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13.霧乃の見る世界

「んー……うーん、あー……、んーー」


 リビングに足を踏み入れた瞬間、耳に入った唸り声。


「何かの呪いの儀式かよ。霧乃」

「あ、ハル! もう、これも元はと言えばハルのせいなのに」


 部屋の中にはシェルプと柚香の姿は無い。

 一人で何を悩んでいたと言うのだろう。


「んー……やっぱり、いや! うわあぁぁ……! 分かんないよ」


 椅子に座り、目の前で頭を抱える霧乃に目を向ける。


「あー、大変そうだなー」

「相談に乗りたそうだから、相談してあげるよ」


 しょうがないなぁ~、というふうに霧乃は唸っていたわけを話し始めた。

 なにやら事の発端は俺の『次の世界はお前らが決めてくれ』といった発言にあるらしい。

 それに従って、霧乃と柚香は一緒に考えていたらしいのだが、いくら記憶が改変されるからといってシェルプだけ除外するのは可哀想だ、という話になり、柚香は霧乃に世界の選択を委ね、シェルプと共にこの家を後にしたという。



「私一人じゃ、決めかねるよ……」

「そんな深く考えるなよ。いつもの俺を思い出せ! 超軽いぞ? 創る世界はいつも思いつきだぞ?」

「うっ、それを言われるとそうなんだけど」


 と、霧乃は口ごもる。


「ほら、私はセルフィッシュ様からハルの所に派遣されてきたわけじゃん。私は本当にサポート役みたいなものなんだよ。なのに、こんなに干渉して良いのかな?」

「今更じゃね? そんな事、気にするな! 大丈夫だ。この俺が保証してやるんだからな」

「だめだ、ハルと話すと自分が馬鹿馬鹿しい……」


 とうとう俺の偉大さを認めたか!

 両手を上に伸ばし、何か吹っ切れた様に伸びをした霧乃は立ち上がると、俺を指差しこう告げた。


「知らないよ! 私が考える世界なんてハルの考える世界超えちゃうんだからね!」

「おうおう、言ったな? じゃあ――」

「え!?」


  そのまま、霧乃の手を奪うように掴み、家の外へと連れ出した。


「ちょ、どこ行くの!?」

「どこって、そりゃあ、柚香とシェルプの所だろ」


 当たり前だ、と片頬を上げ、にやりと笑った。

 すると、霧乃の足が出る。


「調子に乗るなっ、馬鹿ハル」

「霧乃、お前は間違えている」


 走りながら、振り返らずに言い放つ。

 一つ間を置き俺は続けた。


「俺が調子に乗らなかった事がいつあったぁ!!」

「振り向いてないのに、ドヤ顔が浮かぶ所が流石だよねぇ」

「だろ?」

「褒めてないって」


 俺も振り返らなくても分かった。霧乃は今、楽しそうだ。言葉はいつも通り辛辣ぎみだけど。


「あれ? はたのん、きりのん!」


 住宅地の角を曲がった所でシェルプの姿が飛び込んできた。隣には柚香もいる。

 確か、柚香の家はもう少しだけ先だった気がするのだが。


「あ、本当だ。何してるのよ?」

「そっちこそ」

「私達は、そろそろ畠野君の所に戻ろうかな、って思って」

「じゃあ、ちょうど良かったな。俺達も柚香とシェルプを迎えに来たんだよ」

「えっ、そうなの?」


 柚香に続けるようにして「何か用事ですか?」とシェルプ。

 いつも、何処かの室内で世界を再構築してたけど、まぁ、ここでもいいか。



「世界を変える! 霧乃、お前の望む世界はどんな世界だ?」

「――海、海の中の世界。空も地も存在しないの。でも、ちゃんと太陽の光は届いてて、私達は海の中でお魚さんと一緒に暮らしてる……そんな世界かなぁ」

「了解だ」


 俺は目を閉じ、今、霧乃から聞いた世界を出来るだけ鮮明に思い浮かべる。


「ベースはリアルワールド、時は昼、主体は海の中の世界――クリエイシャル!!」


 さらさらと涼やかな音が聞こえた。瞳を開く。世界が碧かった。何処までも透き通る様な、そんな色だ。


「幻想的、ですね……」


 最早、シェルプは空いた口がふさがらない。

 地も空も無いこの世界のどこか、俺達は浮いていた。いや――泳いでいた。


 心地いい波のせせらぎが耳を刺激し、太陽の光は水中で反射しあい穏やかな明るさを見出している。


「ふっ、霧乃……お前もなかなかやるようになったんだな」

「えへへ~、だよね。超綺麗だもん! しかも、何だろうこの感じ。体が軽い……?」


 確かに。


「水圧とか無いのかな? 凄く動き安いけど」


 と、柚香はくるり、と回転してみせた。


「すいすいです〜!」

「そういうもんなんだろ? それより、だ」


 海の彼方を指差した。


「まずは探検と行こうか!」


 三人の顔色が一気に明るくなる。「賛成」ということだろう。

 俺は行く宛も決めずに思いついた方へと泳ぎ出した。


「え――?」


 霧乃の声を聞いた。聞いた直後だった。俺から音が消えた。音が消えただけじゃない。体が重い。なによりさっきと徹底的に違う――息が、出来ない。

 なんだよ、これ。 

 重い体をやっとの事で、振り向かせ、三人を振り返る。やはり、俺だけでは無いみたいだった。

 なんで、いきなり。いや、それよりも……どうする?

 彼女達は、口元を息を抑え空気が漏れるのを防いでいるが、直ぐに限界が来てもおかしくない。俺もそんなに長く持つわけじゃないんだ、早く――早く決断しろ、俺!


 まずい……、

 目を向けると、シェルプの息が限界を迎えていた。俺は瞳をぎゅっと閉じる。


 ”悪い、霧乃……”


 いつもの決めゼリフを省略し、五秒後に目を開ける。

 俺は世界を、元に戻した。


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