兄と兄嫁
今の私は無敵なんではなかろうか?
マリ●で言うとこの顔の付いた星にぶち当たった後の状態!
仕事もプライベートも充実している。
そんな私に絶対に譲れない仕事が舞い込んだ。
結構大きなスポーツ用品の会社の新商品CMのコンペである。
何故この会社の仕事が譲れないのかと言えば、私の兄の居る会社だからだ。
勿論、実家に今も居る兄ではなくて海外に居る兄だ。
私の兄は二人。
長男の魂次男の想長女の命である。
ようは三人兄弟である。
一番上の海外に居る兄は、実は会社の社長の娘と結婚した。
逆玉の輿ってやつだ。
そして、専務って役職を与えられて次期社長なのだ。
勿論自身の力で勝ち取った役職で、2番目の兄と違って自慢の兄である。
何時も優しく穏やかで、私の味方になってくれる上の兄。
私が全力で甘えられる存在。
そんな上の兄の会社の仕事だ!
張り切らない訳がない。
兄に恥をかかせないためにも頑張る。
そして、週末は葵さんに会って癒される。
頑張らない訳がないのだ。
プレゼンの日私の体調は最悪だった。
風邪をひいたみたい。
今日は週末だからプレゼンさえ終わったら葵さんに会える。
頑張ろう!
意気込んで先方の会社の会議室に入るとそこには兄の姿があった。
一気に緊張した。
手が震えた。
「命?平気か?」
「大丈夫」
大夢が心配そうに私の顔をのぞきこんだ。
私は苦笑いを浮かべてそう言った。
プレゼンが始まり手の震えを誤魔化して確りと私は進行をすすめた。
自信作だった。
だけど、相手が凄すぎた。
「専務の意見は………」
「僕は今回口は出さないよ」
「そ、そうですか?………では……」
結局負けた。
体調悪すぎて頭が働かないけど、相手の作ったCMが良かったのは解った。
完敗だった。
「岩渕、帰って反省会するか?」
部長の声にはいっと言って立ち上がろうとしたら、ふらついた。
なんだか力がぬけた。
「ミコ!」
兄の声にビクッと驚いてしまった。
「君はちょっと頑張りすぎじゃないかな?ちゃんと体調悪いって言わないと駄目だよ」
兄はゆっくり私に近づくと私の頭をポンポンと軽く叩いた。
私の張りつめていた緊張の糸が切れた。
一気に私の視界はぼやけて涙がこぼれた。
「こ、コンちゃん、気持ち悪い」
「僕が?」
「違っ、吐く」
「え?……は?ま、待って!トイレまで我慢」
「無理」
兄は慌てて私を抱き締めるようにしてから持ち上げた。
「今日の、スーツ高いから頑張ってくれよ」
「うん」
兄に運ばれて私はトイレに駆け込んだ。
女子トイレで背中をさすらせて本当に悪いと思った。
「せ、専務、大丈夫ですか?」
「スーツは守ったよ!」
「スーツじゃなくて」
「ああ、大丈夫だよ。何時も一回吐けば落ち着くから」
「そっちでもなくて」
「え?」
兄は天然だっただろうか?
「今、奥様がいらっしゃいましたよ」
「アリス?」
「はい」
まだキョトンとしてる兄。
浮気相手だと思われてるなんて微塵も思っていないのだろう。
「何でコンさんは女子トイレに居るの?」
「ああ、アリス。ミコが吐いちゃって」
「ミコちゃん?大丈夫?」
「だ、大丈夫」
私からしたら、義理の姉は滅茶苦茶可愛い女性。
私より2つ年上だが、私より年下にしか見えない。
「ミコちゃん、私の家で休んでいきなさい」
「ごめん、ちょっと今日は……」
「「え?」」
今日は葵さんに会う日だから………
兄と兄嫁の眉間にシワです。
この二人私に優しすぎだよ。
「コンちゃん、薬持ってきて。バックの中にあるから」
「何も食べないで飲む気?また吐くよ?」
「そうよ!ミコちゃん家でお粥作ってあげるから」
「アリスちゃんありがとう。でも、今日はアリスちゃんの家に行くのは無理」
「ミコちゃん一人じゃ何も出来ないでしょ!」
「うっ………だけど」
「看病させて!」
可愛い可愛いアリスちゃんの言葉につまる。
「こ、コンちゃん、スマホも持ってきて電話するから」
「誰に?僕代わりにしょうか?」
「あ~止めとく」
「何で?男?」
「………」
「どんなやつ?」
「………」
「ミコ」
ああ、兄はシスコンじゃなかったはずだ。
葵さんは兄の知ってる私の好みのタイプではない。
兄は葵さんをどんな風に思うんだろ?
頭が働かない。
「ミコ」
「コンちゃんは私がお見合いしたの知らないの?」
「お見合い?」
「お父さんに土下座されてお見合いしたの」
「あの人は説教だな、で?」
「そのお見合い相手と今日会うの」
「………」
兄は兄嫁と顔を見合わせて言った。
「「で?」」
で?って言われたよ。
「ミコは男よりアリスの方が大事でしょ?アリスが心配するから家でお粥食べて薬飲んでゆっくりしたら?」
「そうよ!ミコちゃんが心配!」
可愛い!兄嫁可愛い!
「………でも」
「ミコ?」
「電話するから」
兄は苦笑いを浮かべて言った。
「解った。他の男と違う訳ね」
さすが兄!
ニコニコ笑ってスマホをとって来ようとする兄を兄嫁が止めた。
「コンさん?」
「なに?」
「先に話そうとしないでよ」
「何で?」
「ミコちゃんが嫌われたらコンさんのせいよ」
「そんなことぐらいでミコを嫌いになるような男にミコをやると思う?」
「コンさんはいつからシスコンになったの?」
「………久しぶりに会ったからかな?」
「コンさんも寂しかったのね?」
「………アリス、恥ずかしいから」
「はいはい。ミコちゃんは私が見てるから」
「………宜しく」
兄が女子トイレから出ていくとアリスちゃんはクスクスと笑った。
「コンさんずっとミコちゃんが変な男に捕まってないか心配してたのよ」
「………」
「今日のコンペだってミコちゃんの会社だって知って、こっそりのぞこうとしてたのを見つかっちゃってガッツリ出席させられちゃったみたい」
兄が私を気にかけてくれていて嬉しい。
だが、今は気持ち悪い。
「アリス……ちゃん…私、彼に、会いたいんだ」
「好きなんだね」
「好き……コンちゃんより好き」
「じゃあ、大好きだ」
「うん」
私の義理の姉は本当に可愛い。
私はアリスちゃんに笑顔をむけた。
「アリスちゃんと、コンちゃんにもちゃんと紹介したい」
「ミコちゃんの彼氏に会うの初めて!」
「うん。初めて紹介したい」
「素敵な人なんだね」
「うん。いかついけどね」
「え?………ミコちゃんいかつい人苦手じゃなかった」
「苦手………でも好き……プチマッチョのとこも好き…」
「ミコちゃんプチマッチョ好きだったっけ?」
「嫌い……でも葵さんは……特別」
「そっか。ミコちゃん可愛い」
兄嫁はニコニコ優しく笑って私の頭を撫でてくれたのだった。
長男コンちゃんと兄嫁アリスちゃんが出てきました。




