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プリン

長めかな?

 目が覚めると葵さんに抱き締められていた。

 昨日葵さんの所に泊まったんだった。

 葵さんの腕の中は落ち着く。

 折角だからもっと近寄りたい。

 葵さんの胸にすり寄る。


「マジで勘弁してくれ」

「ふぇ?」

「俺も命の胸にスリスリしていいか?」

「ごめん、寝ぼけちゃった。おはよう」

「………」

「お腹すいちゃった」

「食いしん坊め………今なんか作る」


 葵さんが起き上がった。

 私は一緒に起き上がると手を広げた。

 キョトンとした葵さんに首を傾げて言った。


「ギュッてする?」

「………する」


 葵さんは私の腰に手を回して私の胸に頭をのせた。


「うわ………ヤバイ」

「なに?」


 私はゆっくり葵さんの頭を撫でた。


「ヤバイ………」

「嫌なら離れるよ」

「嫌なわけないだろ?」

「じゃあ何?」

「いや、俺の息子が爆発しそう」

「………聞きたくなかったんだけど」

「仕方ないだろ!朝だし、好きな女にこんなことされたら息子が大暴れでも」

「聞きたくないってば!」

「このまま押し倒して良いか?」

「駄目に決まってるじゃん!」

「………」

「千晴君居るし、お腹鳴る」

「チーが居なかったら?」

「………」

「やっぱり幸治殺す」

「幸治って千晴君のお父さん?」

「そう、昨日チーを預かってほしいって頼まれた。チーはさ、あの見た目のせいで誘拐されそうになったりとかストーカーされたり大変なんだよ。だから、出来るだけ一人にはしたくないんだ」


 そ、それは大変だ。


「まあ、チーは自分を守るために武術にたけてるからちょっとやそっとじゃ誘拐なんかされねえし、大の男をフルボッコに出来るぐらい強いんだけどさ」

「そうなの?」

「人間不振ぎみなのに、命にはすぐなつくし………俺より命とイチャイチャするし」


 もしかして拗ねてる?


「葵さんとはこれからいっぱいイチャイチャするんじゃないの?千晴君とはたまにしか会えないんだよね?」

「そうだけど………命の全てが俺のものなら良いのに」

「何それ?」

「………俺ヤバイな……普通に冷静になったわ………息子も落ち着くレベルで自分に引いた………」


 葵さんは深いため息をついた。

 取り合えず葵さんの頭を撫で撫でした。

 






 昨日着ていた服に着替えてメイクをしてからリビングに向かうと葵さんが朝ごはんにオムレツにコーンスープ、ハムと野菜が沢山挟まったベーグルを出してくれた。

 朝ごはんが出来上がって暫くして千晴君も起きてきて私の隣に座った。

 

「チー、ブルーベリーのチーズケーキもあるけどどうする?」

「チーズケーキとカフェオレ」

「了解」


 二人は仲良しだ。


「ミコちゃん!アオちゃんとイチャイチャ出来た?」

「それなりにね」

「良かった。ミコちゃんが嫌じゃなかったらまた遊んでくれる?」

「勿論だよ!」

「えへへ」


 チーズケーキとカフェオレを持った葵さんは複雑そうな顔で言った。


「たまにな!毎週来るとか勘弁しろよ」

「解ってるよパパ~」

「パパじゃねえ!」

「パパ~私にもカフェオレ!」

「………命にパパって言われるのはなんかグッとくる」

「変態~」

「おい!」


 何だか楽しくて笑ってしまった。

 そして、そのあと三人で朝食を食べた。

 食後には葵さんがアールグレイの紅茶を出してくれて三人でマッタリした時間を過ごした。

 そこにインターホンの音が響いた。


「幸治か?」

「たぶん」


 千晴君のお父さん!見たい!

 葵さんが玄関に向かうと千晴君は私の腕にしがみついて言った。


「ミコちゃんとアオちゃんが結婚したら僕嬉しいな。ミコちゃんってアオちゃんの周りにいた女の人とは何だか全然違うし、アオちゃんの反応も全然違うんだ。アオちゃん僕を預かった時って女の人と会う約束しててもやめちゃうのが当たり前だったんだよ」

 

 千晴君は照れたように笑った。


「アオちゃんが約束を断らないぐらい一緒に居たい人がミコちゃんだよ。だからアオちゃんを幸せにしてあげて」

「………私の方が幸せにしてもらってるんだけどな」

「アオちゃんの料理美味しいもんね!」

「馬鹿にしてる?」

「ミコちゃん食いしん坊だもんね!」


 否定できないのが悲しい。

 そんな話をしていたら葵さんがイケメンを連れてリビングに戻ってきた。


「チー、また命とイチャイチャしてやがるな!」

「ミコちゃん大好き!」

「離れろ!」

「はじめまして、千晴の父の幸治と言います。この度は息子がご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 礼儀正しい人来た~!

 う?いや、なんか見たことあるかも?

 どこだっけ?


「あ!satiさんですか?」

「!?………自分を知っているんですか?」


 satiこと゛サチ゛さんは伝説のメイクアップアーティストと呼ばれている人で、私の務める広告会社では有名人だ!

 サチさんにメイクを担当してもらえたらどんな服でも靴でもアクセサリーでも売れると評判だからだ。


「あ、あの!握手してもらって良いですか!」

「命!お前、俺のブランドは知らないのに幸治は知ってんのかよ?」

「うちの会社でサチさんを知らない人は居ないの!サチさんの弟子の千恵子(ちえこ)さんとは仕事したことあるけどまだサチさんのオファーは通ったためしがない!」

「………君は千恵子に気に入られてるんだね」

「へ?」

 

 私がキョトンとすると千晴君が言った。


「おふくろは気に入った相手を親父に会わせるのが嫌なんだ!親父に惚れちゃったら嫌いにならないといけなくなるからって!だから、親父と仕事したことない人はおふくろに気に入られてるって事」


 私は暫く黙ると叫んだ。


「千恵子さんかチーちゃんのママ!ってかサチさんの奥さん!………言われてみればチーちゃんの髪質は千恵子さんと一緒かも………千恵子さんに三つ編みさせてもらったことあるけど千恵子さんも髪の毛フワフワだもんね」


 その場に居た全員が黙った。

 何?


「命はチエの髪の毛触ったんだ」

「へ?千恵子さんは会うと撫でて~って抱きついてくるけど?」


 更に皆が黙ってしまった。

 え?だから何?

 そこにまたインターホンが鳴った。


「チエだな」


 葵さんが玄関まで千恵子さんを迎えに行った。

 葵さんが戻ってきた時千恵子さんと目があった。


「!ミコ様~何でこんなとこに居るの~運命?運命だよ~ギュッてして撫で撫でして~」


 千恵子さんは何時ものように私に抱きついた。

 この人、本当に可愛い。

 私は思わずギュッと抱き締め返して頭を撫でた。


「チエ!命とイチャイチャすんなこのやろう!何時もだったら頭触られんの嫌がるくせに命に撫で撫でされやがって!」

「やろうじゃないし!ってかアオさんみたいな女遊び激しい人はミコ様に近寄んないでよ!」

「人聞き悪い事を命に吹き込むんじゃねえ!嫌われたらどうしてくれんだ!」


 千恵子さんは私を葵さんから庇うように背中を向けた。


「命は俺の彼女だ」

「はぁ?殺すわよ」

「もう嫌だ。幸治早く連れて帰ってく………」


 葵さんの視線の先に膝をついて項垂れるサチさんの姿があった。


「おふくろ、親父が絶望してるよ。慰めなくて良いの?」

「ミコ様を守る方が大事」


 千恵子さんの言葉にサチさんがうずくまってしまった。

 大の男が小さなマルに………

 

「千恵子さん、葵さんの言ってることは本当なんだよ。付き合い始めたの葵さんと」


 千恵子さんは絶望的な顔をした。


「嫌だよミコ様!ミコ様にはもっと良い男が居るに決まってるよ!」

「うん、そうかも知れないけど、葵さんが良いって思っちゃったんだよ。私から告白したのにやっぱり無しには出来ないよ。千恵子さんが私のためを考えてくれて滅茶苦茶嬉しかったよ!ありがとう!」


 千恵子さんは少し目をうるうるさせて頷いた。

 そして、葵さんの方を見ると冷たく言った。


「ミコ様泣かしたら風呂場で溺死させるから」

「地味にリアルで恐えよ!」

「千恵子さん大丈夫!たぶん泣かすのは私の方だと思うし!」

「アオさんならガンガン泣かして良いよ!私が許す!」

「本気で嫌だ!そこの親子マジで帰れ!」


 葵さんの悲痛な叫びも虚しく、三人は帰ろうとしなかった。





 私、今両手に花です。

 右に千晴君左に千恵子さんが私の腕にしがみついているのです。


「人質を解放し速やかに帰れよ!」

「だってミコ様とプライベートで遊べるチャンスなんだよ!私たちの事務所の中でもミコ様と仲良くなれたら成功するって有名なんだから!」

「チエは今すぐ幸治をどうにかしろ!」


 見れば部屋の隅っこにサチさんが体育座りしていじけている。


「幸治がウザイ!何時もはところ構わずチエとイチャイチャしててウザイが今日は更にウザイ!」


 私は千恵子さんに笑顔を向けた。


「びっくりしましたよ。千恵子さんが何時も言ってるラブラブの旦那様がサチさんだったなんて!」

「結構有名なんだけどな!サッちゃんとミコ様は会わせたくなかったんだけどな」

「………私、サチさんに憧れてましたけど恋愛感情とかはないですからね!むしろ千恵子さんの話してくれる旦那様の話が全部サチさんがやってくれていた事だと解ってそんな感情持つなんて馬鹿げてるって思いますよ!しかも!こんな可愛い子供までいるなんて!千恵子さんの幸せを私にもわけてくださいね!」

「うん!ちょっとサッちゃん慰めて来るね!」

「はい!」


 何故か葵さんが私の前にカラメルのたっぷり乗ったプリンを差し出した。

 私は躊躇う事なくスプーンを手にとりプリンを口に運んだ。

 プッっちんのプリンと違ってカラメルの苦味が大人味のプリンだ!

 

「このカラメル好き~」

「命の笑顔に癒される」


 葵さんはかなりグッタリしていた。


「疲れた時は甘いものだよ!葵さんはい!アーン」


 葵さんは私が差し出したプリンをがぶっと食べた。


「癒される~」

「だよね!甘いもの癒されるよね!」

「バカ、命に癒されてんだろ?」

「ミコちゃん、僕も!」

「あ、はい!アーン」

「………苦い」

「こら!だから何でチーにもやるんだよ!俺の萌えとキュンを返せ!」


 葵さんは眉間にシワをよせて不満そうだ。

 私はクスクス笑って言った。


「葵さんのプリンで幸せな気持ちになったからおすそわけだよ!皆で幸せになった方が良いと思ったの!」

「………クソ!可愛い」

「解る~アオちゃん口の中が苦いよ~チーズケーキ残ってないの?」

「命にお土産に渡す分しかない!」

「あるってことじゃん!ちょっとだけで良いからちょうだいよ!!」

「葵さん!」

「俺は命に食ってほしくて作ってんだよ!」

「僕も食べたい!」


 私が密かにキュンとしてしまったことを葵さんは知らないだろう。


「葵さん、チーズケーキ出してあげて!ほら、手伝うから!」


 私は葵さんの背中を押してキッチンに向かった。


「命」

「葵さんありがとう!私のためにいろいろ作ってくれて。大好き」

「………いや、その」

「葵さんが私に食べてほしいから作ってるって言ってくれてキュンとしちゃった!」

「俺は今キュンキュンしてるんだけど………あいつら早く帰らないかな~」


 葵さんは機嫌が良くなったみたいだ。

 葵さんはチーズケーキを切り分けてくれた。

 ちゃんと人数分になるようにしてくれたのが嬉しかった。

 キッチンから戻ってきたらサチさんの機嫌も直っていて皆でチーズケーキを食べることになった。


「なんか少ない」

「ご、ごめんね!私が結構食べちゃってて」

「ミコ様のためなら何でも大丈夫です!」


 うん。千恵子さんになつかれている。

 ………………ただいま私、気まずいんです。

 なぜって?それはね………千恵子さんが今サチさんの膝の上に抱えられてるからだよ。

 葵さんも千晴君も慣れっこみたいで気にしていない。

 私は気になるよ!

 ごめん。気になる。

 しかも、千恵子さんがサチさんにアーンしてあげてる………膝の上に乗ったまま。

 気まずいです!


「おふくろ、ミコちゃんの動揺が半端ない」

「ミコ様、私達は空気だと思ってね!」

「………千恵子さん………そんな存在感を主張した空気は無いよ~」


 葵さんは私にダージリンの紅茶を出しながら言った。


「コイツらは何時もこれだから………自分が空気だと思う方が楽だぞ」

「う、うん」


 私は空気、私は空気………チーズケーキやっぱり旨い!


「命は順応性が良いよな」

「いろんな物や人と関わる仕事だしね」

「仕事ってか命の性格のせいだろ?」

「そうかな?………チーズケーキもプリンも美味しい。葵さんありがとう」

「今言うなよ………」

「へ?何で?」

「押し倒せない」

「じゃあ、今のタイミングバッチリじゃん!」

「泣いて良いか?」


 この後、夕方まで皆で遊び夕飯を葵さんに御馳走になって帰った。

 帰りぎわ葵さんに何故帰るか聞かれたけど、明日は実里と出掛ける約束をしている。

 葵さんの項垂れた姿にキュンキュンしてしまっていることは葵さんは知らないだろう。

葵さんごめん、まだ不憫キャンペーン実施中でした。

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