ミルフィーユ
何でこうなった?
何故かまた目の前にワイルド系イケメンがニコニコしていた。
「なにも言わずに食べてくれ?」
高級料亭の個室で彼が出してきたのは無印で真っ白なケーキの箱。
中をのぞくとミルフィーユが5つ入っていた。
生クリームとイチゴが挟まるパイ生地が3層構造になっていて一番上には生クリームの上に大きなイチゴが乗っている。
「綺麗!断面が綺麗!うわ~美味しそうなのに食べるのが勿体無いぐらい美しい~」
私はミルフィーユを1つ、彼が用意してくれていた紙皿にのせるとマジマジと眺めた。
そこで私はハッとした。
「どうした?」
河上さんは心配そうに私を見つめた。
「いや、こう言う時の女子って結局゛食べるのが勿体無い~゛とか言ってガッツリ食べると思いませんか?例にもれず私も食べちゃうんですけどね!なんか、定番の台詞を吐いてしまったな~とか思って」
「ハハハ、そうだな。目の前でそんなことを言われたのはじめてだ」
今日の河上さんはなんだかフレンドリーで話しやすい。
「いただきまーす」
私はミルフィーユの上のイチゴを先に食べてからミルフィーユを倒して一口サイズにフォークを刺した。
サクサクのパイ生地がパラパラと欠片を落とした。
「あー、この欠片勿体無い。一口で食べられたら欠片まで食べれるのに」
「一口サイズ………欠片勿体無い?」
「うわ!美味しい~!生クリーム甘過ぎなくてイチゴの酸味とマッチしてて美味しい~!これ、何処のミルフィーユですか?買って帰りたい!」
「え?」
小さな沈黙が流れた。
「美味しいお店は教えたくない的な感じですか?」
「いや、違」
「まあ、私もそういう店ありますから無理しなくて大丈夫です。でも、また買ってきて下さいね!お金払いますから」
河上さんは呆然と私を見つめた。
「………それ、俺が作ったんだ」
「へ?………河上さんパティシエでしたっけ?」
「いや、趣味で」
「凄い!趣味でこのクオリティ?貴方、天才ですね?」
河上さんは楽しそうに笑いだした。
「俺は命ちゃんの方が天才だと思う」
「゛ちゃん゛付けば恥ずかしいです」
「じゃあ、命」
「手馴れすぎじゃないですか?可愛い彼女居るでしょ?」
「居ないよ……普通の女の子って理解し難い時とか多くてさ。ほら、さっきの゛食べるのが勿体無い~゛の話とかさ」
河上さんはケーキの箱から1つミルフィーユを出して素手で持ち上げるとパクッとミルフィーユにかぶりついた。
豪快だ。
「残りは命が持って帰って良いよ」
「………ありがとうございます」
河上さんは口のはしについたクリームをペロリと舌で拭った。
無駄な色気を振りまかないでくれ。
「河上さんはモテるでしょう?」
「葵だ」
「……言いませんよ」
河上さんはキョトン顔だ。
ワイルド系のキョトン!ギャップ萌え?
「俺も命って呼んでるんだから良くない?」
「良くない。気になるなら私の事も苗字で呼んでください」
「厳しい………命が俺の事名前で呼んでくれるなら好きな時にミルフィーユ作ってやる」
「葵さんは卑怯です!逆らえない!」
葵さんはまた、楽しそうに笑った。
何でこの人は私との距離を縮めようとするのだろう?
「命さ今度の金曜の夜、会おう」
「金曜ですか~?」
「知り合いの居酒屋の鯛めしが旨いんだ」
「金曜ですね。7時でも大丈夫ですか?」
「良いよ。スマホの番号とメアド教えて」
「………だから、手馴れすぎじゃないですか?」
「鯛めし諦めるか?」
「うぅ~逆らえない~!」
こうして私はまたもや葵さんと会う約束をしてしまい、さらに連絡先まで交換してしまったのだった。
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