会いたい
仕事終わりに私は葵さんに電話をかけた。
「もしもし?」
『ああ、どうした?あ、いや、何もなくても電話して来て良いからな』
「うん。あの、あのね………このネックレス………本当に私がもらって良かったのかな?」
私の言葉に葵さんが黙ってしまう。
「あの、聞こえてる?」
『ああ、聞こえてる………何で?やっぱりデザインガキすぎたか?』
「違う………葵さんにとって、このネックレスは大事な物なんでしょ?」
『………命より大事なものとか無いけど』
葵さんの突然の甘い言葉に一気に顔に熱が集まる。
『………すまん。ちょっと寒すぎたな。忘れろ』
「む、無理~ヤバイ今誰にも会えない」
『どうした?』
「葵さんがあんなこと言うから………顔熱い」
『………写メ送って』
「絶対に嫌」
『ああ、クソ!スッゲー可愛い顔してんだろうな~』
「し、してないよ」
『嘘だ!』
葵さんの深いため息が聞こえた。
『会いたくなるだろ~』
「………そうだね」
同じ事を思ってしまっていた。
『会うか?』
「無理、ごめん」
『残念』
「うん。残念」
『………週末何食べたい?』
「葵さんの作ったご飯」
『会いたくなるって言ってんだろ』
ああ、会いたい。
声を聞いただけで癒されるけど、会いたくなって寂しくなる。
なんだか胸がいっぱいで苦しくてお腹がいっぱいになったような気がする。
「会いたい」
思わず声に出てしまった。
『何処に居る?迎えに行く』
「明日も仕事だもん」
『うちから行けば良いだろ?着替えとか化粧品とか必要な物持ってこい』
「………我が儘言ってるよね」
『馬鹿、そんなの可愛いだけで我が儘でも何でもねえよ』
「なんか、そう言ってもらえて満足しちゃった。ありがとう」
『馬鹿!満足してんじゃねえよ!俺は満足してねぇ!俺が会いたいんだ!』
可愛いな葵さん。
萌え萌えでキュンキュンだよ。
「すぐに家に帰って準備する」
『家まで迎えに行く』
「大変じゃない」
『早く会いたいんだ』
キュン死する。
急いで家に帰ってお泊まりの準備をする。
化粧品とかスキンケアとか小瓶にうつしている時間は無い。
新しく買ったパジャマもせっかくだからおろそう。
下着は透け透けはもう無理だ。
ヨレヨレじゃ無いもので………
「し、しないか………する?」
解らないならちょっと気合いをいれるか?
期待してると思われるのはまずいからちょっとだけ……お気に入りにしよう。
その時スマホが鳴った。
私は跳び跳ねそうなぐらいビックリした。
スマホを見ると大夢からだった。
うざい。
でも仕事だったら?
ううううう~
私は仕方なく電話に出た。
「何?」
『暇ならメシでもどう?』
「無理」
私は電話を切った。
気持ちを切り代えて荷物を持つと部屋を出た。
なぜこうなった?
マンションから出ると、何故だか葵さんと大夢が睨みあっていた。
一回自分の部屋に戻っても良いだろうか?
面倒な事に代わりはないよな?
「何してるの?」
思わず出た声に二人が私の方を見た。
最初に口を開いたのは大夢だった。
「命、話があるんだ。僕に時間をくれないか?」
私は話すこと無いよ?仕事の話以外だけど。
私が口を開く前に葵さんが言った。
「命はこれから俺との時間なんですよ。あんたは会社で会えるでしょう」
「会社で出来ない話なんですよ」
「会社で出来ないような話を命にしないでいただきたい」
葵さんの敬語がこわい。
睨みあう二人。
「この時間が勿体無いので、話をかってにします。命」
大夢は私の方を見ると言った。
「命が僕と別れてから彼氏をつくってなかったって聞いて正直嬉しかったんだ!命、結婚しよう!」
ああ、誰かお巡りさん呼んでくれないかな?
私が大夢と別れてから彼氏を作らなかったのは、寄って来る男が料理上手な女が好きだったからで大夢を引き摺っていたからじゃないよ。
「フランスに行ってからも命の事が忘れられなかったんだ!僕は本気だ。僕と結婚してほしい!」
見れば葵さんは驚いた顔でフリーズしている。
「は~………無理」
「なんで?」
「好きじゃないから」
「だって」
「だってじゃない。私は大夢に一緒にフランスに来てほしいって言われた時にもう気持ちが無くなったの」
「なんで?」
「………一気に冷めたとしか言いようがない。それに、私が今好きなのは………あ、葵さんなの」
私は葵さんのTシャツの裾を摘まんでみた。
「何時になるか解んないけど葵さんと結婚するから大夢とは無理。結婚するのは………葵さんが良い」
は、恥ずかしい。
なんだこの羞恥プレイ。
好きな人の前で、け、結婚したい宣言。
キツすぎる。
葵さんはどんな顔してる?
見たいけど見れない恥ずかしい。
たぶん今の私は耳まで真っ赤に違いない。
「命もこう言ってますので、俺が責任をもって幸せにします」
葵さんの声はなんだか優しくて、恥ずかしい。
アワアワしている私をしりめに、Tシャツの裾を握っている私の手をギュッと握ぎってくる葵さんに、またキュンとしてしまった。
葵さんは私の手を引いて車に連れていくと私を車に乗せた。
ドアを開けてくれたりとか紳士的だ。
葵さんは運転席に座ると言った。
「ちゃんとプロポーズするから待っててくれ」
「気長に待つよ」
「近いうちにする」
「無理しなくていいよ」
「無理じゃない。むしろ………結婚すれば命が俺の作るメシを可愛く食べてるの毎日見れるだろう?それを考えると今すぐにでも結婚したい。けど、一生に一度の事なんだからプロポーズとかそう言う事はちゃんとする」
車が走り出すと、私は思った。
さっきのはプロポーズだっんじゃないか?
私はニヤニヤしているのがバレないように車の外の夜景を見つめ続けるのだった。