第二話 あ、これ俺終わったな
高校の部活動を終えた彼――御黄泉 蒼――は、日が暮れはじめてだいぶ薄暗くなってしまった住宅街の路地を通り、自宅に向かっている途中だ。
アオイは短い黒髪で中背中肉、服装は学校指定の夏服である白のポロシャツを身につけ、紺のスラックスを穿いている、これといって特徴もないどこにでもいる普通の高校生だ。
電信柱に等間隔で設置されている街灯の灯りが、チカチカと不規則に点滅を繰り返し不気味な雰囲気を醸し出している。そんな事は気にも留めず、その街灯の下をアオイは怠そうに自宅のある方向へと歩いていく。
すると、ふと何かに呼ばれたような気がしてアオイは足を止めた。そこでアオイは、辺りが異様な静けさに包まれていることに初めて気づいた。
今、アオイは住宅街の路地を歩いている。普通なら周囲の住宅から多少の生活音や、車のエンジン音などが聞こえるはずだ。だが、何も聞こえない。
完全な無音なのだ。
気味が悪いな、と思ったアオイはさっさと家に帰ろうと歩き始めようとした時、アオイはなぜかある場所に目が止まった。
「あれ?いつの間にここにあった空き家取り壊したんだ?」
昨日までこの場所には、窓ガラスは割れ、家の壁には蔓が絡みつき雑草も伸び放題の不気味な二階建ての空き家があったのだが、昨日まであったはずのその家は跡形もなくなっていた。
代わりにその場所には、木で出来た小さな祠がポツンと置かれていた。
「・・・帰ろ」
嫌な予感がしたアオイは、自宅がある方向に向き直り早足で立ち去ろうとした。
しかし、どういうわけか祠の方を向いたまま体をピクリとも動かすことが出来ず、眼球しか動かす事が出来ない。
あぁこれが金縛りというものなのか、とアオイは驚くほど冷静に今の状況について考えていた。すると、今度はなんと体が祠に向かって勝手に動き始めた。
「これ絶対あれだ。面倒なことになるパターンの奴だ」
頭では祠に近づいてはいけないと分かっているのだ。しかし、体がいうことを聞いてくれない。
少しずつ、少しずつ祠との距離は縮まっていき、そしてアオイと祠との距離が1mを切ったところでピタリと足が止まった。
「あ、これ俺終わったな」
アオイはふとそんな事を考えたその瞬間、祠から発せられた直視できないほどの光にアオイの全身は包み込まれた。と、同時にアオイの意識も、そこでぷつりと途切れた。