14.二度目の天界
……なんとか間に合った。
その場しのぎが出来たことに一先ず、安堵する。
俺は座り込んだままの霧乃に目向けた。横で柚香も心配そうに俺を見る。
「ごめ……ごめん、私のせい、だ」
「ばぁーか!!」
「ちょ、畠野君、そんな事言わなくても……?」
目で合図して、柚香の発言を止める。
俺の言葉はまだ終わってない。
「お前が何をした? というか、逆に言うが、俺の造った世界に上書き出来る力を霧乃は持ってんのか? そういうの出来るのはセルフィッシュ様、1人だけだろ!」
「でも……! セルフィッシュ様にそうさせたのはきっと私だから。皆、本当にごめんなさい」
霧乃はよろめきながら立ち上がると、二人に頭を下げた。
全く何でこいつはこんな所だけ頑固なんだ。
「謝罪は済んだろ。霧乃、行くぞ、天界」
霧乃の手を引く。
「え、あ、待ってよ、ハル――、」
「柚香、シェルプを頼んだ!」
「……うん、分かった」
セルフィッシュ様に会って、どうする、っていう具体的なものは何一つ考えていなかった。でも、そろそろ反撃させてもらっても良いよな。
「ハル、君は本当に……いつも、いつも」
「え、いつもカッコイイって?」
「難聴め。止まって、天界へ行くよ」
足を止め「おう」と相槌を打つまもなく、霧乃が「着いたよ」と言う。
「テイク――」
そして、神への扉を開くこの一言。
またもどうこうする暇無く、俺達は神の前に姿を現してしまった。
「あらあら、珍しい。今日はハル君も一緒なのね」
相変わらずの威圧感だ。艶っぽく唇に人差し指を押し当て続ける。
「で、私からのプレゼントは受け取ってくれたのかしらぁ」
「ああ、もちろん。セルフィッシュ様からのプレゼントなんて嬉しすぎたぜ、あんなやり方じゃなかったらな」
「ふっ、おかしな事を言うのね。霧乃宛だったはずなのだけれど」
身を乗り出し、言葉を返そうとすると霧乃が俺の体の前に腕を伸ばし止める。
口出しするな、と言う事だろうか。意図を組んでやり、とりえあえずは引き下がる。
「セルフィッシュ様、いい加減にして下さい。いくら私でも……あんなの、嫌です」
「へぇ、嫌だったの」
セルフィッシュ様は鋭く霧乃を睨みつける。直接睨まれていない俺でさえ、つい畏怖の念を抱いてしまう。
けれど霧乃は怯まない。
「私は、セルフィッシュ様に対してある程度の事までは踏み込んで発言してるつもりです。でも、今回は……今は初めてセルフィッシュ様に恐れを感じました」
「私は神よ? 恐れられ、崇拝され、そういうものでしょう? 何を今更」
「お言葉ですが、そんなのはセルフィッシュ様に似合いません! 私は……私のした発言や言動がセルフィッシュ様を傷つけ、その延長でハル達が巻き込まれるのは絶えられないんです」
俺は初めて霧乃に感心したかもしれない。神を前に言い切った。流石は神の使いを長年やってただけある。
――やっぱ、すごいな、お前。
「……言っている事の意味が分からないわ。霧乃……あなた、変わったわね。ハル君が変えたのかしらぁ」
「いえ、変わってません。ずっと、ずっと、言いたかった。だけど、私は一人だったから頼るものも何も無くてただ怖かったんです。神に口出しする、という行為が」
つまり、俺のおかげで怖くなくなったと。
だが二人の会話を聞く限り何故だか、話しが掴めない。霧乃は何をセルフィッシュ様に伝えたいのだろうか。
考えていると、セルフィッシュ様が深いため息と共に口を開いた。
「で、結局……何なのかしらねぇ?」
霧乃は答えない。
数秒の沈黙の末に、彼女は何かを決意したかのように、一歩前へ出る。
「――あなたは神様でした。でも、私にとっては、神様なんてものじゃなくて、ただ純粋で、それ故に脆くて、わがままで、時々優しくて、泣き虫で、寂しがり屋で、誰よりも人間を愛してる、そんな一人だけのセルフィッシュ様なんです。セルフィッシュ様はセルフィッシュ様でしかなかったんです」
セルフィッシュ様は霧乃をいつに無く真面目な瞳で見つめていた。
そして、霧乃は言い放った。
「だからセルフィッシュ様……神様を辞めて下さい!」
「はぁ?」
先に反応したのはセルフィッシュ様じゃなくて俺だった。
神を辞めろ? 飛躍し過ぎだろ。
横で霧乃は祈る様に神を見つめるが、セルフィッシュ様は俯いたままだ。
それは突然だった。静寂を高らかな笑い声が破ったのだ。
「……っ、あはははは! はははっ、霧乃、あなたって、こんなジョークも言えたのね」
霧乃の意図を頭で考えて、ジョーク、という結論に至った、って所か。
「ジョークじゃありません!」
「じゃあ、何よ?」
セルフィッシュ様の顔から笑顔がまるで消える。
「セルフィッシュ様を一人にしない為です、泣かなくなったあなたを泣かせる為です、理由は沢山あります。でもっ――、うぅぅ、ハル、ぶちまけて良いかな?」
何をだ、何を。
でも、これに関しては俺はもうお手上げだ。霧乃に任せよう。
「どーんっとかませ!」
俺の言葉を聞いた霧乃は大きく頷き、再びセルフィッシュ様を見た。
「ふぅぅ、」
息を吐く。
「はぁぁ」
息を吸う。
「……神だからって、調子に乗るなよ!! セルフィッシュ様は馬鹿ですか? 馬鹿ですよ、ばか、ばか、ばか、ばか、ばぁーっか! だいたい何ですか!? 自分だけが孤独な振りですか? じゃあ、あなたに仕えてる私は何なんですか? 神でも無く人間でも無く、分かりませんよね、セルフィッシュ様には! もう! 私だって、私だってね、色々考えるんですよ。なのに、なのに、なのにぃ! セルフィッシュ様は女々しいですよ! 神だから、人間とは相入れなくて孤独ぅ!? 知るか! じゃあ、私の言った通り神様辞めろぉぉ!! はぁ、はぁ、はぁぁ、」
俺が「かませ」と言ったばっかりに。
霧乃が、壊れた……。




