gunjo 千晴目線
この日僕はおふくろに頼んで仕事場に連れてきてもらっていた。
今回の仕事がミコちゃんの会社が相手だと知ったからだ。
おふくろの後をついて行くとスタジオの中では嫌な空気がただよっていた。
「メイクまだ?疲れちゃった~」
高飛車な女の子は高校生ぐらいか?
周りの大人がオロオロしながらご機嫌とりをしている。
嫌な所に来てしまった。
僕は本気でそう思った。
「千恵子さん……俺無理っすあの子を上手く撮れる気がしないっす!」
そこに現れたのは若くてイケメンの男。
手にはカメラが握られていてカメラマンなのかもしれない。
「誰っすか?この天使」
「私の息子」
「………こんなでかい子供がいたんすか?ってか息子!」
「千晴です。宜しくお願いします」
「仙川っす。にしても可愛いすね!」
可愛いって言われるのはなれてるからニコッと笑っておく。
「可愛いっす~」
「ミコ様もメロメロなんだから」
「天使君、羨ましいっす!俺もミコ様にメロメロになってほしいっす………無理っす想像すらできねえっす」
どうやらミコちゃんはここでは凄く力のある人なのかも知れない。
「ミコちゃんは居ないの?」
「ミコ様をちゃん付け!天使君恐ろしい子!」
彼の中で僕は天使君って事になったらしい。
「まあ、ミコ様は女神様みたいなもんすから天使君がちゃん付けしていても何だか納得っす!ミコ様は後から来るらしいっす」
「早く来ないかな~」
「俺も同意見っす!ミコ様が居たらこんな空気になってないっすから………」
どういう事だろ?
僕がキョトンとすると突然肩をつかまれて驚いた。
振り返るとさっきの高飛車女が物凄いキレた顔をして立っていた。
「あなた何なの?」
「この子は私の子供で社会科見学に来たんです」
おふくろがフォローしようと口をはさめば高飛車は眉間にシワを寄せた。
「目障りだから連れてくるんじゃないわよ!」
そこまで言うの?
僕のせいでおふくろが文句を言われるなんて嫌だ。
「なら、僕帰るよ」
「え?チー良いの?」
「うん」
僕が帰ろうとしたその時だった。
「帰るなら貴女が帰れば良いんじゃないでしょうか?」
そこに現れたのはミコちゃんだった。
僕らの間に入ったミコちゃんの近くにはお偉いさんみたいなおじさんが数人居た。
「パパ、この女何なの?」
「このCMの企画を立てさせていただきました岩渕と言います。御社の社長がご自分の娘が地下アイドルをしているから是非ともCMに起用してほしいと言うので貴女を起用しました」
ミコちゃんは綺麗な笑顔で社長さんの方を見た。
「社長、私が今言うことが気に入らなければ我が社を切っていただいて結構です」
「………」
社長さんの顔がひきつっている。
「私たちはこの仕事にプライドを持っています」
「私だって」
「貴女は相当なアホですね。今貴女は最大のビジネスチャンスを不意にしているのですよ」
「え?」
「地下アイドルなんて知名度のない人間が業界の人間を顎で使う。その弊害は1つ貴女は一生地下アイドル止まりってこと。業界の人間は横の繋がりなの。貴女は一人に辛く当たって10の仕事を不意にしているのと一緒。まあ、10が最低ラインだけどね」
「な、何言って…」
「もっと解りやすく言いましょうか?ここで仕事をしている人間はみんな自分の仕事に次、貴女が来ることを嫌がるでしょうね。って事は貴女を起用するならその仕事はしないと言うこと。こんな狭い業界であの地下アイドルは目を付けられているなんて一人が言えば一気に広まるのよ。広まった先には何の仕事も回ってこないって事しかないでしょ?」
ミコちゃんはニコニコしながら社長さんに近寄って言った。
「私はプライドを持って仕事をしています。社長が今ここで決めてください。娘に媚びを売って我が社との契約を切るか、我が社との契約を取り娘さんを黙らせるか?」
社長さんが真っ青な顔で黙ると横に居たカメラマンさんが言った。
「契約を切るのであれば、自分もこの会社の仕事は一生しないっす」
周りからもそんな声が上がる。
社長さんはミコちゃんに頭を下げて言った。
「娘がすまなかった。別のモデルをすぐに用意できるだろうか?」
「勿論です。社長の勇気ある決断に感謝します」
ミコちゃんの柔らかな笑顔に社長さんも安心したような顔をした後娘の首根っこをつかんで去っていった。
「ミコ様~格好良かったっす!一生ついていきます!」
「仙川君。君はいろんな賞をとってる凄いカメラマンなんだから、うちみたいな弱小メーカーじゃなくても仕事出来るでしょ?」
「ミコ様に会えるのはこの仕事だけっすから次も俺を呼んでくれっす」
「ありがとう」
仙川さんは顔を赤らめてニコニコしていた。
そしてミコちゃんは僕の所まで来るとギュッと抱き締めてくれた。
「チーちゃん大丈夫?」
「うん大丈夫だよ!さっきのミコちゃん格好良かったよ」
「ありがとうって言って良いのか?」
「言って良いよ~」
ミコちゃんの体に腕を回してギュッとし返す。
ミコちゃんとギュッとすると、ちょうどミコちゃんのおっぱいが顔にあたって気持ち良い。
「ミコちゃん好き~」
いつもは早く大きくなりたいって思うけどミコちゃんがギュッとしてくれるならこのままでも良いな~なんて最近思うんだ。
「天使と女神のコラボ!一枚良いっすか?」
「良いよ~!出来たら一枚ちょうだい。僕大事にする!」
ミコちゃんがニコニコしているとガッと脇に手を入れられてミコちゃんから引き剥がされた。
アオちゃん?
って思ったけど違かった。
見たことない男の人が僕を持ち上げていた。
「大夢?ちょっと何?」
「命は本当に警戒心が無いな~」
「はぁ?」
「この年の男の子はもう男だよ」
「だから?意味解んないんだけど?」
「これだから………」
ミコちゃんが少し怒ったような顔をしている。
ゆっくりとその男は僕を離してくれた。
「岩渕先輩」
「ああ、葉山良いところに。新しいモデルマッハで探して」
「それなら僕が手配した」
「……そう。さすが大夢」
「惚れ直した?」
「惚れてない」
どうやらこの男はミコちゃんが好きみたいだ。
仕事のために一緒にいられないミコちゃんを見送って僕はおふくろを見た。
「あの大夢って人ミコちゃんが好きなの?」
「あの男はミコ様の前彼」
「え?未練タラタラじゃん」
「私あいつ嫌いなの、まさか帰って来てるとはね」
「帰ってって?」
「海外勤務になってミコ様と別れてイギリスだか、フランスだかに行ってたの」
へーミコちゃんにはもうアオちゃんが居るのに。
アオちゃんとミコちゃんはお似合いなんだから邪魔しないでほしいよ。
代わりのモデルが来て、おふくろがメイクを始めた。
「あれ?これってgunjo?」
「は、はい!私、この指輪しているときは仕事が上手くいくって思えるんです」
可愛いモデルさんの右手の中指に竹が巻き付いたようなデザインの指輪がついている。
「そうなんだ~運命かもね。貴女売れるわよ~」
「へ?何でですか?」
「ミコ様って企画開発の人が居るんだけど、ミコ様の企画に出た子はスタッフからついつい気に入られて売れるって決まってるのよ!あ、ミコ様~!」
おふくろが手をふる先にミコちゃんがいた。
ミコちゃんはニコニコしながらこっちに来てくれた。
「新しいモデルさんね」
「よ、宜しくお願いします」
モデルさんは椅子から立ち上がって頭を下げた。
「ああ、立たなくて大丈夫よ。私の方こそ宜しくお願いします。貴女が来てくれて助かったの」
「ミコ様、彼女gunjoの指輪で気合い入るんだって」
「!そ、そうなの?………」
ミコちゃんの顔がテレたようにへにゃっと笑顔になった。
うわ~スッゴい可愛い顔。
ミコちゃんって本当にアオちゃんが好きだよね。
「………綺麗な人……」
呆然とモデルさんが呟いた。
同意見です。
「へ?あの、ごめんなさい。自分の世界に入っちゃった!」
顔を赤らめて照れ笑いを浮かべるミコちゃんに胸キュンだよ。
「私もね、今してるネックレスがgunjoなの」
「………見たこと無いデザインですね?」
「だってそれ、アオさんが生まれて初めて作ったネックレスだもん」
「へ?」
「私とさっちゃんはアオさんと高校の同級生なんだけど、そのネックレス切っ掛けでアオさんのブランド名がgunjoになったんだよ。そのカイヤナイトって石の群青色からgunjo」
「そ、そうなの?」
「知らなかった?」
「し、知らなかった!ど、どうしようそんな大事なものもらっちゃって良いの?」
ミコちゃんがアワアワしだすのを見て僕は思わず笑ってしまった。
「ミコちゃんはアオちゃんと結婚するんでしょ?ならずっとつけとけば大丈夫だよ。アオちゃんは一緒に居れない時間をそのネックレスで埋めようとしてるんだから、ずっと付けとかないと」
ミコちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。
うわ~さらに可愛い。
耳まで真っ赤なミコちゃんにキュンキュンだよ。
勿論キュンキュンしてるのは僕だけじゃないみたいで、仙川さんが望遠カメラで気が付かれないように写真を撮っている。
後で焼き増ししてもらおう!
アオちゃんにプレゼントしたら何でも好きなもの買ってくれそう。
新しいゲーム買ってもらおう。
「gunjoの人と付き合ってるんですか?」
「う、はい」
更に赤くなるミコちゃん。
「可愛いです!格好良くて好きな人の事になると可愛いだなんて憧れます!」
「え!いや、そんな………」
ああ、アワアワしてるミコちゃん可愛い。
その後もモデルさんのキラキラした目で褒め称えられてアワアワする可愛いミコちゃんを見ながらアオちゃんがここに居たら萌え死んでいたんじゃないかって勝手に想像してニヤニヤしてしまったのは仕方ないと思うんだ。