9.魔法のファンタジー世界を満喫してみます②
実の事を言うと、世界を構築した時に俺は余計なもの――俺にとっては大事なそれを追加構築しておいた。
その場所に着くまで二人に目を閉じるよう命じ、すぐこそまで二人の手を引きながら空を飛ぶ。
「ま、まだ?」
不安あげな声色の柚香が、俺の手を強く握り返す。
「いんや、もう良いよ。ほら――」
空中で停滞しつつ、二人の手を離した。
目の前に広がるのは、巨大な滝。円を描くように丸く空いた空間の中に、何処からか水が流れ消えていく。所々に虹が掛かり、月明かりが幻想性を増させる。
「神秘です! はたのん、異世界は私の予想を遥かに超えていたみたいなです」
「綺麗ー……」
「だろ?」
本当は霧乃にもこの光景を見せたかったのだが、今頃は天界だろう。
「あれだな。魔法のファンタジー世界だけあって、夢と希望に溢れてるな、やっぱ」
心臓が震え出すような、嬉しさに目頭が熱くなるような――今、この瞬間がとてつもなく心地よかった。
「あ……ああぁぁ!! 畠野君、忘れてたよ、私達!」
何事だ!?
急な柚香の形相の変化に、俺とシェルプは置いてきぼり。
「どうかしました?」
「う、うん。あのね、学校……授業……。サボリは駄目よ! 行かなきゃ」
柚香の優等生スイッチがオンになってしまったようだ。
世界ごと変わってるんだから、そんなに授業だの何だのは気にしなくても良い気がするのだが。
「まぁ、魔法の授業も今回限りだ。――行くか!」
俺達は来た道を逆走するように学校への道筋を戻った。
学校に着くと黒竜がいた時のような人混みは全くなく、校舎からの灯りが周りを照らしていた。
「シェルプはどうする? 柚香とはクラスが違うんだが、どっちと来る?」
「はたのんで良いですよ?」
で良い、ってのが不服だが――そこは、が良い、って言えよぉぉ。
「じゃあ、またな柚香」
俺はシェルプを連れ、自分の教室へと向かった。
嗚呼、これじゃあまたクラスメイトから注目浴びちまうぜ。
イケメンが美少女連れてるよ、ってな!
音を立て、教室のドアを思い切り開く。注目する視線。静まり返る教室。
ふはははは……これが俺の本当の力か。
「おい、畠野! 何してた?」
担任だ。
「ちょっと、異世界転移者を案内してました!」
「そうか。さっさと席に付けー」
何時もは、渋いスーツの担任が今日ばからりは魔法帽子とマントときたものだから、思わず笑ってしまう。
「はたのん、これは何ですか?」
流石、異世界転移者。教室を見たことが無いのだろうか?
物珍しそうに左右を見渡す。
「教室だよ。ここで、授業すんの。あ、座る?」
シェルプを座らせ、俺は立つ。これぞ、紳士の基本だろ。
「ほお! 授業ですか、楽しみです!!」
「では、今から配る紐を手を使わずにリボン結びにしてみろー?」
手を使わずにってことは、魔法を使えってことだろう。
配られた紐に目を向け、早速意識を集中させてみる。
「先生ー……これ無理でしょ!」
早くもクラスメイトから弱音があがる。
「そりゃそうだ。簡単なわけないだろ? 魔法はな基本的に何かを直接的に生み出すか、自分自身に影響をあたえるか、なんだ。それを今は間接的にやれって言ってるんだ。ま、頑張ってみろ」
魔法とか嫌いそうだった人が世界が変わると、語れるようになるのか。
しかしまた、難しい課題を……。まあ、俺に掛かればこんなん――、
「シェルプ!?」
ふと目に入った、シェルプの紐。それは綺麗にリボン結びされていた。
「えへへ。出来たみたいです! きっと、はたのんにも出来ますよ!」
無邪気にそんな事言わないでくれ――!
嘲笑にも似た笑みをもらし、俺は吐き捨てるように言った。
「ふっ……やってやらあ!」
再び意識を紐へ戻す。
「――っ、どうよ!」
健闘の末、出来たのは不格好なリボンだったがそんなのは気にした事じゃない。
「やってやったぜ」
「はい! 凄いです、流石ですね。はたのん」
――……霧乃や柚香にディスられ続けたせいだろうか。シェルプの言葉に素直に喜べないだと!?
「そう……俺は凄いんだっ!」
「はっ、どうかな〜。ハルのはまぐれじゃないかな?」
俺の言葉に反応したのはシェルプでは無かった。突然の後ろからの聞きなれた声に俺達は振り返る。
「霧乃!」
「きりのん!」
「どもっ。君がわざわざ授業受けるなんてどういう風の吹き回し?」
幸い、今は周りも実習でざわついている。
俺達に注目しているやつはいないだろう。
心置きなく駄べれる。
「それは、はたのんじゃないですよ~? 提案したのはゆずかんです」
「ああ。さっきまでサボってたから授業っつっても、これ受けたらもう帰れるけどな」
「柚香さんかぁ。……まぁ、だよね。ハルが自主的に~なんてありえないもんね」
随分とご挨拶な。
その霧乃のにやけ面に、上げた口角をひくつかせる。
「いやいや、俺も授業受けたかったって!」
「ほぉ~」
「だって、ほら、もうこの世界も終わりにするしさ……魔法の授業とか最後に受けときたいなぁーと」
何故こんなに言い訳じみているんだ!? ふっ、まぁ良い。
これで納得するだろう。
「はい。じゃー、後、出来なかったやつは課題なー。授業はこれで終わりだ、解散!」
雑談してる間に授業は終わってしまった。
「あらら、終わってしまいました」
シェルプも残念そうに言う。
「まぁまぁ、シェルプはこんなにリボン上手なんだからさ」
俺に辛辣な霧乃はシェルプには優しかった。
悲しくなった俺は話題を逸らすべく、霧乃に天界での話を振る。
「霧乃はセルフィッシュ様のやつ、どうだったんだ?」
「んー……どうもこうもね、『私は神なの。だから口出ししないで』の一点張り」
「実際神だしな」
うぐっ。霧乃の冷たい視線が俺を刺す。
俺が何をした!!
「畠野君はだから、モテないのね。そこは霧乃さんの味方してあげなきゃ」
「柚香……存在消すなよ! いきなり現れるとか、怖いだろ」
授業が終わって、こちらに来ていたのだろう。柚香が後ろから顔を出した。
「全員集合だな。……んー、ここらで世界、戻すか。名残惜しい気持ちもするけど」
俺の言葉に二人は同意。シェルプも頷いていたが、創造の事を知らない彼女は二人に釣られただけだろう。
同意も得たことだし、やるか!
「ベースはここ、時は昼間、主体はリアルワールド――クリエイシャル!!」
何時もの様に五秒間の瞑目の末、瞳を開く。
すぐさま飛び込んできた太陽の光に世界が変わったのだと知らされた。




