会社のロビー
金曜になるまでに葵さんからメールが来た。
『金曜日にデザートを用意しようと思うんだ、タルトとプリンどっちがいい?』
私は、はしゃいでタルトをお願いした。
食い意地がはっててごめん。
だって、この前のミルフィーユが滅茶苦茶美味しかったから……
そして、金曜日。
約束した7時の30分前、今会社を出たら余裕で駅につける。
駅集合って事になっているが、仕事が終わっていない。
勿論私の仕事は終わっている。
可愛くない後輩とやたら馴れ馴れしくて大嫌いな先輩の尻拭い真っ最中だ。
「ちょっと休憩してきます」
「はぁ?今?」
「これは先輩とコイツの仕事であって私の仕事じゃねえ!」
「………岩渕先輩愛してます」
「無能なヤツの愛なんかいらん‼」
私は休憩室の自販機の前で、葵さんに電話をかけた。
少しのコール音が終わり、彼が電話に出た。
「葵さん?」
『うん。どうした?もうついちゃったか?』
「いえ、仕事終わってなくて遅れそうです。ごめんなさい」
『そっか。俺は待つの嫌いじゃないし大丈夫だぞ』
おいおいイケメン、普通怒って良いんだぞ‼
今までの男はたいていここで『俺と仕事どっちが大事なわけ?』とか言ってくるのが普通だ。
まあ、葵さんとは付き合っている訳じゃないけど。
「葵さんがイケメンすぎて胡散臭い」
『ひで~な~、まあ、俺の事は気にすんな。仕事頑張れよ。仕事大好きなんだろ?』
「仕事は大好きです。でも、鯛めし早く食べたい」
『ハハハ、鯛めしは逃げねえよ。じゃあな、終わったら電話しろよ』
電話が切れると私は思った。
イケメンの中でも葵さんは内面もイケメンだ。
私は鯛めしに思いをはせながら、仕事に戻った。
「岩渕、手伝ってくれてありがとうな!じゃ、呑み行くか!奢るぞ!」
「岩渕先輩、俺に奢らせて下さい‼」
いや、もうお前らの顔見てたくない。
ハッキリ言っても良いだろうか?
いや、会社に居づらくなるから駄目か?
「悪いけど、先約があるの」
「おいおいお前の先約なんかより、俺と呑み行く方を優先だろ?」
これが私の先輩だと思うと吐き気がする。
「岩渕先輩、美味しい立呑屋見つけたんですよね!行きましょう!酔ったら介抱しますから」
まさか、コイツ下心ありか?
マジうざい。
「お前、こないだ見合いしたんだって?無駄なことして………料理教室通って食える料理作れるようになったら俺がもらってやるって言ってんだろ?」
マジうざい!先輩だからって何を言っても良いと思ってやがるのか?
殴ろう。
心の中でフルボッコだ。
私は二人を気にしないでロビーに向かった。
ロビーにつくと、ロビーが騒がしい。
なんだなんだ?
野次馬根性丸だしで近寄ると秘書課の子達がキャピキャピしていた。
秘書課の子達の真ん中にかなり顔のひきつった葵さんが居て私はフリーズした。
「彼女とか居るんですか?」
「収入はどれぐらいですか?」
「何をしに来たんですか?」
ヤバイ。助けないと。
でも、割って入るの勇気いるんですけど……
その時、葵さんと目があった。
「命」
「葵さん………大丈夫ですか?」
葵さんは秘書課から逃げると私に抱き付いてきた。
「肉食怖い」
「ひゃっ」
葵さんの無駄に低くて格好いい美声が耳元で聞こえてびびって変な声が出た。
葵さんは私から離れて私を見ると、クスクスと笑いだした。
「悪いのは葵さんだからね」
「ごめん。ごめんな!」
この人本当に悪いと思っているのだろうか?
「………あれ?葵さん何で私がここに勤めてるの知ってるの?いや、それよりお土産は?何で手ぶらなの?」
見れば葵さんが手ぶらなのが解った。
私のタルトは?
「持って歩くのは気を使うから店に預けてきた」
「そっか!早くご飯を食べに行きましょう‼」
「だな」
私達がその場を後にしようとすると、先輩と後輩が立ちはだかった。
「お前は?」
「岩渕先輩誰なんですか?」
葵さんはキョトンとしてから言った。
「いつも俺の命がお世話になってます。俺は命の婚約者の河上葵と言います。これからも命を宜しくお願いします」
あまりの台詞に私は葵さんを見上げた。
「不満?」
「あ、いや、不満って言うか………婚約者?」
「見合いで上手くいったらそういう事だろ?」
そ、そうなの?
お付き合いをすっ飛ばして婚約者で良いの?
え?どういうこと?
「まあ今すぐには結婚しませんが、いずれするので宜しく!」
葵さんはニカッと笑うと私の肩を抱いてあるきだした。
私は何がなんだか解らないまま、考えるのを放棄した。
今大事なのは鯛めしにタルトだよね?
誰かそうだと言ってくれないだろうか………
続きはまた後で……
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