先輩と後輩と後輩
翌朝、スマホを見るとメールが届いていた。
『昨日は悪かった。今日は何時に終わる?覚えてたら誘って良いんだったよな?』
私は、なんだかフワフワした気分でメールを返した。
『何時に終わるか解らないので、終わったらメールします』
『解った。すぐ食えるように仕込んどく』
そのメールを見た私は思わずニマニマしてしまったのは秘密だ。
休日出勤を面倒だなんて思うのは何時ぶりだろう?
右横のデスクに座る先輩、石山。
左横のデスクに座る後輩、葉山。
さっきから私の顔を見つめ続けている二人。
「いいかげん仕事しろ」
私の言葉にも動じない二人。
私の仕事は後一時間もすれば終わる。
コイツらの面倒は部長に頼まれているわけだが………正直知ったこっちゃない。
今日は終わったら帰ろ。
コイツらマジウザイからマッハで帰ろう。
「あの男、結婚詐欺しようとしてるに決まってる。岩渕解るだろ?」
「父親のはからいでした見合い相手が詐欺師なわけないでしょ?先輩病院行ってきたらどうですか?」
少しの沈黙が流れた。
「じゃあ、岩渕先輩があの人を料理出来ます詐欺している!とか」
「葉山、一発殴らせろ」
「ごめんなさい」
コイツら本当に失礼。
しかもコイツらの厄介なところは、失礼な上に仕事が出来ないカスどもなのに無駄に顔が整っているせいで会社の女子の私への風当たりは強い。
その上、私が仕事を手伝ってやっているのに手柄はコイツらの物。
会社の女子の間ではこのカスどもが優良物件だと思われている。
私の仲間は部長だけ。
部長は私の能力もコイツらの無能さも知っている。
『あえてコイツらを見せ物パンダにしてお前は影からコイツらを操る。お前ならそれが出来る!岩渕の評価は最高だ!コイツらよりボーナス出ないなんてヘマは俺はしない!だから、コイツらの面倒を見てやってくれ!ちなみに、土曜は娘がバイオリンの発表会だから岩渕に全て任せる!コイツらは殴っていい!頑張れ!』
部長も殴って良いんだっけ?って思ったのは秘密だ!
気を取り直して部長は仕事が出来まくる人だから休日出勤ぐらい任せろ!ってな気持ちでいたはずなんだけど………コイツらうざすぎ。
「岩渕が上手くいきっこない」
「そ、そうですよね!岩渕先輩みたいな料理下手くそのダメ女子があんなイケメン無理ですよね!」
コイツらの息の根をどうやって止めてやろう?
私が殺意をキーボードにぶつけていると私の天敵と言って良い女が現れた。
「あ~れ~石山先輩に葉山先輩だ~休日出勤ですか~?」
私、この子苦手。
今、私、透明人間。
彼女に私は見えていないらしい。
だって、二人に挟まれて座る私の名前は含まれていないのだから。
「姫川も休日出勤か?」
石山先輩は苦笑いを浮かべながら姫川結愛に話しかけた。
ああ嫌だ。仕事しない奴ばかりが集まってくる。
この姫川結愛って女は去年の新卒新入社員。
仕事を覚える気すらないくせに、男には媚びる。
顔は中の中、それを化粧で中の上ぐらいにしている。
そのわりに自分が可愛いと思っているらしい。
典型的な女子に嫌われる女子だ。
そして、私の事が姫川は大嫌いみたいです。
何故って?勿論私の横にいるポンコツブラザーズのせいだ。
コイツらの尻拭いをさせられてる私が目障りらしい。
コイツらならノシ付けてプレゼントフォー・ユーなのに………
私は思わず深いため息をついてしまった。
「!岩渕先輩居たんですね!あ、あの私何か悪いことしちゃいましたか?しちゃったなら謝ります~」
姫川は私を悪者にしたいらしい。
「姫川さん、じゃあ謝りなよ」
「へ?」
「謝るんでしょ?」
葉山のドSな性格が駄々漏れている。
「ああ、気にしなくていいよ。私そろそろ終わるし帰るから」
「「はぁ?」」
石山先輩と葉山が同時にすっとんきょうな声を上げた。
私はパソコンの画面から視線をそらさなかった。
「あの男と会うのか?」
「そうですよ」
石山先輩が立ち上がる。
「俺は認めてない‼」
「お前の許可が何故いる?黙って仕事しろ!」
石山先輩がぐぬぬっと唸って座った。
「岩渕先輩には幸せになってほしいから……」
「葉山、ならマッハで仕事終わらせろ」
「いや、そうじゃなくて……」
「黙ってやれ」
「はい………」
これ見よがしに姫川が岩渕先輩怖~いって言っていたが、正解だからゆるす!
長引きそうなのでこの辺で一端切ります!