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2.ゼロからのスタート

 この人は神なのか?

 いや、実際神様なんだけど……。

 それだけでなく存在感――自分はここに存在しているのだ、というように圧倒的にそこにいるのだ。


「おーい……君、大丈夫?」


 固まって思考を巡らせる俺に、霧乃が呆れ声を掛ける。


「ははっ……大丈夫に決まってるだろ!」


 ここまでくると、心臓の高鳴りは勢いを止めない。

 世界は広い! こんなにも、まだまだまだ、知らない事がある、無限大だ!! やってくれるぜ、世界。俺を更にやる気にさせるんじゃねーよ。


「セルフィッシュ様、だっけか?」

「――そうよ?」


 頷き、口角を上げるセルフィッシュ。その姿からは最早、不気味さをも感じさせる。


「数いる人間から俺を選ぶとはそのセンスの良さからして、神の名は伊達じゃないみたいだな! 俺が保証する。セルフィッシュ様、それに下界のやつらも――あんたら全員、最高に幸運だよ。……この俺が世界を創造してやるんだからな」


 横で苦笑いをする霧乃は「あちゃぁ」と頭を抑え首を振る。


「…………っ、あはは、はははっ! ――どんな風に世界を創り替えるかは貴方の自由よ。でもぉ、つまらない私の日常を更に劣化させるとかは、止めてね?」

「あんたが楽しめるか? んな事、知らねーよ。俺は自分が誰よりも楽しむために、世界を作んだよ!」

「そう、良いわよ。だ、け、ど、私をあまり舐めないでねんっ」


 その瞬間悟る。

 嗚呼、こいつは本気だ。彼女を少しでも下に見れば殺られる……そんな気がする。

 だが、俺はそんなへまはしない。

 俺が? するわけないだろう!


 見とけよ、セルフィッシュ様!!


 ***


 あれから一夜明け、俺達は下界に帰ってきた。


「あれ? どっか行くの?」


 霧乃が不思議そうな顔つきで小首を傾げる。


「平日の朝から向かう所といえば一つ。……学校だよ。流石の俺も学校には行かなきゃならないらしい」

「学校。……結局、どこの世も仕事やら学校やらそういうものに縛られてるんだね」


 メイド服のスカートをいじりながらセルフィッシュ様の世界に文句をこぼす。

 お前の主人じゃないのかよ、と思い、


「それもこれもセルフィッシュ様の思い描いたものだろ?」

 

 と当たり前のことを口にする。


「だから、変えてよね! 期待してるよ、ハル!」

 

 可愛い女の子に、こんな笑顔を向けられ期待されては頑張らない俺では無い。


「おー、期待してろ? 俺も自分に期待するから」


 しかし、いくら力を手に入れてもこの世界に存在している限り学校に行かなくてはならないのが定め……。大きなため息と共に後ろを振り返る。


「とりあえず、学校行かなきゃな。行くぞ、霧乃」

「はぁい」


 実に力の抜けた返事だ。


「うーん、五点!」


 ちなみにこれは百点満点である。

 霧乃はこれが高い点数なのか、低い点数なのか分からないのか間抜け面を見せた。

 思わず一笑。


「お、畠野の小僧じゃねぃか」


 玄関を出た所で、近所に住む(たちばな)さんが御機嫌で話し掛けてきた。

 橘さんと俺は長い付き合いで、小さい頃からよく遊んで貰っていたのだ。


「橘さん! 久しぶり」

「他のやつらはどうした?」

「異世界に召喚された、俺以外は」


 普通の人ならここで「災難だったね」とか「もうすぐ選ばれるよ」とか下手な慰めをするんだろうが、この人はちょっと――大分違う。

 俺が保証しよう。この人は変人だ。


「はっは、そりゃぶったまげた! 留守番なんぞ、ぴったりじゃねーか! はははっ」

「く……じいさんなんだから、橘さんはもう家に戻れぃ!」


 元気の良すぎるじいさんはこれだから。

 さらに橘さんは続ける。


「あぁ、異世界召喚羨ましいなー」

「あんた、本当は若いだろ!?」


 じいさんが何言ってんだよ、全く。でも、異世界の魅力を分かってる人間は嫌いじゃない。この俺と同じ考えを持ってるということだからな。


「で、お前さんはその子を誘拐してこの後、どこへ行こうってんだい?」

「誘拐だと? 俺が、こいつを? っぷ、ははは、ありえねー……グハ」


 そして霧乃からのタックルプレゼント。有り難く頂戴いたします……。

 暴力的な女はモテないぜ、と目配せするも全く伝わらない。


「橘さん……ですよね。初めまして、霧乃です。これからハルと学校へ行こうと思って」


 やけに目上の人への対応が慣れている。

 だが、すぐに納得した。あぁ、セルフィッシュ様がいるからか。

 しかし俺にはがっつり、タメ口。

 ――ま、まさか……なめられてるのか?


 そんな俺を置き去りにし、話は進む、進む。

 気がつけば橘さんは、


「じゃあな、小僧」


 と言って、背を向けていた。


「霧乃、橘さん何だって?」

「君にはお仕置きが必要じゃないかな? メイド服を来た私を馬鹿にしたってことはね、同時にメイド服も馬鹿にした事になるんだよ!」


 人指し指を突き立て、立腹する。

 でも、霧乃さんメイド服より自分の方が立場低いって何事……?


「いやいやぁ、馬鹿にしてた?」

「してました! もういいよ、ハルのやった事は私の責任なわけだし。ふんっ」


 俺はこの容姿だが、残念な事にモテないのだ。大抵の女子は俺が輝かしくて見ていることすら困難なのだろう。これは挨拶したら十回中八回は目を逸らされるという経験からの憶測なのだが。

 ともかくだ、モテない俺はご立腹した彼女の機嫌を直す方法を知らない。

 こうしている今にも霧乃はすたすたと俺から遠ざかっていく。

 つまり、あれだ。――誰か助けて。


 と、とりあえず、何か叫んでおこう。


「ごほんっ、……霧乃!! 俺はメイド服が大好きだぁぁぁ!!」

「ハル! 君は、君は……本当は私に萌えてたんだね! もう、早く言ってよ」

「お、おう……」


 凄い勢いで駆け寄って来た霧乃は、表情を一変させた。

 まさかの解決。

 未経験の事も勘とセンスで乗り切るなんて、最早自分が恐ろしいぜ。


「それにしても、ここは面白い所だよね。私、セルフィッシュ様の前は他の世界の神に使えていたんだけど、その世界は異世界召喚とか異世界転移とかいう概念はあっても知り合いがそうなりました、って言って簡単に受け入れられる人達は住んでいないんだよ」

「面白い……のか?」

「さっきの橘さんの反応には私、結構驚いてるんだよ〜? 私の前いた所だったら『何言ってんの』ってなるだろうし」


 そういう意味で考えれば、俺は幸せな世界に生まれたのかもしれない。


「あ、後ね、橘さんは特に大した事は言ってなかったよ? 若いって良いな~とか、そんな感じ」

「それいつも言ってるやつだ」


 歩くこと十分弱。そろそろ学校に近づいて来た。家から近いから、という単純な理由で志望校に選んだ見葉山(みはやま)高校は、国内有数の進学校で私立並に校則が厳しい事で有名だ。

 そんな所に、いきなり霧乃が登場したらどうだろうか。考えないようにしていたのだが、近づくにつれ募る不安。


「せめて、メイド服は……」

「君の大好きなメイド服がどうかした?」


 撃沈。

 ついに校門が見えてきてしまった。


「霧乃、お前は俺のメイドだ! 専属メイド。誰に聞かれてもそう答えろ?」

「せ、専属っ!? ……分かった」


 何を思ったのか霧乃はほんのりと頬を赤らめながら頷いた。

 何で赤くなってんだ?


「おはよー!」

「…………っ」


 クラスメイトの男子にいつもの調子で挨拶をしてみたのだが、俺の顔を見た途端早足で去っていった。

 きっと俺と挨拶を交わすなんて高レベルな事はまだ出来ないと思って自重したんだろうな。


「ねぇ、もしかして私がいるから避けられたのかな?」


 珍しく肩を落とす霧乃。

 そういう訳では無いと思うので事実を述べる。


「大丈夫、いつもの事だ」

「君、嫌われてんの!?」

「き、きらわっ……ゴホン。分かってないな、霧乃。皆、ツンデレなんだよ。本当は仲良くしたいけど、俺が輝きすぎてるせいで。本当、罪な男だぜ」

「ナイスポジティブ……」


 しかし、誰も霧乃に対して不自然に思わないのは何故だろう。

 それが自然だと言わんばかりのスルーっぷり。


「はっ……聞きたくても聞けないんだな!」

「多分違うと思うよ、それ」

「でも学校って本当、面倒だよな」


 大して将来に役立つとは思えない勉学の数々。

 それに集団行動。


「ハルは友達とかいるの?」

「友達? 友達ってのは必要なのか?」


 それは単なる疑問だ。一人でも大丈夫なやつに友達の必要性を説いたって、絶対に心に響く事は無い。

 俺は自分自身がいればいい。皆が俺の輝きについてこれないなら仕方ない。それだけなのだ。


「君ってやつは、大物だね」


 教室の扉に手を掛けると後ろから呆れ声。


「だろ?」


 仰々しく指を鳴らして見せる。

 

 俺の席は窓際の一番後ろ、というヒーローの特等席。席までもが、俺をヒーローだと認めているのだからこれはもう否定出来ない。


「……そうだ、そうだよ! 霧乃!」


 席に着いて暫くぼんやりしていたのだが、ふとこれ以上に無いという程の良案が頭の中に浮かんだ。


「うぅぅ、嫌な予感がするけど……何?」

「まず、俺は学校というシステムを変えようと思う!」

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