天ぷら
「じゃあ、次エビ~!」
「チーお前さっきからエビしか食ってねえじゃねえか!椎茸も食え」
「嫌だよ!椎茸嫌い!」
天ぷら屋さんが高級で気が引けている私を尻目に馴れた感じに注文をする葵さんと千晴君。
はっきり言って食べないなら椎茸は私に下さい。
「千晴君、サツマイモとかカボチャとかは?」
「好き!ミコちゃんも好き!」
さらっと言われた一言にキュンキュンしてしまう!
「私も千晴君好きだよ」
「チーか、チーちゃんって呼んでよ!お願い!」
ヤバイこれはキュン死する!
鼻血出てないよね!
萌え萌えだよ~!
「命、俺は?」
「何が?」
「………」
葵さんが項垂れると千晴君が葵さんの背中をポンポンしてあげていた。
「葵さん!」
「何だよ」
「ねえ、お願いがあるんだけど……あの~」
「?」
「あのね、キス」
「!」
「キスの天ぷらたのんで」
「魚かよ~!」
「こんな店で騒がないでよ!」
私がオタオタすると天ぷらをあげてくれていた店員さんに笑われてしまった。
葵さんのせいだ。
「怖がらなくても直接言っていだだいて大丈夫ですよ」
「す、すみません……じゃあ、キスの天ぷらと獅子唐下さい」
「かしこまりました」
流石高級店!
店員さんにまで品がある!!
私は嬉しくなってニコニコした。
「アオちゃん……ミコちゃんが浮気してるよ」
「あいつは美味しいものをくれる奴には誰にでもあんな可愛い顔するんだ!」
「?」
「無自覚だよ!」
「アイツの質の悪いところは無自覚な所だ!」
私は気にせず出されたキスの天ぷらと獅子唐の天ぷらに粗塩をちょっと付けて食べた。
「美味しい~!葵さん連れてきてくれてありがとう!」
取り合えずお礼を言っておく。
二人は暫く黙る。
最初に口を開いたのは千晴君だった。
「ミコちゃんは幸せそうに食べるね」
「食べ物をあたえたくなるだろ」
「解る」
葵さんは私にニカッと笑ってみせた。
その時私のバックの中からスマホのバイブ音が響いているのが解った。
取り合えず無視したかったが、得意先からだとまずい。
仕方なくスマホを取り出した。
画面には゛部長゛の文字。
ため息を吐くと私は葵さんに断ってから電話に出た。
『岩渕君!助けて!あの、あれ、あれどこ?』
「いったん落ち着け、何の話ですか?」
『書類、あの、あの、』
「……………部長は明日出張でしたよね?……A.B.C.Xの順に場所を言います。A部長の三番目の引き出し、B石山のデスクの赤いファイルの中C葉山のデスクの青いファイル、Xのファイルは私のパソコンのファイルの部長用って書いてあるファイルの中です。ちなみに全て纏めた物を石山先輩に渡しましたよ」
『石山が居ない!あいつ殺す!マジで血吐くまで殴る!』
「………落ち着いてください。殴って良いです許します。ついでに葉山も殴っといて下さい」
『ああ、皆の前で告白されたんだって?付き合うのか?』
「私がどれだけポンコツブラザーズに迷惑かけられているか解ったうえで言ってんなら私が部長を殴ります。勿論血吐くまで殴る」
『ご、ごめんなさい………あ、全部ファイル揃った』
「おみやげは牛タンで良いですよ」
『俺が行くの仙台じゃないぞ?』
「知ってます。牛タン買ってきてください」
『………取り寄せます』
「よかろう。では、行ってらっしゃい」
『………行ってきます……もう1つ頼みたい事があるんだけど……』
「娘さんの誕生日のプレゼントリストは部長の机の一番上の引き出しの中です。いい加減自分で選んでください」
『自分で選んでボロクソに怒られたから岩渕君に頼んでるんだ!』
「威張るな!」
『はい……』
「検討を祈ります」
私はそれだけ言って電話を切った。
振り返ると葵さんと目があった。
「牛タン取り寄せてもらえる事になったので調理は葵さんに頼みます」
葵さんは複雑そうな顔をしてから言った。
「命の仕事はどこまでするんだ?」
「ポンコツの尻拭いから、部長の補佐?」
葵さんは腕を組んで悩みはじめてしまった。
少し心配そうな顔の千晴君が聞きづらそうに言った。
「ミコちゃんは部長さんの娘さんの誕生日プレゼントもきめてあげるの?」
「ああ、違うよ。娘さんが欲しいもののリストを私にメールしてくるの。私に預けると欲しいものがもらえるって部長の携帯勝手に見てメールしてくるようになったんだよね。頭の良い子だよね」
千晴君も葵さんも黙ってしまったから、私は次にカボチャの天ぷらとサツマイモの天ぷらとイカの天ぷらを頼んだ。
最近では部長の奥さんまで欲しいものリストや、喧嘩のフォローを頼むメールが来る。
自分達でどうにかしろって思うけど、ついついかまってしまうのが私の悪いところだ。
「ミコちゃんって世話好き」
「私のはお節介じゃないかな?」
「いや、世話やきだろ?」
そんな話をしていたら、今度は葵さんのスマホが鳴った。
「お、チーパパだぞ」
「パパとか言わないし」
「モシモシ、幸治?………はぁ?駄目だ無理だ!迎えに来い!………俺今日デートだって言ってんだろ?」
葵さんの話す内容からして千晴君のお迎えは来そうにない。
「本命の彼女とのデートの時に僕を預かったりするからこうなるんだよ。親父とおふくろがアオちゃんに僕預けて二時間で帰ってきたことないじゃん!ミコちゃんって今日はアオちゃんの家泊まる?一緒にお風呂入って一緒に寝よ」
「おら!チー!なんの約束してんだ!させるわけないだろ!」
「あれ?聞いてたの?僕子供だよ!」
「ふざけんな!」
「アオちゃんのケチ」
「12歳は立派な男だ!命によるな!」
「ケチ!」
葵さんは色々イライラしているらしい。
ってか千晴君12歳に見えない。
並ぶ時に一番前でえっへんするんじゃないだろうか?
「ミコちゃんダメ?」
「ダメだよ!」
「チェー、でもミコちゃん大好きだよ」
「ありがとう」
葵さんはまだ千晴君のお父さんと電話しているみたいだ。
「ミコちゃんはアオちゃん好き?」
「好きだよ」
「どこが?」
「お料理上手のところ」
「ミコちゃんって食いしん坊だよね」
「………うん」
「まあ、良いや!僕はミコちゃんの味方になってあげる。だから今日は大人しく客間で寝るからアオちゃんと一緒にイチャイチャ寝て良いよ」
マセガキ
そんな言葉が浮かんでしまったのは仕方ない事だと思う。
「イチャイチャ寝ないよ」
「イチャイチャ寝ないの?」
「寝ないよ!」
「寝ないのかよ!」
最後に葵さんに突っ込まれた!
「いやいや、二人っきりじゃないのにイチャイチャなんて出来ないでしょ?」
「二人っきりでもイチャイチャしてくれねーじゃねーかよ!」
「………そうかも?………」
千晴君の眉毛が下がる。
「アオちゃん、なんかゴメン」
「チーのせいじゃない……幸治は後でシメる………くそ~」
どうやら今日は確実にイチャイチャ出来ないことが解ったのか葵さんは頭を抱えて項垂れたのだった。