お泊まり
葵さんは子煩悩だと思う。
千晴君のお迎えが来ないと解ってからは千晴君のお父さんのように甲斐甲斐しく構っている。
「ほら、ハミガキしてこい」
「するよパパ~」
「俺はお前のパパじゃない」
「だって親父よりパパっぽい」
「それは喜んで良いのか?」
「じゃあ、私はママかな?」
「ミコちゃんは………食いしん坊」
「………うん、あってる」
千晴君は可愛く笑った。
癒される。
「一緒に歯磨きしよっか!」
「うん!」
千晴君と手を繋いで洗面所に行こうとしたら葵さんに手を叩き落とされた。
「チーとばっかイチャイチャすんなよ~!」
「もうアオちゃんは我が儘だな~」
「子供みたいな事言っても可愛くないですよ」
「一回泣いて良いか?俺は今日、命とイチャイチャするつもだったんだよ!なのにチーとばっかり……」
私が困った顔をすると千晴君はニコッと笑って言った。
「僕歯磨きしてくるからイチャイチャしてて良いよ!それか僕早めに寝るから一緒にお風呂入ってきたら?」
待て、マセガキ!変なこと言うな!
「命!」
「葵さん期待するな!チーちゃん黙れ」
「「はい」」
二人がしょぼんとしてしまったがどうでもいい。
その後千晴君が歯磨きに行ったのを見届けてから葵さんの顔をのぞきこんだ。
「何だよ」
完璧に拗ねている。
歯磨きがどれぐらいで終るか解らないのにイチャイチャなんて出来ないだろ?って言ってやりたい。
「次のデートは何時にしますか?」
「明日」
「明日………着替え取りに行ってもいい?」
「………命は……俺の事好きか?」
「好きじゃなかったら、ここに居ないとは思わない?」
「………」
「好きだよ」
「あああああああ~マジで好きだ!何で今日チーが居るんだよ!」
あんたが預かって来たんだろうが………
見れば千晴君が帰ってきた所だった。
「アオちゃん何叫んでるの?怖いんだけど」
「チー、一回抱き締めてもいいか?」
「嫌だよ気持ち悪い」
「お前をじゃねえよ!命に決まってんだろ!」
「何で僕が居ない間にしとかないの?」
「お前が戻ってくるのが早かったんだろ!」
「歯磨きの時間なんてたかが知れてるでしょ?」
千晴君、もっともです。
「ミコちゃんもアオちゃんが可哀想だからチューぐらいしてあげなよ!」
チューですか?お子様が居るのにですか?
「そうだそうだ!」
チューって何だっけ?
ネズミのマネでもしたら………ドン引きされるか………
「殴られたくなかったら黙れ」
取り合えず脅してみた。
二人はシュンとしてしまった。
私は仕方なく二人のほっぺにキスをした。
「ミコちゃん好き!」
「何でチーにまでするんだよ!」
「わ、若いピチピチのお肌が………つらい」
「ミコちゃんもピチピチだよ!」
「十代の肌を持つ子にピチピチって……無理がありすぎる~」
千晴君は苦笑いを浮かべてから思い付いたように私のほっぺを両手で挟むように覆うと言った。
「ミコちゃんの肌はモチモチで美味しそうだよ!」
「………ありがとう!納得は出来ないけどチーちゃんの優しさに萌えた!」
「だから!何でチーとイチャイチャすんだよ~!」
葵さんゴメン二人の世界に入っちゃってたよ!
三人でテレビを見ていたら千晴君がアクビをした。
「眠くなっちゃった?」
「うん」
「じゃあ、寝よっか?」
「うん」
「葵さんチーちゃんと客間に行ってきますね」
「一緒に寝るなよ」
「大丈夫ですよ」
私は千晴君を客間に連れていった。
「ミコちゃん、アオちゃんとイチャイチャしてね」
「しないよ」
「駄目だよ。アオちゃん可哀想」
「大丈夫、チーちゃんが帰ったらいっぱいイチャイチャするから」
「………僕気にしないのに」
私は暫く黙ると言った。
「本当は、私ね葵さんとまだまともにキスもしたことがないの」
「え?」
「だから、はじめては二人っきりの時が良いな」
「………アオちゃん何やってるの?」
「う~ん。私の事大事にしてくれてるの」
「………ミコちゃんはそこが好きなんだね」
「馬鹿みたいに嫉妬してくれたのが嬉しかったなんて恥ずかしくて言えないよね」
思わず苦笑いを浮かべてしまった。
千晴君は天使のような笑顔を浮かべると言った。
「アオちゃんの部屋はお仕事に集中出来るように防音だからイチャイチャして大丈夫だよ。お休みなさい」
千晴君はそう言って客間に入っていってしまった。
防音?
それでも流石に気まずいよ!
私は葵さんがまつリビングにむかいながらモンモンとした気持ちになったのは言うまでもない。