第三話 球体の神
アオイは全身を照りつける太陽の日差しで目を覚ました。
意識を取り戻したアオイは、重い身体を起こしてゆっくりと辺りを見渡してみる。
「うわぁ、どこだここ・・・」
さっきまでは確かに住宅街にいたはずなのだが、今のアオイの周囲には草原が地平線まで果てしなく続いているだけだ。唯一、不思議な光を放った木造の小さな祠があるだけで、住宅やビルなどの建物の影は見当たらない。
さらに、ついさっきまで沈みかけていた太陽が今は遥か頭上の彼方に位置し、ギラギラと輝いている。今の太陽の高さを見る限り、ちょうど昼間ぐらいだろうか。
アオイはこの状況について思考を巡らす。
俺は、この祠から発せられた光に飲み込まれて意識を失った。あの光は一体何だったんだ。・・・そして、ここはどこなんだ。俺はさっきまでは住宅街にいたはずなのに―――
アオイは、一度自分の頭の中で簡単に状況を整理してみようとするが、あまりにも分からないことだらけで余計に頭が混乱してしまう。考え始めればきりがなかった。
「かぁ~!いつまで悩んでてもしょうがねぇ」
アオイはグシャグシャと頭をかきむしった。
無理やりに、もやもやした気持ちを切り替えて何か手がかりを得ようと考えたアオイは、祠を調べようと祠の方を向く。すると、突然背後から声が聞こえた。
――待っていたよ、オヨミ アオイ君。
アオイは自分の名前を呼ぶその声に反応し振り返るが、近くには誰の姿も確認できない。・・・アオイの後ろには地平線まで続く草原が広がるだけで、人が隠れられる場所などはないはずなのに。
寝不足で疲労も溜まっているし、頭も混乱しているせいで幻聴が聴こえてしまったのだと、アオイは自分の中でそう結論付けて祠の方に向き直り、祠を詳しく調べようとした。
すると、
『え、ちょっと待って。スルーするの?良い感じのセリフ台無しじゃん』
また背後から幻聴が聞こえてきた。後ろを振り向いて辺りの様子を確認してみるが、やはりだれもいない。
「えぇ・・・何だよ、やっぱり俺の幻聴か?」
思わず独り言を呟き頭をポリポリと掻いた。
「いやいやちょっと待って!足元!足元見て!」
アオイはその声に反応し、足元を見る。
そこにはサッカーボールほどの大きさの真っ黒のボールが転がっていた。ボールには黄色の小さな丸の模様が横に二つ並んでおり、若干ボーリングの球に見える以外には何の変哲もないただのボールだ。
「・・・何だ?このボール」
アオイは不自然に置かれたボールに少し警戒しながらも、今の状況のヒントが得られるかもしれないと考え、この怪しいボールを拾おうと屈んだ。すると、
「誰がボールだ!ボクはボールじゃないぞ!」
ボールだと思っていたものの黄色い模様が突然こちらを向き、俺に話しかけてきた。屈んでいたアオイは驚きのあまり後ろに尻餅をついた。
「うわっ!!な、なんだコレ!!」
真っ黒いボールは黄色の小さな丸をこちらへ向けゆっくりと瞬きした。
「いやいやいや、少し驚きすぎじゃない?確かにいきなり後ろに現れたボクも悪いけどさぁ」
ボールはゆっくりとした口調で話す。
いや、正しくはこのボールは言葉を話してはおらず、アオイの頭の中に直接語りかけてきている。それもそのはず、言葉を発するための口が無いのだ。直接相手の頭の中に語りかけるしか方法がないのだろう。
「な、何だお前!」
俺はボールを睨み付けながら問う。
「あぁ、そういえば自己紹介もまだだったね。それじゃあ仕切り直して・・・待っていたよ、オヨミ アオイ君。ボクの名前はプルトーン。こう見えて一応『神様』なんだ。これからよろしくね」
「・・・は?神?こんなボーリングの球みたいな奴が?いやいや、お前が神なわけないじゃん。百歩譲って神様だとしてもどうせあれだろ、ボーリングを司る神とかどうせそんな感じだろ。いや、今はそんな事はどうでもいい。俺をこんな世界に連れてきたのはお前なんだな?ふざけた神様よぉ」
アオイは本音を少しも隠そうともせず、これでもかというほど煽った。
「いやふざけてない、ふざけてない。まぁボクが神様には見えないっていう君の気持ちはすごくすごーく分かるよ。ボク自身、それが悩みでもあるんだ。あと、君をこの世界に連れてきたのは確かにこのボクだよ」
そんな煽りなど全く効いていない様子のプルトーンは、聞かれたことに淡々と説明していく。
「・・・何で俺がこんな世界に連れて来られなくちゃいけないんだ?」
アオイは怒気を若干含んだ言い方でプルトーンに迫る。
「・・・君を連れてきたのは頼みたいことがあってね。君にしか、頼めないことなんだ」
「俺にしか頼めないこと?」
「うん」
プルトーンは続けた。
『――ボク達の仲間となり世界の平和を守るために魔王と王国を倒して欲しい』