。ただし、ある一種類の魔法に限り、だけどね」

 

 「お、おいおい待ってくれ。俺は魔法なんて使えないし、そもそも魔法なんてものは・・・」

 

 アオイはそこまで言ってから、あることを思い出した。

 

 「そういえばこの世界、魔王も勇者もいるんだったね・・・。そりゃあ魔法の一つや二つぐらいあって当たり前か・・・」

 

 アオイは1つ溜息をつき、死んだ魚のような目でプルトーンを見据えた。


 「分かった。じゃあ俺が使えるその一種類の魔法が何なのか教えてくれ」

 

 「アオイ君はね、数ある魔法の中で『冥界の魔法』の能力が極めて高いんだ」

 

 「えぇ『冥界の魔法』?うわぁこりゃまた物騒な名前だなぁ。冥界・・・うわぁ」

 

 アオイは口をへの字に曲げ、顔をしかめた。

 『冥界』と聞いてアオイの脳裏に浮かんだのは、人を殺したり、死者の魂を操ったりするといった明らかに悪役がやりそうなものばかりだった。

  

 「まぁ、大体想像はつくと思うけど簡単に説明するね!『冥界の魔法』とは、禁忌とされた三大魔法の一つで、慣れれば人を操ったり命を奪ったり、他にも色々な事が出来るようになるよ!」


 プルトーンは余程興奮したのか激しく転がったり、跳ねたりとせわしなく動きながら説明をした。その説明を黙って聞いていたアオイの表情が更に曇る。


 「今の説明だけ聞くと完全に悪役なんだけどさぁ大丈夫なの?世界を守る奴が禁忌とされた魔法使っちゃってもいいの?」


 「大丈夫、大丈夫、多分大丈夫」

 「多分?!」

 「ばれなきゃ大丈夫だって!」

 「おぉ・・・何か犯罪の片棒を担がされてる感じだ・・・」

 

 「……その様子だとボクの頼み事、引き受けてくれるみたいだね」


 プルトーンは嬉しそうにポンポンと跳ねながら言った。

 

「訳の分からない世界に無理やり連れてくるような奴に、何を言っても無駄でしょう?だけど、俺は全て納得した訳じゃないからな」

 

 「分かった、分かった。じゃあ早速『冥界の魔法』の使い方を君に教えようかな」


 と、言い終わったと同時に、プルトーンの体がゆっくりと宙に浮き上がり、アオイの目の高さまで来るとピタリと止まった。

 

 「お前、飛べるのかよ」


 アオイはこれから何が起こるのかと思い、プルトーンをジッと見つめていると、突然プルトーンのその丸く黒い体から黒い煙が出始める。

 そして、瞬く間にその黒い煙はアオイの全身を包み込んだ。だがわずか三秒ほどで、アオイの体を包み込んでいた煙は薄くなり消えていった。

 

 煙から現れたアオイは、不思議そうに自分の体を見ている。そして、軽く首を傾げた後、プルトーンに尋ねた。


 「あの・・・何かが変わったような感じが全くしないんだけど・・・。これで本当に魔法が使えるようになったのか?」

 

 「最初は分からなくていいんだ、後で分かるから。よし!それじゃあ準備も整ったし!早速出発してもらおうかな!」

 

 プルトーンはアオイの周囲をフワフワと回り始めた。

 

 「しゅ、出発?今から?」

 

 「そりゃあもちろん・・・」

 

 「世界の平和を守る旅にだよ!」


 そうプルトーンが叫んだ瞬間、背後の祠からまばゆい光が放たれる。

 

 「確か前にもこんなことがあったな・・・」


 祠の方を振り返ったアオイはこう呟き、そうして光に飲み込まれた。と、そこでアオイの意識はぷつりと途切れた。

 

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