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1.俺が異世界に行けないワケ

「な、な、な――」


 この世界には三種類の人間がいる。異世界の神に選ばれそこに行く人間。選ばれず異世界に行けない人間。そして、異世界に行きたい、とすら考えないやつら。しかし、ここで最後のやつらは論外だ。

 人間とは二つに一つ。行ける人間か、行けない人間か。

 そして、俺は残念な事に後者だった。


「――何でだあぁぁ!!!!」


 畠野葉瑠はたのはる。十五歳。性格、ルックス共に◎、頭も悪くない方。

 そんな完璧に近い俺とこの状況はあまりにもミスマッチだ。


 再び机の上に置かれた家族からの置き手紙に目を向ける。


「ハル君へ。私たち、ついに異世界に選ばれたみたいなの。しばらく帰ってこれないと思うけど、家、宜しくね! じゃあ、行ってきます♪ 奈都なつ、父、母より……っだぁぁ!」


 何度読み返しても、内容は変わらない。この前幼馴染みが異世界の神に選ばれたばっかだっていうのに、今度は俺以外の家族――親だけでなく、妹までも!


「……どうして、この俺を無視できる! 異世界!」


 異世界を望んでいた俺の回りの奴らは全員、異世界へと招かれた。一人寂しく、俺はお留守番(・・・・)らしい。


「俺が一番、異世界に行きたいと願っているのに。異世界なんて、死ねーーー!」

「選ばれなかった者たちに限ってそういう事、言うよね」 

「…………?」


 その異様なまでの存在感に体が固まり、唖然とした。

 外から窓を通り差し込む橙色の夕日が声の主を照らす。その不気味さゆえ、心臓をも動くのを躊躇している様だった。


 しかし、


「どもっ! 驚かせてごめんね。じゃあ、自己紹介! っていきたいけど、この部屋暗いな~」


 以外にもハイテンションな語り口だった。そして声の主は、よし、という声を漏らし部屋の灯りを付ける。相手の姿をやっとはっきり目に映した俺は思わず声を挙げた。


「うわっ、なんだお前!」

「ちょっと! それは、ひどいよ。さっきまでお話ししてたのに」


 それはそうだけど、話相手がまさかメイド服を着た美少女だったとは。

 たじろいでいると、彼女はナチュラルに畠野家のカーテンを閉め始めた。


「お、俺に何の用? それにどうやって家に。つか、そのメイド服は何?」


 閉め終わったカーテンから手を離し、一つのため息と共にこちらに顔を向けると、質問が多すぎるよ、とぼやいた。


 とは言うものの、よく見れば見るほど彼女は整った顔立ちだった。二重の目にふくよかな頬。それとは対照的に、小さく、きゅっと締められた唇。

 顔全体を覆い、胸の高さまで下ろされた栗色の髪は、内巻きになっていて――、


「ちょっと! 聞いてるの? 君が質問してきたんだよ?」

「……ごめん。つい」


 俺の顔立ちの良さに付いてこれる人材は中々いないんだ。つい、考え込んでしまった。


「だからね、可愛いは正義なんだよ!」

「は?」

「メイド服は正義! それを着る私も正義」

「何だ、只の痛い人か」


 鼻で笑うと、気に障ったのか、


「痛いのはどっちかな? 君だって、さっき言ってたよね。俺が異世界に一番行きたかったんだー! とかなんとか」


 ふふん、とドヤ顔を向け、反応を待つ彼女。


「だって、一人だけ行けないとか……この俺に限って!」

「教えてほしい? 君が異世界の神達に選ばれないワケ」


 人指し指を唇に当て、ニッと笑うと俺に顔を近づける。


「……何か理由があるのか?」


 何だ? 態度か? 悪いところがあるならそんなの、とことん直してやる! そんな事で俺を認めてもらえるなら。異世界に行けるなら。


 彼女は俺から離れる様に、一歩後ろに下がり、


「私はそれを伝える為にここに来たの。君が異世界に選ばれなかったのはね――この世界が君を選んだからだよ」


 言葉の意味が理解出来ず、困惑している俺に彼女は更に続けた。


「つまり、君が異世界に行けなかったのは君がこの世界の神にキープされていたから。理解出来たかな?」

「……ふっハハハハ、ついに、来た。俺の時代が」


 理解? そんなもの知るか。俺が分かるのは、この世界が俺の魅力を分かっていたということだ。良いじゃないか、世界! 俺はこの世界を肯定してやる!


 俺は開き直る事で自分を保っていた。だって、こんなのは異様だ。いや、異様を望んでいたけれど、こんな形だとは想像もつかないじゃないか。

 微かに足が震える。不安、恐怖、興奮、安堵――体は俺の色々な感情に敏感だ。


「君、そこそこイケメンなのに……はぁ、 本当セリフが痛いよね」

「痛いって何だ! 痛いって。……と、とにかくだ。この世界は俺を選んでくれたんだろ?」

「ま、そゆこと」


 しかし、ここである疑問が浮かんだ。


「って、そもそも……俺、この世界の人間じゃん。選ばれたっても、前と何も変わらないよな」

「ううん、それが変わるんだなぁ。君は今日からこの世界の創造神だ!」


 可愛らしく、手を後ろに組み微笑んで見せる。


「創造?」

「ここの神がさ、この世界に飽きたらしくて……そこでこの世界に選ばれた君が創造権を持っていると」 


 何だか、難しい話だ……。今の話をまとめると、俺が世界の創造神になったから、好きなようにしていいよ、ってわけか。

 彼女はそのまま、俺の前で右と左を行ったり来たりしながら続けた。


「私は監視担当、兼、君のお世話役。露乃です。ま、宜しくね」

「露乃、か。……俺はーー」

「畠野 葉瑠、だよね? 君の事はある程度知ってるから」


 両手を腰に当て、俺が褒めるのを待っているかの様に目を輝かせた。


「あー、はいはい。凄いな」

「えへへ、ありがとう。普段、褒められる事が無いもので」


 不覚にも霧乃のその緩みきった表情に少しどぎまぎしてしまう。それを誤魔化そうと意味も無く後ろを振り返ったりしてみる。

 ……何やってんだ、俺。


「そうだ。俺、その今の創造神? に会ってみたいんだけど」

「んあー……大丈夫かな? 色んな意味で」


 色んな意味で、というのも気になるが彼女の見せた微妙な反応も気になるので笑顔でこう提案した。


「よし。じゃあ、会いに行こう!」

「え、ちょ、君……本気?」


 俺の発言が予想外だったのか、その目に驚嘆を映す。


「ああ、もちろん」


 するとまた微妙な表情で、後悔しても知らないよ、と嘆ずるのだ。

 いいさ、いいさ、俺のすることで間違った事は何一つ無いんだからな。


「じゃあ、今から天界に行こうか?」

「おう、宜しく!」


 とは言ったものの、神に会う、というのはどうも変な気分だ。

 俺にとって神ってやつは、俺の存在を理解できない残念なやつら、だったわけで決して好印象では無かった。神は神でも、他の異世界の神達とこの世界の神が違う事は分かった。この俺を選んだんだ。ここの神は良いセンスしてるぜ。


 ――そんな事を考えていると既に辺りの景色は変わっていた。


「着いたよ、天界。何、ぼうっとしてるの? 転移なんて一瞬なんだから」

「まじか……すげえな。いや、これを体験した俺がすげえ」

「へっ……また馬鹿な事言ってるよ。ほら、早く?」


 俺を鼻で笑った霧乃はすたすたと足を進め始めた。 


「やれやれ、俺を理解出来ないとは霧乃も所詮はそこまでだな」


 霧乃を追いながら、ため息混じりに首を振る。

 だが、流石の俺でもこの状況は少しばかり緊張が付きまとう。霧乃を初めて見た時の異様なまでもの存在感。本人は目の前にいないのに、感じる。

 ――神がいる。


「テイク……!」


 急に立ち止まった霧乃はそう叫ぶと、俺の手を引き「行くよ」と呟くように言った。


 瞬間、辺りの景色は一変し俺達は空の中に浮いていた。下を見ると、身震いする高さだ。けれど、足元は割と安定していて――……っ、


「霧乃。……おかえり」


 俺の鼓動が大きく波打ったのが分かる。

 ――これが、神。

 雲によって塞がれていた前方視界。しかし声と共に視界は晴れ、彼女の姿を露わにする。


「はい。ただいま戻りました、――セルフィッシュ様」


 小生意気な彼女さえも、今は仰々しくお辞儀して見せる。


「あっら〜、その子……私が選んだ人間――ハル君よね?」


 声に反応する様に俺は、顔を上げた。

 可愛い、綺麗、何てものでは無い。そんな低レベルな言葉を誰が許すだろうか。

 俺の顔立ちの上の――上の上!

 燦爛たる深紫の瞳に、ほんのりと桜色の唇、長い黒髪、彼女の全てが艶めいた雰囲気を醸し出していた。

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