家族
コンちゃんの家から車で帰る途中私は葵さんの顔を見つめて言った。
「実家が近所なんだけど、下の兄にも会ってく?」
「え?………行っとくか?」
「じゃあ行こう!」
私は道案内して葵さんを実家に案内した。
「ただいま~」
実家の玄関を開けて声をかけるとパタパタとスリッパの音が響いてきた。
「お帰り~ミコどうしたの?」
「兄貴居る?」
「想?居るわよ!想~」
お母さんは二階に向かって叫ぶと私を見た。
「いつも仲悪いのに今日はどうしたの?」
「ああ、彼氏を紹介しようと思って」
「………なんで想?」
「さっきコンちゃんに会って来たから流れで!」
「………」
お母さんの眉間にシワです。
「シワが増えるよ」
「なんで!お母さんもミコの彼氏見たい!!」
「え?」
ああ!言われてみれば何故、想兄にだけ会わせようと思っていたんだ?
「お父さんは釣りに行っててもうすぐ帰って来るから上がってもらって!」
母の言葉に半開きのドアの向こうに居る葵さんを見た。
葵さんは緊張しているようで顔がひきつっている。
「帰る?」
「帰れねぇだろ」
葵さんが小さく呟いた。
うん。ごめん。
「お、ミコ!なんだ?出戻りか?」
「兄貴、変な言い方しないで」
「嫁の話聞かせろよ」
今、私の嫁はドアを挟んだ向こうに居ます。
「連れてきた」
「!見せて見せて~」
想兄がドアを勢いよく開けた。
葵さんがビクッと肩を跳ねさせたのが解った。
「か、河上葵です。命さんとお付き合いさせていただいてます」
兄がフリーズする中、母の黄色い悲鳴が轟いた。
「キャー格好良い!お母さんタイプ!」
「お母さんのタイプはどうでも良いよ」
「想もなんか言いなさい!」
「全然ミコのタイプじゃねぇ!」
「煩い!それに私のタイプなんて兄貴には言った事ないでしょ!」
「俺はコンちゃんと違ってお前がどんな男と付き合ってたか知ってんだぞ!コンちゃんに似たタイプばっかりだったろ?お前が選ぶ嫁だからきっと線の細い女みたいな感じかと………ちょっと待ってろ!」
想兄はバタバタと二階に上がりバタバタとまた戻ってきて私になんだか白い布の入ったセロハン包装の物を手渡してきた。
「嫁と言ったらフリフリエプロンだと思って買ってやったのに、こいつには似合わねえな!仕方ないからお前が着ろ裸で」
私は躊躇わずにフリフリエプロンの入った包みを家の奥目掛けて蹴りあげた。
「あ~結構高かったんだぞ!」
「要るか!」
「バカ野郎!裸エプロンは男のロマンだろうが!」
「知るか!変なもん押し付けんなバカ野郎!」
「お前が要らなくてもお前の嫁は欲しいに決まってんだろうが!」
「葵さんを巻き込むんじゃねぇ!お母さん兄貴の顔面殴って良いかな?」
「おふくろ!ミコにバックドロップくらわせて良いか?」
「どっちも駄目よ!恥ずかしいから喧嘩は後にしてくれる?アオ君ビックリしてるわよ」
葵さんの方を見ると完璧にフリーズしていた。
私と想兄はいつもこんな感じだ。
だが、慣れていない人には酷い兄妹だろう。
「アオ君上がって!この二人はこう見えて仲良しなんだから気にしないで良いのよ」
「いや、でも」
葵さんの動揺が半端ない。
「アオ君とやら!君にこれを授けよう!」
アホな兄がいつのまにか拾ってきた、さっきのフリフリエプロンを葵さんに手渡していた。
「巻き込むなって言った!」
「アオ君が義理の兄からの最強アイテムを拒否するなんて選択肢は存在していない!」
「呪いのアイテム~!葵さん受け取ったら駄目!呪われちゃう!」
私の叫びも虚しく葵さんの手に呪いのアイテムが握られた。
葵さんは呪われた。
「あ、ありがとうございます」
「ミコはスタイルだけはまともだから似合うと思うぞ」
「スタイルだけって~殺す!お前は生かしておかない!」
「望むところだ。返り討ちにしてやる」
私は家に上がるとリビングに向かった。
兄はすでに舞台のセッティングを素早く完了させていた。
「いざ勝負!」
「俺に勝とうなんざ百年早いと言うことを思い知らせてやる」
私たちが格闘ゲームを始めると、後ろでお母さんが葵さんを連れてリビングに入ってきた。
「貴方達はお客様をほったらかしにして」
「おふくろ、男には戦わなければいけない時があるんだ」
「私は女なんだけど………くらえ!そして死ね!」
「卑怯だぞ!」
「油断する奴が悪い~葵さんごめんなさい。直ぐに息の根を止めるので待ってて下さい」
「毎日トレーニングを重ねている俺に勝てると思うなよ!」
ごめんなさい。
バカな兄妹でごめんなさい。
まあ、結果はもれなく私の勝利でした。
「葵さん本当にごめんなさい」
「いや、いい、いい。命が楽しそうで良かった」
「なんかマッタリしてます?」
「お母さんと話してた」
「お母さんなんか変なこと言ってないよね?」
お母さんはニコッと笑うと言った。
「え?子供の時に男の子達から親分って呼ばれてたとか?痴漢をフルボッコにして過剰防衛でお巡りさんに怒られたとか?変質者の股関蹴りあげてKOしたとかは言ってないから安心して!」
「今言ったら一緒!」
「えへ!」
「葵さん、今のは聞かなかった事にして」
「無理だろ」
「忘れて~」
葵さんは嬉しそうに笑った。
何でそんな顔するの?
「葵さん、何を聞かされたの?」
「それは私とアオ君の秘密よ!」
「お母さんが私に有利な話をしてる気がしない」
その時、玄関の開く音がした。
「ただいま母さん、結構釣れたぞ………ミコ帰ってたのか?………どちら様?」
「こちら、ミコの彼氏」
「!」
お父さんがアワアワし始めた。
「あ、あれか?娘さんを僕に下さい的なあれか!」
「あ、いや、今日はそう言うことでは……」
「やっぱり!ミコみたいなのは付き合えても結婚は無理か~」
「あ、嫌、結婚したいと思っています」
「じゃあ!」
「いや、あの、まだ命にまともなプロポーズもしていないのに親に挨拶するのは違うと思ってまして……」
うん。葵さんごめん。
「ミコ!やったな!お嫁さんが来てくれて」
「お父さん、何から突っ込めばいい?まあ、とりあえず落ち着け」
「ミコ~」
「うん。落ち着け!」
私は完全に顔のひきつった葵さんを見て言った。
「葵さん、何か………ごめん。こんなのが私の家族です」
葵さんは私を見ると苦笑いを浮かべた。
「アオ君、ご飯食べていきなさい!」
「そうだそうだ!親父が魚さばくから食ってけよ」
「ご迷惑では?」
「ないない!食べてって!アオ君みたいなイケメンとご飯食べれるなんてお母さんテンション上がっちゃう!」
お母さんが一番嬉しそうで何か嫌だ。
結局夕飯はお父さんが作った。
まあ、魚の時はお父さんが作るのが家の習わしだから珍しくもない。
「……旨い……」
葵さんはなんだか不思議そうな顔だ。
「どうしたの?」
「いや、味を分析している」
「レシピ聞いたら?」
「いや、こう言うのは秘伝の何かがあるに違いない」
「どうした~?」
台所にいたお父さんが戻ってくるなり聞いてきた。
「お父さん、これどうやって作るの?」
「………お前、聞いても作れないだろ?」
「葵さんが作ってくれる」
「レシピ、メモするかい?」
「良いんですか?」
「いいよ!書いてくるから待っててよ!想!僕の分食べたら踵落としするから!」
「………うっす」
お父さんが居なくなると想兄が呟いた。
「アオ君、親父はああ見えてコンちゃんと一緒で強いから逆らわない方が良いよ」
「信じなくて良いよ!」
「ミコは親父の恐ろしさを知らない!嫌、真に最強なのはミコかも知れない!親父に土下座させてたもんな」
「人聞きが悪すぎるんだけど」
「親に土下座って!」
「お父さんが勝手にしたんであって、やらせたんじゃないから」
葵さんがキョトンとしている。
「書いたよ~どうした?」
お父さんは帰ってくると不思議そうに首をかしげた。
「親父がミコに土下座した話」
「ああ、お見合いしてもらうためにね!ミコ嫌そうだったから土下座したら止めてほしくてお見合いすると思ったんだよね」
「うん。土下座はきいた。お見合いしたもん」
「え?ホテルのご飯は旨いって言ったから行ってくれたんだよね?」
葵さんは呆れたような顔で私を見ると言った。
「食いしん坊」
「そうだよ!もう食いしん坊で良いよ」
私がシュンとすると葵さんは私の頭を撫でてくれた。
「イチャイチャすんなよ」
「羨ましかったら彼女作んなよ」
「うっせえ!フラれんだから仕方ねえだろ!」
想兄は家の横に住んでる幼馴染みに片想い中である。
中学生の時からずっと告白、フラれるを繰り返している想兄は格好いいと思っている。
「なっちゃん元気?」
「後で来んじゃん?」
「なっちゃん呼んでこようか?」
「そのうち来んだろ?」
私は暫く黙ると席を立った。
なっちゃんこと梶原南都子はクール系の女性。
美人ってほどじゃないけど立ち振舞いが美しい。
なっちゃん憧れます。
「おばさん~夕飯食べた~?」
「なっちゃん、ミコの彼氏が来てるのよ!」
「へー」
なっちゃんが現れると葵さんが緊張したのが解った。
「ヤバ。マジ好み。ミコちゃん良い男じゃん、ちょうだい」
「ナツ!お前こーゆうのがタイプなのかよ!」
「何やってもお前は好みじゃない」
「何でだよ」
「何でだろ?」
「なら、付き合ってくれよ」
「うん。無理」
「何でだよ~」
なっちゃんはお父さんの横に座るとお母さんが出してくれたご飯を食べ始めた。
「葵さんって言うの。それにあげないよ」
「残念コンちゃんは知ってるの?」
「うん」
「コンちゃんが良いって?」
「うん」
「じゃあ結婚するんだね。結婚式には良い男よんでね」
「………ごめん。私の知り合いは良い男居ない。葵さんの知り合いに良い男いる?」
「妻子持ちばっか」
「役立たず」
なっちゃんは酷いと思う。
それでも想兄は彼女が好きなんだ。
ドMなんだろうか?
まあ、好きなんだから仕方ないよね。
帰り道、葵さんはぐったりしていた。
「葵さん、何かごめんね。濃い家族だったでしょ?」
「いや、楽しい家族だろ?家は普通だぞ」
「会わせてくれる?」
「当たり前だろ。ベルギーに居るから今度連れてく」
「それ、普通じゃないんじゃ………」
私の家族の感想を喋り続ける葵さんにそのままお持ち帰りされるなんてその時の私は気がついてなかったんだ。
なんかすみません。




