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10.シェルプの記憶

 ――戻った。

 何もかもがセルフィッシュ様の創った世界に戻っていた。


「皆さん?」

「そういえばシェルプはこの世界、初めてか」


 魔法のファンタジー世界は案内したものの、この世界は全くだ。

 世界が急に変わってしまったんだ。シェルプと戸惑ってるだろう。優しい(・・・)俺はシェルプを気に掛ける。


「はたのん、大丈夫ですか? この世界なら、先ほど案内してくれたじゃないですか」

「いや、だから俺達が案内したのは、さっきまでの世界で――」


 そう言いかけて、俺の頭の中に霧乃の言葉が蘇る。


『普通の人間は世界の変化に気づけないんだよ。気づけるのは創造に干渉している私たちだけ。元々からその世界にいたかの様に記憶が改変されちゃうんだ』


 シェルプは――あの世界を覚えていない?


「きりのん、ゆずかん……はたのんは一体どうしたのですか?」

「俺達の……事は覚えてるのか?」

「そりゃね。あくまで記憶の改変は世界に矛盾しない程度。だから、私達とシェルプが出会った事実は変わらない」


 霧乃がうつむき加減に続ける。


「でもねハル、こればっかりはしょうがないんだよ」


 シェルプが俺達を覚えていたとしても、シェルプはさっきの魔法の授業さえ覚えていないのだろう。

 しょうがない――?

 こんなのがしょうがないだって?

 笑わせるな!!


 俺は勢い良く立ち上がる。衝撃で椅子が倒れた。


「変えてやる……! こんな、くそったれな世界」

「それは無理だよ。君が創り出せるのは人の記憶じゃない、世界だけなんだよ」

「だからって、諦めるのか?」


 そんなのって……違うだろ!?

 悔しさに歯ぎしりする。

 俺はやりもしないで、出来ないなんて決めつけたりしない。やってみたら、出来るかもしれない極僅かな可能性に掛けてみたって良いじゃないか!


「畠野君、今は落ち着いて。シェルプがいるから。この子は何も知らない……知らないでしょ?」


 見るとそこには、訳が分からずただ悲しそうに俯くシェルプの姿があった。


「良くわからないですけど、皆が幸せじゃないのは嫌なのです……」


 俺と霧乃は気まずさに絶句する。


「帰ろ?」


 柚香のその言葉に救われ、一先ずは家へと帰ることにした。

 今日だけは霧乃とは少し話がしたかったので、シェルプは柚香の家に行ってもらった。


 沈みかけた夕日の光が家に差し込む。

 俺と霧乃はリビングで、どちらかが口を開くのを待っていた。


「セルフィッシュ様は泣かないの」


 口を開いたのは霧乃だった。


「え?」

「セルフィッシュ様はどうして記憶を操作すると思う?」

「……いつもの気まぐれじゃなくてか?」


 セルフィッシュ様の考えること何て俺に分かるわけが無い。

 けど『セルフィッシュ様は泣かないの』霧乃の言葉が引っかかった。神様が泣かないのは普通の事なのかもしれない。でも、たまには悩んでみたり泣いてみたり、神様でもして良いんじゃないか。


「多分ね、独りになるからだと思うんだ。皆が皆世界の変化を感じる事が出来たら世界はきっと色んな感情で溢れちゃう。……それをセルフィッシュ様は一人じゃ抱えきれない。抱えようとして、結局独りになっちゃうし……だからね――」


「――分かった! けど、納得すんのは無理だ! だから、俺が全てが上手くいく世界を創ってやるよ。その世界が出来たらセルフィッシュ様も泣いてくれる。俺も最高に楽しめて、記憶の理不尽な改変も無くて、皆が幸せだ!!」


 出来るか出来ないかじゃない。

 創りたいから創るんだ。

 可能性なんて知ったこっちゃない。


 不可能だって可能にしてみせる。

 畠野葉瑠をなめるなよ!!


「……ハル。うん、お願い。セルフィッシュ様を助けて! 世界を変えて!」

「任せとけ」


 大きく胸を叩き、笑顔でそう答える。



「さて、どうするかな」


 ベッドの上に寝転がりながら、天井を見つめる。俺はさっきの霧乃との約束に思いを馳せていた。

 具体的な方法を考えたい。


「んー……、とりあえず俺がどんな世界を望んでるか知る必要があるな」


 ということは、創る世界を確定する為の活動――つまり、今とやる事は変わらないか。

 天井に向かい、腕を伸ばす。


「……RPGみたいな世界、一回創ってみるか」


 ふと思いついた異世界を次創る異世界に決め、俺は短く息をついた。


 そして俺は深い眠りに落ちた。

 誰かが俺の名前を呼ぶ。


「ハル」


 心地いい、軽やかな聞きなれた声。

 ――あれ、誰の声だっけ?


 その瞬間、穏やかな世界は崩壊し暗黒の世界へと変貌した。

 どうにか、その暗黒から抜け出そうと藻掻くも、世界はどんどん膨張しそれを許さない。


 ――出口はどこだ!

 誰か……! 俺を見つけてくれ……!!



「――ル、ハル……大丈夫? うなされてたけど」


 気が付くと心配そうに霧乃が俺を覗き込んでいた。もう夜は明けている。

 目を閉じ頭を抑える。


「……変な夢、見たんだけど……なんつーか、 昔を思い出した」

「熱でもある? 大人しくなっちゃって、ハルらしくないよ。馬鹿は風邪引かないはずなのにね!」

「なっ、馬鹿って何だよ! 天才的の間違いだろ!?」


 確かに風邪はあまり引いたこと無いが、馬鹿っていうのは、バナナの皮で滑ったりするヤツの事を言うんであって断じて俺はそれに当てはまったりしない!

 俺は腕を組み力強く頷く。


「だから、そういう所が馬鹿って言ってるのに。っぷはは、流石ハルだよ」

「ふっ。まぁ、良い。俺のレベルが高すぎて理解出来ないって事だな」


 ベットから降り、やっと調子を取り戻してきた俺は両手を大きく降り上げた。


「よし、異世界構築の時間だ。霧乃、シェルプと柚香をここへ呼べ!」


 俺の発言に一瞬身を固める霧乃。けれど、すぐに嬉しそうな顔を見せ敬礼。


「……ラジャ!」

 

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