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17.畠野葉瑠という人間は

「おはよ」


 リビングに行くと、本当に皆がいた。


「ハル、やっと起きたね! 待ちくたびれたよ〜」

「……何かあったか?」

「何って、世界構築、明日やるって言ったじゃん!」


 霧乃はこういう事はしっかり覚えているらしい。確かに昨日、そんな事を言ったかもしれない。けれど、今……世界構築が自分に出来るとは到底思えなかった。


「……悪い、今日は辞めよう」

「どうしたの? やっぱり、体調悪いんじゃ」


 いつも変態呼ばわりする柚香は今日は珍しく優しい。けれど、ここは正直に否定しておいた。


「……なんか、ハルらしくないよ?」


 それを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。霧乃にとっては取り留めのない、ただ口を滑って出た、それだけの発言だったのかもしれない。

 けれど――、


「俺らしいってなんだよ……!」


 俺っていうのは、陽菜の為に作られた偽装の俺でしか無くて、偽物のはずなのに、皆が求める俺は本物じゃなくて……。だったら、本物の俺はどこへ行けば良い!! 消えれば良いっていうのか? なんだよ、それ、ふざけてるだろ!


「一人になりたい」


 一言だけ残し、俺は家を出た。目的地なんか無かったけど、今は皆にひどい事を言ってしまいそうな気がしてあそこにはいられなかった。

 

「小僧、どうした……?」


 家を出てすぐ、俺に声を掛けて来たのは橘さんだった。


「しけた面しやがって。……小僧、公園でも行くか?」


 橘さんのこういう所は好きだ。今は、好意に甘えよう。




「でだ、お前さん……いつまで黙りこくってるつもりだ?」


 公園についてからベンチで黙って座ること数時間。流石の橘さんも、顔をしかめる。


「話したくねーってんなら、仕方無い。ただなぁ、ずっとこうしてられんのも困りもんだ。話すか、そのしけた面をどうにかするか、選べ」


 分かってる。こんな事してても何にもならない。女々しいやつだよ、俺は……。過去に囚われる、ヘタレな平凡すぎる高校生。


「昔みてーだな、今のお前さんは」

「え?」

「陽菜が事故した時のお前さん」


 実際、あの頃から俺は何一つ変われていない。ずっと陽菜が望んだ俺を演じてきただけだ。


「俺らしいってさ、何だと思う?」

「知るかいな。俺だって、自分らしさなんざ分からねーってんだ」


 思わぬ適当さに思わず笑みが零れる。


「確かにそれもアリかもしれない。だけどそれじゃあ……陽菜は俺を許してくれない、だろ?」

「なんだ、お前さん、許しがいるのか?」


 そういえば、俺は陽菜に許して欲しいんだろうか。ただ、夢にあいつが出てきて一気に自信が無くなって俺が俺でいる意味が分からなくなってきて。


「そっか、俺は自分のことを陽菜のせいにしてただけか。……くそだっさいな!!」

「何も考えるな。若いんだ、お前さんは迷走してろ!」

「俺はいつもの俺に戻るよ。……なんか、偽物が本物になるのも悪くない気ぃするし」

「自己解決すんじゃねぇよ、ったく。人騒がせな」


 とか言いつつも、橘さんは嬉しそうだ。

 やっと俺も調子が戻ってきた。


「俺は帰るよ、橘さん!」

「おうおう、早くいっちまえ」


 手であしらわれた。そんな橘さんに背を向け、俺は家へと足を向ける。

 我ながら、立ち直り早いよなぁ。立ち直りって呼んで良いのか分からないけど。


「そういえば――、」

「ただいま、ハル」

「陽菜……?」


 車椅子に乗り、陽菜は変わらない笑顔で俺に近づく。


「どうして、ここに?」

「ハルが寂しくしてると思って、帰って来ちゃった」


 タイミングが良いんだか、悪いんだか。


「押してやる。……陽菜、異世界は楽しいか?」

「ありがと。うんー、そうだね、楽しいよ! 私ね、もう一度歩きたくて異世界に行ったのね。あ、違う違う、歩けないのはハルのせいじゃないからね、ホント」


「でもね、私今、空飛んでるんだよ! 何かね、自由って一つじゃないんだなぁ、って。で、ハルは?」

「俺は……、世界を創ってる」


 駄目だ、元の俺に戻るって決めたのに、陽菜を前にすると、少し自信が無くなる。


「えーっ、凄いねぇ! ハルが創る世界なら大丈夫だね」

「え?」

「だって、ハルは最後にはいつも幸せな結果に導いてくれるから」


 ……勘違い、か。

 陽菜は優しい。だから、嘘をついていると思った。俺を許してる振りをしてると思った。

 でも、その言葉とその笑顔で充分だ。


「俺を誰だと思ってる! 陽菜の幼なじみの畠野葉瑠だぞ!? 当たり前だ!」

「くっ、ふふっ、ハルはきっと皆を幸せにしてくれるね」


 皆を幸せ――?


「そうだよ!! 何で思いつかなかったんだ、こんな世界があったら、最高だ!」


 思いついた。世界の皆が笑える世界で、俺も思いきり楽しめる世界。

 心が高鳴る。手が興奮で震える。


「世界を創るの?」

「ああ、見ててくれるか、陽菜」

「うん、見ててあげる」


 五秒間の瞑目。創りあげる世界を脳内に思い浮かべ、何時ものように、


「ベースはリアルワールド、時は今、主体は誰もが楽しめる世界――クリエイシャル!!」


 目を開ける。


「変わったの世界……?」


 不思議そうに、辺りを見回す陽菜。


「おう。町の中心へ行こう!」


 陽菜の車椅子を押し、走り出した。見た目は変わらないけど、この世界は確かに変わった。これが俺の最高傑作だ!

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